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何も見ていないようにお見受け致します

 エドルドの発言に、カレンは更に睨みつける。だが、一度目を閉じ、今度は笑みを浮かべる。


「えぇ、第一有力の婚約者候補ですもの。婚約者も同然ですわ。どちらにしても、私なら、こんな薄暗いところであいびきなんて軽率なこと致しませんわ」


「まったく……ぼくは君に興味はない。君の話は誰がどこでお茶をしていただとか、授業の話をしたかと思えば、退屈だっただとか。先生が破廉恥だとか、実力もないのにコネで入った君はここにふさわしくないと、前にも伝えただろう」



 うんざりしたように答える。

「君が第一候補なのはお父上の人柄があってこそだ。君自身の中身が薄ければ僕が受け入れることはない」



 真っ赤になったカレンは、淑女らしくしていた振る舞いを保てずにいた。

「努力してますわ!この手入れされた身なりも、お化粧も……こんなへんぴなところに来たのも全て貴方様のためですわよっ! なのに、こんな魔女のところに通っているなんて噂まで……どこまで私に恥をかかせますのっ?」


 カッとなったのか、大きな声で怒鳴る。


 アリシアは、彼女の気持ちが分からなくもない。たった一晩とはいえ、誰かのことを気にして着る服とを悩んだために、いつもより何倍も時間を消費した。なんだったらそのせいでどこかコンディションも悪い気もする。


 それを一切無駄と無視されるのは、理不尽な気もする。


「そこのっ!」

 アリシアを指差す。


「そこのみすぼらしい何の努力もしないような人と一緒にしないでほしいですわ!!」


 前言撤回しよう。こんなでも私になり考えましたが?


「……人をいきなり魔女とか、そこのとか、指差しなどしないで欲しいですわ。私はアリシア。アリシア・フロン・ハッベルトです」


アリシアも話す勢いが止まらない。


「なんの努力もしていないとおっしゃってましたが、塔の周りを見張らせていたわりには、何も見てないようにお見受け致します。朝日が昇る前に塔の外の清掃活動、階段でのぼるしかない塔中の窓を全て開けて換気を行い、薪を割ってパンを焼き、家事一切を1人でこなし、塔のトラップが発動するたびに崩れる部屋の片付けをし、そちらの婚約者候補の方が来るまでに夕食までを用意。その合間にも片手には賢者様が残したとされる書物を読み、夕方にようやく自分の時間をとれたと思えば、父が帰ってから寝るまで食事の準備片付け、寝たかの確認まで行う私が何の努力もしていないと?」



 普段頭の中で考えることが多いアリシアが、言葉にすると長かった。


 カレンの従者は、当然塔の外からアリシアを監視していた。彼女が本当に自分たちの仕えるお嬢様と同じ年頃の令嬢かと、気の毒に思うほどの生活だった。ハッベルトといえば、力こそない弱層の貴族だが、それでも彼女の父、ハッベルト氏は貴族の間でも有名な研究者だ。


 平民出身だと、身弱な一家だとさげすむ者が多いが、自分たちが病にかかった際にはまっさきにすがりつく。


 病で伏せがちな奥様も、ベッド上で領土の管理は欠かさずに行っているおかげで、ハッベルト家の領地は豊かだと言われている。


 そんなハッベルト家のご令嬢がこのような生活を?



 従者からの報告にはカレンは興味なさそうだった。


「エドルド様が彼女のために食べ物を?食べ物を施してあげてるのね……なんて卑しいのかしら、あの魔女は」


 そこだけを切り取ってしまう。


「お嬢様、そのような表現は淑女として……」

「私に指図しないでっ!」


 カレンお嬢様を甘やかしすぎないようにと、ご主人様から言いつけられているものの、奥様が一人娘だからと過保護に育てられたお嬢様は、従者らの聞く耳をもたない。


 婚約者候補止まりなのも、お嬢様の幼稚さ故なことは分かっているため、今更になって両親は厳しくしようと、少しでもエドルドとの距離を詰められればと、なんとか学園に入学させたのだ。


 辺境地であれば、自分を見つめ直せる時間が取れるだろうと、期待とは裏腹に、エドルドヘの監視をさせるなど、行動は執拗になってしまったのだ。



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