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3.一五歳になりました。

 結局お兄は婚約者を正式に決めないままで私ともう一人、ジュベール侯爵令嬢マリアンヌ様の二人を婚約者候補としてずっとのらりくらりと決定を伸ばし、私とマリアンヌ様は二人一緒に王妃教育を受けました。

 実質マリアンヌ様が婚約者なんですけれどね。


 マリアンヌ様は物静かで大人しくてとても可愛らしい方で、しかも謙虚! 侯爵家の出で何かと私はと比べられてとても大変そうでした。何しろ私中身が大人だから……。

 隠れて泣いていたのを知ってお兄にマリアンヌ様には説明すべきだ! と三人で話し合い、私とお兄は前世の記憶があって、今世では他人だがあくまで兄妹としか見られない事。私の家庭環境が悪すぎで私を助ける為に婚約者候補に留めている事。

 私が結婚したいのは隣国バルリング国のヴィーラント王子である事を打ち明けたのだ。


 結果、私の境遇にマリアンヌ様は同情してくれ、お兄も私の事を妹としか見ていないという事が私とお兄の様子から察し、協力してくれる様になったのでした。

 本当に、私の家の所為で申し訳ないです。でもありがたい。

 だってもし私が第一王子殿下の婚約者から外れたらさっさと変なヤバい貴族に売られそうなんだもの。

 それが一応候補としてはマリアンヌ様よりも有力と一般評価されているから父も義母も口しか出せなくて、私の身の安全に繋がっているんです。

 

 早くマリアンヌ様を蹴散らせ! 殿下を落として婚約を決めさせろ! 何をしている! と罵倒は毎日の様にありますけどね。

 私だってマリアンヌ様に申し訳ないし、早くどうにかしたいと思ってもヴィーラント様とは国も違うしどうしようもないんだもん!


 マリアンヌ様も家から王子の正式な婚約者は諦めた方がいいのでは? とか、お兄を狙っている令嬢達から嫌がらせを受けたりとかしているし。

 うちの親があんなのでなければマリアンヌ様にも迷惑をかけなかったのに……。

 でもマリアンヌ様はお兄を信じる、と一途だし、お兄もマリアンヌ様を大事にしているし。周囲が何を言ってもマリアンヌ様は気にしないから大丈夫と私の味方をしてくれるんですもの!

 マリアンヌ様と私が仲良くならないはずはない。


 


「ファビエンヌ様、いよいよね!」

「はい」


 私とマリアンヌ様は今、貴族院学園の門の前です。一五歳になったので貴族院学園に入学なのです!

 一五歳から入学って変じゃない? って思うのは前世の記憶があるから。それに恋愛ゲームの中ですからね。一五歳からは設定上仕方ないね。

 入学前に試験があって、ある程度の学力に届いてない人は入学を拒否され、それは貴族としては致命傷になるので親はいい家庭教師を必死で探し、子は勉強を頑張ります。


 テストの結果でクラスが分けられランクをつけられるのでそりゃ必死にもなるよね。王子様と一緒のクラスになれば側近になれたり、妃に選ばれたりする可能性もなくはないから。


「ファビエンヌ様、クラスを見に行きましょう?」

「ええ」


 私とマリアンヌ様、王子であるお兄もSクラスだとは思うけれど……。


 学園の門を通り、ドキドキしながらクラス分けが張り出されている昇降口脇を目指します。すでに人集りが出来ています。

 残念ながら私の推しであるヴィーラント王子は来年留学してくるはずなのであと一年待たなきゃないんだよね……本当に残念である。年は一緒のはずなんだけど国が違うからねぇ。仕方ないね。


「なかなか近づけないわね」

「そうね……あっ……」

「あ、すまない」


 マリアンヌ様と人集りの外側でのんびりしていたら、前の人が集団の人に押されたのかぶつかってきて私は危うく後ろに転倒しそうになった。が、そのぶつかってきた人が咄嗟に私を抱きかかえる様に助けてくれたので転ばずにすみました。


「大丈夫か?」

「ええ……ありがと、う……」


 ひゅっと息を飲み込んだ。ドクン! と大きく心臓が跳ね上がった!

 だって! ちょっと待って! 心の準備がっ!


 目の前には黒髪の精悍な、切長の目の薄い青い瞳の、野性味あふれたイケメンな、間違えようがない私の推しであるヴィーラント様がいたのです!


「あ……」

「……? 体調でもよくないのか?」


 やだ、声がっ! すごくいい! なんて言うの? ベルベットボイスとか! そんな感じ? 腰砕けになりそう……。


「おい?」


 あ、本当に気が遠くなってきちゃった。だって今ヴィーラント様の腕の中にいるんですよ? 夢ですか?


「ファビエンヌ様!?」

「ちょっ! おい!?」


 あ、すみません……ブラックアウトしちゃいます。……私、鼻血出てないよね? 本物……ヤバいです……。






「う、ん……?」


 あら? どこでしょう? 見慣れない天井……また転生したんじゃないでしょうね? それともやっぱり事故によって意識不明か何かだったのが目が覚めて日本に帰れたとか? だって、カーテンでベッドが仕切られていて天井が病院とかそういう感じなんだもん。


「め…………ファビエンヌ……目が覚めたか?」


 ああ……どうやら日本には帰れない様です。お兄だけどお兄じゃないアンセルム殿下の声がしました。


「はい。目が覚めました」


 仕方なくのそのそと起きだす。はぁ……やっぱファビエンヌのままだったか。ここはどこでしたっけ?


