ツンとデレ
「こちらでございます。アリシアお嬢様」
「こっ、ここって……」
「はい、カレン・バージニアお嬢様と同じフロアでございます」
さすが、名家が集まる学園なだけある。寮のつくりは豪華で、巨大なドーム状の高い建物がいくつも建てられている。最上階は塔の高さよりあるだろうか。
どうやってのぼるのだろうと思っていたら、真ん中に大きく書かれた魔法陣の中に立ち、ミオラが
「転移、アリシア・フロン・ハッベルトとその付き人」
そういうと、気づけばフロアにたどり着いていた。
「す……すごいわ」
「いいえ、すごいのはアリシアお嬢様です。この移動魔法は高さのみの移動にはなりますが、部屋の持ち主の名前を使うことで持ち主の魔力を消耗して発動するようになっています。高層階であるほど、人数が増えるほど使う魔力量が多いので、人並みの魔力しかない者であれば、一度の移動で倒れてしまいます」
「そうなのね……確かに、少し疲れた気も……」
「その疲れは今日一日色々あったからでしょう。拝見するに、消費魔力量はさほど変化ありません」
淡々と話すミオラだが
「ロナルドおじ様がアリシア様にこの階をあてがわれたのは、きっとその魔力量を見込んででしょう」
なぜかドヤ顔をしているようにも見える。
1フロアに2つのドアが対にあり、片方のドアには家紋が施されている。きっとバージニア家の家紋なのだろう。
よりによって、彼女と同じフロアだなんて……
「なんでも、こちらのお部屋には元々別の方が入られていたのですが、わずか3ヶ月ほどで出ていかられてしまいまして……学園を卒業することは大変名誉なことですから、途中で辞退されるなどないことなのですが。こちらの高層階だとそれなりの魔力量が求められるのもあって、ずっと空いたままになっているようです」
その途中で出て行った原因ってまさか……悪い予感は的中するようでカレンの部屋が勢いよく開く。
「どなたですかっ!? カレンお嬢様はひどくお疲れになっています。部外者は出ていってくださいませ!」
メイドが数人怖い顔で出てくる。
小柄なミオラはアリシアを抱えたまま
「部外者ではありません。今日から向かいの部屋を使うことになったアリシア・フロン・ハッベルトご令嬢です。少々共有フロアでの立ち話が長くなってしまいましたが、血相を変えて大きな声を出されるあなた方よりもはるかに小さい声でお話ししておりましたし、消灯時間でもないので指摘されることはしていないかと」
「ミ……ミオラさん」
これ以上関係性を悪化させるのはかなりまずいのでは?
アリシアは慌ててミオラの口を塞ごうとする。
「……では、こちらも休養を要する方なので、失礼致します」
そのままアリシアの部屋に入る。
「ミオラさん?あの、降ろしてもらって大丈夫ですよ?」
無言のミオラはベッドへアリシアをそっと下ろしたあと、膝から崩れ落ちる。
「っ!? やっぱり重かったですよね! ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「っわたしっ、また嫌な言い方してしまいましたよねっ……アリシア様のお世話を任せてもらえたのに……いきなり角が立つような言い方を……あれではアリシア様に敵を作ってしまったも同然ですよね。す、すみませんっ」
???
ポーカーフェイスで何を考えているか分からなかったけど、多分歳も私より下? よね。本来なら格上の身分の方なのに私の世話人として指名されてもしかしたら怒ってるのかとも思ったけども……
なんだか、可愛いわ……
「……ミオラちゃん、謝ることはないわ。バージニア家……カレンさんとはもう既に揉めていて、今回のがきっかけにはならないわ。私みたいな格下のお世話をしてくれるだけで感謝していますわ」
つい「ちゃん」付けで呼んでしまった。
短期間、ロナルド様からの支持とはいえ、私なんかに仕えてくださることになって、ご不満かと思ってましたが……いい娘そうですわ。
「うっ、アリシア様……あ、ありがとうございます。私、格上なんて……そんなものではありません。一族の中でも、オーラが読めない私は落ちこぼれで……」
目を赤くし、無理して笑っているようにも見える。
「……」
高い身分の一族に生まれたその期待と重圧はきっとアリシアでは想像できない。
「あっ、でも、魔力量ですとか、怪我とかの負のエネルギー変動には気づけるので、アリシア様のケアではお役に立てるかと思います!」
慌てて取り繕うと、大きく息を吸う。
「取り乱してすみませんでした。初めての、それもロナルド様からの任務とあって……そのとてつもなく緊張を……それと、アリシア様、あの……」
なんだろう。ツンからのデレが可愛すぎる。自宅の使用人たちは皆、昔から支えてきた年齢層も高めだったから、こんな可愛らしい子が側にいてくれるなんて……
「あの……先ほど……」
すごくモジモジしていますわ
ロナルド様といい、カクシマディア家はスイッチのON/OFFが、激しい気が……
それだけ周りからの重圧もすごいということなのだろうか。
「……先ほどの私の呼び名ですが……」
??!!
「っあぁ!私ったら、つい……ごめんなさい。馴れ馴れしかったですわよね」
そうだ、つい心の声が出てしまってたんだわ。いきなりちゃん付けなんて、先ほどロナルド様にアリシアちゃんって呼ばれて引いてたくせに。人のこと言えませんわ……
「いえ、あの……良ければ2人の時は、そのままにしてもらえると嬉しいです」
きゅーーーんっ
頬を赤らめ嬉しそうにはみかむ姿に思わず心臓をつかまれた気分だ。
「……分かったわ。短い期間ですが、宜しくお願いします、ミオラちゃん」
「っ! はい、アリシア様」




