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初めての経験ですわ


「今日は東の森に行こうと思います」


 学園の仕事をしながら、母の病の研究をする生活を送っているためか、父の目元にはひどいクマが出来ている。それでも、アリシアの用意した食事をとるのは、母との約束だからだ。


 父の優先事項は母であり、母との約束は必ず守る。半分眠りながらも、パンを口に放りこんでいる。いつか詰めるんじゃないかと思うほど心ここにあらずな状態だ。


 それでも、一応危険な森に行くわけだから、一言言っておいた方が良いだろう。


 アリシアの報告に、一瞬手が止まる。

「……東の森?」


 しばらく沈黙のあと、いつもならそうか、の返事で終わりだが

「1人か?」


 思わず出そうとしていたスープを落としそうになる。


 なぜ? そんな質問を……いつもはもっと無関心ではないですか! 


 塔にエドルドが来ていることは結局言えないままだった。エドルドから何か言っているのだろうか? 特に口止めをしているわけではないが……


 やましいことをしているわけではないが、殿方を1人の時に出入りさせているというのは、どう言ってもうまく言える気がしない。


 内心、緊張する。


「……いえ」


「そうか……夕刻までには戻りなさい」

 それだけ言うと、いつものように書類に目を通しながら食事を頬張る。



 ほぅっと息を吸い込む。


 最近、自分がいつもと違う自分のように感じる時がある。ただ、家のためにと淡々と過ごしてきた日々が、急に鮮やかになる。父に後ろめたさを感じたり、妙に明日が楽しみになったり……


「……着る服がないですわ」


 森に薬草を探しに行くだけだ。服なんてなんだっていい、はずなのに、どうして自分はそんなことを気にしてしまうのか、自分でも不思議だ。


「そういえば、最近トラップの発動も少ない気がしますわ。ひと通りつぶしてしまったのでしょうか」

 

 そんなことを考えながら、部屋の窓から見える学園の明かりに目をやる。


「……」


 もう寝たでしょうか……

 そういえば、誰かと外で会う約束なんて初めてですわ。きっとそれで緊張してるんですわね……

 もちろん、薬草採取が目的でそれ以上の意味なんてないですのに。エドルド様は一体何を思って同行してくださるのでしょうか。


 いえ! もともとご自身もご興味があったとおっしゃってたじゃない!! 自惚れも甚だしいですわね。まったく、そもそも賢者様ももっと分かりやすくまとめてくださればいいものを……あんなざっくりしたまとめ方では実用性がないといいますか……

どうも抜けてるところがおありな気がしますわね。ゴーレムの動きも単調な気がしますし。かと思えばランダムな爆発スイッチをお作りになっていらしてて、わたしやお父様でなければ即死してしまいますわよ! なんて、物騒なつくりで…………






「……」

「……おはようございます。お父様……」


 なぜか言い訳を永遠と考えいると、気づけば朝になっていた。


 自慢ではないが、父に生活の規則を正す以上、アリシア自身も規則正しい生活を心がけていたため、遅くても夜22時には寝て、日の出とととに起きる生活を常としていた。


 徹夜など、人生初である。


「……」

 頭がボーっとしますわ。えっと朝ご飯ですわよね。


 回らない頭で用意した朝食は、昨夜の食事を温めなおしたもの、のつもりだったが


 真っ黒に焦げたパン

 沸点を超え、火傷する熱さであろうカボチャのスープ

 殻の入った目玉焼きに

 そのまま置かれたただのりんご


 が並べられる。


「……りんごはお前が食べなさい」


 いつもはもっと食べないと! と急かされるばかりの父が、気づけば用意した分を全て食べたようだった。


 いつも出す朝食のコーヒーは、今日はいらないと断られた。なぜか胃を押さえ、コーヒーの代わりに調合済みの薬を飲んでいた。


 なぜかしら? 



 いつもより働かない頭で、時計を確認し、約束の準備へととりかかる。


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