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2.妹を脳内お花畑から脱却させよう!

 お兄がどうしたらいいか考えて進めておく、というのでお兄にお任せして私は父と一緒に公爵家に帰ってきました。


 帰りの馬車の中では父にくどくどと、殿下と使用人を外して仲良さげに話したのに婚約者になれなかったのか、と怒られました。怒られようが何しようが無理はものは無理です。父には言わないですけれど。

 父はさっさと本宅へ。私は離れに行きます。離れ、なんて言っているけど物置小屋に毛が生えた位のボロの小屋です。

 

 一応公爵令嬢としての最低の教育はしてもらっていますが、そういう時は本宅に行って家庭教師から妹のメロディと一緒に受けています。メロディが勉強をする気もないし覚えないしで色々滞っている事も多々ですが。

 私はおまけです。


 今日みたいに王家にお呼ばれとかされちゃった時の為の保険なのですよね。万が一にでも公爵家が娘に教育を施してないなんて知られたらね。外聞が悪いもの。

 まだメロディは四歳だし、私も五歳だから集中力とかなくても当然といえば当然なんだろうけど、メロディには令嬢としての自覚は全くなさそうというのが……。


 乙女ゲーでもありがちな脳内お花畑のヒロインだったしな! あのゲームのままの存在になるならヤバいかも。だって王子様はお兄だし、お兄は絶対メロディは選ばない方向だよね?


 アホな子がどこかに嫁にいけるのだろうか? ゲームでは選び放題だったけど。

 一応私は義妹の事は嫌いではない。父と義母が問題なだけで。メロデイはお菓子を持ってきてくれたりもするし。一応私の境遇の事は朧気に気づいてはいるらしい。父と母に隠れてこそっと来るからね。

 幼い子にも気を遣わせるってダメ親じゃん。


「おねえちゃま」


 父が帰って来た事で私も帰って来たと分かったのかメロディがとてとてとやってきた。メロディはいつでも可愛いピンクのふりふりのドレスを着ている。いや、別に羨ましくはないけど。自分の顔や見た目にピンクのふりふりが似合わない事はよく分かっているので。


 メロディは典型的なヒロインの容貌だ。ピンクの髪に薄い水色のぱっちりした目。ふわふわの髪。くりくりの瞳。うん、可愛い。分かる。

 私はというと、乙女ゲーの中では冷酷、冷静、冷徹、みたいな事を言われる位で、薄い青みかかった銀髪に薄いグレーの瞳。見るからに冷たい印象だよね。小さい頃からこんな境遇じゃお年頃の頃に表情がなくなるのも分かるわ。

 中身が私になっちゃったし、攻略筆頭王子様がお兄になっちゃったから多分乙女ゲーの様にはならないとは思うけれど。


 うん。メロディの中身もちゃんと変えてあげないとね。多分、今のまま放置していたら乙女ゲーの中のヒロインみたいに脳内お花畑娘が出来上がるんじゃないかな? メロディをきちんとさせよう。そうしよう!


「メロディ、いらっしゃい」


 にこりと笑いかけるとぱーっとメロディが嬉しそうな顔をした。あら、可愛い。マジでメロディはほんっと可愛いよ! さすがヒロイン!


「おねえちゃま!」


 とてとてと来て私に抱き着いてくる。よしよしと私は妹を抱きしめた。するとメロディはますますぎゅっとしがみついてきたと思ったらえぐえぐと泣き出したのだ。


「あらあら、どうしたの?」


 今日は余所行きのドレスだ。汚されたら侍女が大変だ、と私はメロディから離れハンカチを出してきた。私の持っている数少ない持ち物の一つだ。外出時用ではなく普段使いの物なのでちょっと薄汚れている。


