1 ピンポーン…呼び鈴が鳴る
ピンポーン…日曜日、一階から呼び鈴が鳴る音が聞こえる。
私は二階の部屋でベッドに寝転びながらスマホ画面を見ながらスクロールしている。
「はーい。」
下から母の応答する声が聞こえる。
「あら、はい、はい、…まぁ!……あら、そうなの。いえいえ!とんでもない!こちらこそ…」
話し声を聞きながら私はインスタでお菓子作りの参考になる写真を無言でスクロールする。
私のインスタには友達、お菓子、ファッションというアイデンティティが詰まっている。
来週は何を作ろうかな…マカロンでも作ろうか。
水色のマカロンでも作ろうか…
「來未ー!ちょっと来てー!」
一階から母の呼ぶ声が聞こえる。
誰か私の知り合いでも来たのかな。誰からも連絡は来てないけど…事前連絡なしで来るとかだるいな。
「何ー?」
ベッドから起き上がり、わずかにドアを開けて気だるげに叫ぶと母は、「いいなら早く来なさい!」と私を急かした。
だるい。ガチでだるい。
クソだるさを抱えながら部屋着にボサボサ頭で下に降りる。なんならTシャツ越しに脇腹を掻きながら下に降りた。
階段を降りると玄関に母が立っていて、開かれた扉の向こうには見たこともない気品溢れるマダムと美しい少女が立っていた。
「ほら、この子。あんたと同い年で明日、あんたと同じ学校に転校して来るんだって。名前は…」
「岸谷保乃です。…よろしくね、來未ちゃん。」
いかにもか弱い女の子らしい声で挨拶する少女はか弱い声とは裏腹に力強い目で私を見ていた。
目が通常の人よりも大きいからだろうか…丸くてクリクリの目にパッチリ二重…まるでお人形さんのようだ。
「…あ、はい。初めまして。」
顔の可愛さに一瞬、ドキリとしたが、同じ学校に来ると分かって、そのトキメキはすぐに冷ややかなものに変わった。
転校生…日常が変わる合図…非常に厄介だ。
私はそれを迎合して仲良くできるほど優しい人間ではない。
「亮太郎ー!亮太郎も出てきなー!」
冷ややかに見つめていると母が気まずさを感じたのか弟を呼んだ。
私と同じように気だるげに腹を掻きながら下に降りてきた亮太郎は彼女を見るや否や急に姿勢がよくなり、身だしなみを整え出した。
「新しく斜向かいに越してきた岸谷です。お姉ちゃんとはうちの娘と同級生になるみたい。よろしくね。」
保乃のお母さんが亮太郎に挨拶すると亮太郎は保乃を見ながら頬をピンク色に染めて短く、「よろしくお願いします!」と叫んだ。
さすが剣道部で叫び慣れてるせいか声がよく通る。
保乃はそんな亮太郎に優しく微笑み返す。亮太郎の顔はタコのように真っ赤になってノックアウトの声が聞こえた。
「主人は仙台に単身赴任中なの。」
保乃の母が私の母に話すと母は感銘した。
「まぁ!私達と一緒ね。うちの主人も今、名古屋に単身赴任してて…やっぱ大黒柱がそばにいないと不安よね。」
「あら、そうなの。うちは全然。もう慣れちゃったわ。近くにいても鬱陶しいだけですもの。」
「あはは!それもそうね。頼りになる時もあるけどそれ以外は確かにそうかもしれないわね!」
旦那の愚痴に花が咲く典型的な会話を聞きながら私は亮太郎と保乃を横目にチラチラと見た。
亮太郎は頬をピンクに染めたままいかにも緊張している。
保乃はそれに気づいていて余裕の笑みを浮かべている。
何かが始まろうとしている…でも始まらないかもしれない。
果たして亮太郎の恋はいかに⁉︎
あの時、私の頭はまだそんな呑気なことを考えていた。
これから先のことなんて何も知らずに…




