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しばらくはここでの暮らしが良さそうです

「エドルド・ログ・ディフェンサだと?」


 意を決して、これまでの経緯を父に話した。よく考えれば、こんなに長い時間自分のことで父と話したことがあっただろうか。


 どのような反応をするのか、全く予想がつかなかった。普通の父親であれば、未婚の娘が仮とはいえ住まいに2人きりの状態で殿方を呼ぶことを良しとしないだろう。たとえ、健全な過ごし方であったとしてもだ。ましてや、知らなかったとはいえ婚約者がいる身の殿方だなんて。



 ……そもそも、エドルド様も候補とはいえそういう方がいるなら先に言っておくべきでは? 急に態度を変えてきたり、クッキーを持ってきてくれたり……優しくされれば、勘違いするに決まって……


 そもそも特別になにか勘違いなどしていないですけども!



 などと余計なことを考えていたが、父の最初の言葉がまさかエドルドとは思っていなかった為、正直、並の父親らしい反応に心底驚いた。



「……彼はそう名乗ったのか?」


 ん? 思っていた返しとは違い戸惑う。


「えっ、えぇ……私の記憶違いでなければ間違いありませんわ。」


「そうか……」


 えぇっ? それだけですのっ?


 思わず突っ込みそうになる口を必死でおさえた。

格上の貴族様を拳で叩きのめそうとしたとか、一緒にランチをしていることだとか、デート……ではないが森に入ろうとしたら自称第一候補の婚約者が現れたこととか、その従者にずっと生活を外からとはいえ監視されていたこととか、そもそも東の森の薬草の詳細ですとかっ! 掘り下げるべきところは山のようにあったが……


 まぁ、私に関しての興味は元々この程度でしたものね。お父様らしいですわ。


 とりあえず、アリシアが伝えるべき事情と肝心のグレスビーの状況まではしっかり報告できた。


 よく考えれば今回の対話も、父と娘というより、学園の従事者として報告を受けているだけな気もしてくる。


「……ところで」


 父が口を開いたタイミングで、ドアが勢いよく開く。


「アリシアちゃんっ!! 救護班連れてきたよ!」


 全力疾走できたのか、ロナルドは滝のような汗をかいている。


「っ!?」


 ロナルドの様子に、救護班の方は驚いている。


 あぁ、あのいかにも仕事の鬼ですキャラは本当にあの場だけの演技ではなかったのですね。

 ロナルド様、部下の方々が動揺してますわ。


 だが、救護班の動きはさすがで、あっという間に足を動かないように固定してくれた。


「ありがとうございます」


 人に包帯をまかれたのは随分久しぶりだった為、くすぐったい気持ちになる。


「ご苦労。こちらの令嬢への聞き取りは終了だ。私が送って行こう。下がって良い」


 ロナルド様……今更取り繕っても、余計混乱させるだけな気もしますわ……。




「さて、塔に送るよ。アリシアちゃん」

 そういって、アリシアを抱えようとする。



「うぇっ!?い、いえ、結構ですわ」

 さすがに抱っこは恥ずかしい。


「それに、グレスビーの件は終わってませんし……」


「あぁ、それならもう手配済みだ」




「アリシアちゃんへの聞き取りは、嘘がなんなのか確認するのが目的だったからね…他の人への聞き取りで先に対応してたんだよ。ごめんね」


 ロナルドは少し申し訳なさそうに話す。


「では……」

 お父様の聞き取りは単なる事実報告の確認? でしょうか。


「グレスビーが捕獲されるまでは外に出るのはやめた方がいいだろう」


 ロナルドの抱えようとした手を押さえ、父が制止するように意見する。


「っ!? そうだね。まぁ、ぼくが送れば道中に関してはまったく問題はないだろうけど。確かに夜は冷えるね。それに、この足だとしばらく動けないだろうし。うん、あの塔の階段は無理だね。アリシアちゃん、足が治るまではこちら(学園)にしばらくいようか」


「え?」


 いや、だって……ここは出来れば、凄くいたくない、とは言えない。


 父の意見だ。反論しにくい。



「アリシアに構いすぎるな?」


 おそらく甘やかすな、という意味ではないだろう。明らかにロナルドに向けて強調して言っている。


 アリシアと親子のような時間を過ごせるのではと期待していたロナルドだったが、さすがに実の父親に釘を刺されると従わないわけにはいかない。



「……分かったよっ。そもそも、君がアリシアちゃんの面倒を見るべきだと思うけど」



「……無理だろう」


 うん。無理ですわね。

 思わずアリシアも強く頷いた。父に人の世話をできる生活力があれば、そもそもアリシアはここへ来ることもなかったのだから。



「なんか、ごめん……でも困ったなぁ。ぼくの部屋にしばらく静養させようと思ったんだけど。特別扱いするなと言われると、そうもいかないし……そもそと空いている部屋がねぇ」


考え込むロナルドだが、

「うーん、空いてる部屋はあるにはあるんだけどねぇ」




 なんとも言えない眼差しを向けられる。


「……まぁ、こちらもなんとかしておくからっ!」


 そう言って、1人で納得すると

「安静にしないと治りも悪いからね。1人世話人を手配するくらいは、構わないだろう?」


 ロナルドの言葉に

「宜しく頼む」


 父が頭を下げる。


 っ!?


「お父様……」

「んじゃあ、アリシアちゃん。さすがに女子寮にぼくが抱えて連れて行くわけには行かないから、少し待っててね」



 そう言ってしばらく、

 1人の女性が使用人の格好で紹介された。くるくるカールがかったショートヘアにロナルドと似た赤髪をしている。


「アリシアちゃん。こちらはミオラ。ぼくの遠い親戚の子で普段は学園の救護班に所属しているよ。まだ試用期間中だけど、救護の腕は確かだから! 宜しくね」


そう言って、少し怖い顔をした彼女と挨拶を交わす。


「こんにちは、アリシア様。短い期間ですが精一杯お勤めさせていただきます」



 そんなっ!?

 目上の方に世話をしてもらうなんて!!

 アリシアが断ろうとすると


「ミオラも、名前にしばられるより、個人の力を身につけたくてここにきたんだ……今回のもいい経験になるはずだから、よろしくね?」


 拒否権はないよ、とでも言われているような強い圧を感じる。

「よ、宜しくお願いしますわ」


 小柄だが力のあるミオラは一気にアリシアを抱える。


「では、失礼致します」

 

 されるがまま、自分より小柄なミオラにそのままアリシアは女子寮へと案内される。







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