一緒にいこう
少し躊躇したが、寮の中で起こった出来事をひと通り話す。
黙って聞いていたエドルドだが、幻覚魔法のくだりから重い雰囲気に変わっていくのに気づく。なんというか、怒っているようにも見える。
「…………幻覚魔法だと?」
その表情は冷たく、声は怒りを抑えているものの、拳を固く握りしめている。
「エドルド様……?」
やはり、自分がおかしいと思われているのかもしれないと、アリシアは思わず下を見る。
管理人からの同調はあったものの、幻覚魔法という言葉を使うのはやはり浅はかだったかもしれない……
アリシアも聞いたことしかないその魔法は、かなりの高位魔法である。扱える者は限られており、術をかける相手に気づかれないよう、時間をかけ無臭の香を焚かなければならない。更に、これほど強い幻覚を見せるには、複数人の魔力が必要となるはずだ。エドルドの侵入にすら一瞬で気づく管理人の監視を何人もが欺き、更に長時間居座るなど不可能だ。
だからこそ、アリシアも幻覚だと思わなかった。
管理人が断言するまで、自分がおかしくなったのではと思っていたほどなのだから。他の人からすれば、信じがたい話だろう。
むしろ、寮を壊して、その原因をほぼほぼ不可能な魔法のせいにするなど、軽蔑されたかもしれない。
「………信じられないです、よね?」
アリシアの反応に、エドルドはハッとする。
「いやっ……そうではない」
アリシアの足を見る。前回より厳重に固定され、痛々しい。
「君に……怪我をさせたなど……許せないな」
「……幻覚魔法は、バージニア家の家系魔法だ」
重く口を開く。
「家系魔法……」
その血が流れてなければ扱えず、更にその術式は一族間でのみ引き継がれる魔法だ。そして、危険性がある家系魔法は公にされにくい。
幻覚魔法は、相手の精神に影響を及ぼす危険性の高いもの。
「……では、カレン・バージニアご令嬢が私に?」
そうだとすれば全て辻褄が合う。そもそも寮に住んでいるカレンならば、管理人の監視に引っかかることもなく、使用人たちの魔力を自由に利用できる。廊下を挟んだ距離の部屋であれば香をドアの隙間を通して送ることも可能だ。
「アリシア嬢」
エドルドはなるべく落ち着きながら話しかける。
「この責任は僕にもある……塔には僕も一緒にいこう」
「っ? ……それは、つまり。移動魔法で送ってくださると?」
「いや、僕も一緒に塔に住まわせてもらう」
〜っ????!!
エドルドの表情は至って真剣だ。1人大騒ぎするリアクションをとるわけにもいかないが、黙っておくわけにもいかない。
「〜〜っ、どうしてですか?」
「彼女は明らかに君に害をもたらそうと悪意をもってその術をかけたんだ……それも、こんな大怪我をさせてな……バージニア家の家系魔法がこんな愚かな行動をさせたとなれば、さすがに重い処罰が求められる。だが、今は証拠がない。それまで、君を匿わなければならないが、さすがにここは男子寮だ。女性の……長時間の滞在は認められない」
一瞬顔を赤らめた気もしたが、エドルドはそのまま続ける。
「ましてや君はここの生徒ではない……今回のグレスビーの件が解決するまでの非公式の対応なわけで……まだ証拠のない状況で、寮を破壊させたとなれば、学園内で匿うことも難しいだろう。管理人がぼくに君を預けたのも、移動魔法で君を安全に外に連れ出させると知っての判断だ」
「アリシア・フロン・ハッベルト嬢……グレスビーと、バージニア家の問題が片付くまで、僕に君を守らせてくれ」
片膝をつき、フルネームを呼ぶその作法は、誠意を表す最大限の作法だ。
エドルドのその真剣な振舞いに、思わずうなづいていた。
「よしっ、では参ろうか。失礼っ」
「あっ!」
再びアリシアを抱え、ホアストンを呼ぶ。
「ホアストン、聞いてたな?そちらは頼む」
「そのように」
短いやり取りで全て伝わるのはさすがだ。ホアストンと呼ぶその姿に、彼が上に立つ者なのだと改めて思い知らされる。
私には、あんな堂々とした振る舞い出来ないわ。
「……その……なんだ。」
「どうされましたか?」
アリシアの視線に気づくと、エドルドは少し言い歯切れが悪くなる。
「……そのように長く見つめられると、な」
「????」
「……いや、なんでもない。では行こう」
優しげに笑うエドルドに、今度はアリシアの方が何も言えなくなってしまった。




