あれ、私の為でしょうか
「やぁ、アリシア嬢。今日はうちの執事お手製の焼き菓子を持ってきたんだ」
あれからエドルドは毎日お昼時にやってきては、以前よりも紳士的な対応をするようになった。
というよりも、なぜか優しくなった気がするのは気のせいだろうか。料理を持って来てくれるだけではなく、お菓子まで持ってきてくれる。それだけではない。
ナイフとフォークを使いながらゆっくりと食事をするのだ。もちろん、話す内容は塔や魔法についてだが、アリシアの考えを聞いてくれる。初めは戸惑っていたアリシアも、少しずつ、一緒の時間を楽しむようになっていた。なにより、この持ってきてくれるお菓子がたまらない。
砂糖こそまだ手に入れやすいが、焼き菓子の中には、贅沢にチョコレートが使われていた。
「〜〜っ! 美味しいです。サクサクで、甘くて」
思わずゆるむ顔に、エドルドも顔をほころばせる。
「気に入ってもらえて良かった。ホア爺、いや執事も喜ぶ」
「……もしかして、エドルド様は甘いものはあまり好きではないのですか?」
広げられた焼き菓子には手をつけず、アリシアの入れたコーヒーばかり飲んでいる。
「いやっ、まぁ。好きな人が食べるのが1番だ」
ゴニョゴニョと言うと、再び食後のコーヒーを口に運ぶ。
そういえば、最初は干しブドウやナッツの多い塩気のある菓子だったのに、日に日に甘くなっていっている気がしますわ。最初は甘党なのかと思っていたけれど、もしかして私に合わせてくださっている?
口の中に含んだ菓子がより甘味を増すような気持ちになる。
「……コーヒーのお礼だ」
エドルドは、アリシアの考えが分かったかのように言うと、話題を変える。
「ところで、目当ての書物は見つかったのか?」
アリシアと薬学の話をした時、いつもより熱心に聞いていた為、自然と母親の病の話になった。
「……ここにはたくさんの書物がありますが、聞いたことのない薬草ばかり書き記されていますの。きっと、この森に生えているものだと思うんですけど……」
実際に見てみないと確かめようがない。だが、学園の管理下にある森といっても、未開の地が多く、どんな危険があるか分からない。
父は帰宅が遅く、ひどく疲れている。薬草の書物を見つけたことをいえば、きっと、見つかるまで倒れてでも探しまわるのは目に見えている。かといって、アリシアだけで行ける範囲は既に何度か探しており、それ以上はやみくもに行くことを躊躇していた。
「……僕も同行しよう」
「えっ、それは……」
「薬学は僕も興味がある。一つでも病の研究が進めば、救われる人がいるはずだ。明日は午前で授業も終わる。その後どうだろうか?」
正直、2人ならば何かあった時、対処しやすい。でも、いいのだろうか……父にはなんとなく、エドルドの存在は言えていない。
生徒を自分の都合で危険な場所へ連れ出すのは、管理人しっかくではないだろうか……アリシアが迷っていると
「……ぼく1人でも行くぞ? 君が来ないなら明日1人ででも森へ行こうと思っている」
「それは……」
「明日いつもの時間に、東の森の出口で待っている。もし君も来たければ、一緒に行こう」
それだけ言うと、アリシアの目をじっと見つめる。
「君が来なくても僕は行くぞ」
にやりと笑う。出会った初日を思い出す。
あぁ、完全に彼のペースですわ。コレ……
意を決して、顔を上げる。
「ん?」
「ありがとうございます。エドルド様」
真正面からの笑顔に、思わずコーヒーをふきそうになった。