「あ……」


 思い出した! 私の! 推しのヴィーラント様がいたんだった! わたわたと横になっていたベッドから起き上がり、脱がされていた靴を履くとカーテンをシャッと開けた。


「お兄……じゃなくて! 殿下! ヴィ……」

「落ち着け!」


 慌ててお兄の胸元を掴んで揺さぶろうとしたら大きな声で止められた。うん?


「ファビエンヌ様、お目覚めになられてよかった……」

「……大丈夫か?」


 なんと! マリアンヌ様とヴィーラント様もそこに! いた!

 どうやらここは学園の保健室みたいでした。ああ、ブラックアウトしちゃったので保健室に運んでくれたのか……ん? 誰が? まさか……ヴィーラント様が運んでくれたとか? え? 違う? どうなの!?


「……いいか? 落ち着け」


 お兄の声が頭の上から聞こえてきた。私の脳内がパニくっているのが分かったらしい。ふう、と私は息をゆっくり吐き出しこくこくと頷いた。

 わ! お兄の胸倉を掴んだままだった!

 慌てて手を放し、そしてマリアンヌ様とヴィーラント様に顔を向け、そして頭を下げた。


「ご迷惑をおかけしました」

「そんな事ないわ。ファビエンヌ様大丈夫?」

「迷惑という事はないが……元は俺がぶつかってしまったから」

「あ、いえ! その様な事はお気になさらないでくださいませ。本当に……。あ、ご挨拶が遅れました、わたくしファビエンヌ・ド・ラ・クラヴェルと申します」


「隣国バルリングから留学してきたヴィーラントだ」

「……どうぞよろしくお願いいたします。仲良くしてくださると嬉しいです」


 ちょっとおおお! お兄! どういう事よ!? ヴィーラント様の留学は来年からでしょ!? ゲームでは! それが何で!? 何で今年からいるの!? いや! 嬉しいけども!!! お兄、絶対知ってたでしょ! 内緒にしてたな!


 こんな心の中は綺麗に隠し、ヴィーラント様と挨拶を交わした。うわーん! 目の前にいるよぉ! 本物ぉ! やばい! カッコいい! そして今はないけども、頭には耳、お尻には尻尾が生えるんですよ! 愛でたい!!!


「ヴィーラント王子は我が国の王宮に滞在している。ファビエンヌ嬢もマリアンヌ嬢も顔を合わせる事が多くなるだろう」

「ファビエンヌ嬢、マリアンヌ嬢もよろしく。それにしてもアンセルム王子には二人の婚約者候補がいるのは知っていたが、二人とも美しいな」

 

「まぁ、そうだな」


 お兄が私とマリアンヌ様を見てにこりと笑みを浮かべた。

 うわー……社交辞令だろうけどもヴィーラント様に美しいって言われたよ! ああ……どうしよう。もう脳内で大量の花が舞ってるよ!

 花が舞ってたけども、そうだった……私まだお兄の婚約者候補だったんだよね……。どうしたらいいんだろう?


「ファビエンヌ様」


 お兄とヴィーラント王子が仲良さそうに話を始めたのでマリアンヌ様がすすっと私の隣に来た。


「ファビエンヌ様の事はヴィーラント殿下が運んでくださったのですよ?」


 ま じ で す か !?


 それってお姫様抱っこされたって事でしょうか!? スチル! スチルを下さい! くっ……何故私は気を失ったのだろうか? いや、気を失ったから運んでくれたんだろうけど。

 え、どうしよう、お礼をもう一回言った方がいい?


 ちらりとヴィーラント王子に視線を向けたらちょうどヴィーラント王子もこちらを見ていて目がぱちっと合った。

 うわーーー……。

 あの方にお姫様抱っこされたの? ど、どうしよう……すっごい胸がドキドキなんですけど。そしてかぁっと顔が熱くなってきた。恥ずかしいし、嬉しいし。もう気持ちがぐちゃぐちゃだよ。思わずヴィーラント様から目を逸らせた。


「うふふ……」


 マリアンヌ様が口元を手で押さえて可愛らしく笑っていた。


「な、なんでしょう?」

「ファビー、可愛い」


 うくっ! ここで愛称をもってくるかな!?


「マリー、からかわないで」

「だって。ファビーのそんな顔初めて見たわ」


 そりゃあそうでしょう! 今まではヴィーラント様が目の前にいなかったもの。


「それにしても……ファビーが言ってらしたのはあの方で間違いないのね?」

「うん。前世から好きだったんだよね……」


 前世では実在する人ではなかったけれど。でも何回ループしたか、という位ゲームをやり込んだ。勿論ゲームの情報をそのまま今のヴィーラント様に当てはめちゃいけない事は分かっている。だって私だってお兄だってゲームとは違う人になっているし、現に私は殿下の婚約者にはなっていない。


「ファビー、がんばって! 隣国の王妃になる為に王妃教育もがんばったんでしょ!」

「うん……」


 でも私一人ががんばっても果たしてヴィーラント様が私に好意を持ってくれるのかは別の話なわけで。

 でも、がんばる。

 王妃になるための世界情勢だとか各国のマナーとか、外国語とか、色々マリーとがんばったんだもん。ヴィーラント様だって王太子だもの、そこら辺のお花畑な子なんか妃に選ばないよね?

 お兄情報でヴィーラント王子には婚約者はいないようだとは聞いていたけれど、一体お兄はいつの間にヴィーラント様と懇意になっていたのか。

 二人でにこやかに談笑しているよ。

 

 それにしてもカッコいい……。乙女ゲーの世界なので制服があるんだよね。男子の制服はちょっと軍服みたいなのでヴィーラント様にすごくよく似合っているよ。


 

 

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