「……なんでもないの」


 メロディの涙を拭ってやると、メロディはぐすんぐすんと鼻を鳴らしながらにこりと笑ってそう言った。

 ……寂しいのか。父は本宅でも大きな声で騒ぎまくっているし、メロディの母は社交だなんだと出かけているか、家にいてもメロディに構ってもいないのだ。

 よしよし、と私は一歳差なのでそこまで身長に差のないメロディの頭を撫でた。


「お姉さまがご本を読んであげるわね」

「はーい!」


 ボロ屋で二人仲良く本を持って、メロディに本を読んであげる。ちなみに同じ勉強をしているはずなのにメロディはまだ全然文字は読めない。私は字を覚えてから図書室からこっそり本を持ってきて読んでいるんだけれども。

 父も図書室には近寄らないので結構安全なんだよね。図書室。


「メロディも字を覚えなきゃダメよ? 覚えたら一緒に声に出して読んでみましょう?」

「おねえちゃまといっしょに?」

「ええ。どう? 文字を覚える気になったかしら?」

「めろでぃもおぼえる!」

「えらいわね。お姉さまと一緒にお勉強しましょうね」

「うんっ!」


 メロディがキリっとやる気満々の顔になった。よし、いいぞ! このままメロディをよいしょしながら勉強させてお花畑を卒業させてやらねば!

 メロディも公爵家令嬢だけれども、義母が男爵家の出身という事で王子様の婚約者候補に名が挙がらなかったらしいんだよね。私は生母が侯爵家の出だったので。


 私から言わせたら男爵家だろうが、公爵家だろうがバカはバカだし、頭いい人は頭いいだろと思うんだけど。貴族的に、特に王族にとってはそうはいかないらしいので。

 

 ……そういえばお兄は自分の嫁候補に誰を選ぶんだろう? そのうち分かるだろうとは思うけど。




 ◇


「アンセルム、今日はクラヴェル公爵家のファビエンヌ嬢と仲良く二人で話していたそうだな? ファビエンヌ嬢に決めるのか?」


 来た! と夕食時に俺は身構えた。カトラリーを置き、父に顔を向けた。


「いえ、まだ決めたわけではありません。だって僕はまだ五歳ですよ? 決められるはずありません」


 五歳で婚約者を決めるとか普通じゃないよな!? 五歳で女子の良し悪しが分かるはずがあるか!


「そうか? 今までご令嬢方とは誰とも二人きりで対面で話したことがなかったのに? ファビエンヌ嬢は気に入ったのであろう?」


 なんでそんなに芽衣の事を推してくるんだよ! 芽衣の言っていた強制力じゃないだろうな?


「まだ候補のご令嬢全員と会っていませんので不確定な事は口にはしません」

「……アンセルム、我が息子ながら出来すぎじゃないか? 学業も素晴らしいと報告をもらっているし。次代は安心だな」

「父上はまだまだお若いですから、長く王位に就いていて下さい。僕はその間に勉強をしておきます」

 

 そう言って再びカトラリーを手にし、食事を進める。ちらっと父と母に視線を向けたがどうやらこれ以上推してくる気はないようでほっとした。

 なんとしても芽衣との婚約は回避しなければならない。


 王太子として有望とされている俺の婚約者候補は芽衣、ファビエンヌ嬢以外に別の公爵家の令嬢が三人、侯爵家から二人だ。二人とはすでに会って、あとは残り三人。最初の一人は絶対にない。五歳にしてドリル頭で、それこそ乙女ゲーに出てくるような典型的貴族令嬢だったからな。婚約者にするのが当然だという態度で来る者など選ぶわけがない。芽衣よりよほど悪役令嬢向きだといえよう。


 芽衣が乙女ゲーの事を話していた事を書き出してみないといけないな。はいはいと流して聞いていたから細かい所まではよく覚えていないが。

 後は芽衣の推しだったバルリング国のヴィーラント王子の事も調べてみるか。確かケモミミがあるんだったよな……? 本人はずっと隠しているはずだが。王子がケモミミを持っているというのは獣人との混血という事で王族では結構なセンセーショナルな事だ。


 獣人……いるんだよな。見てみたいな。残念ながら我が国は歴史ある国で獣人族は住みにくい地であるからほとんどいないのが現状なんだよな。その点バルリング国は獣人国とも距離が近いからか結構いるらしいが。


「にいさま」

「うん? なんだい?」


 隣の席でおとなしくしていた弟のシャルルが話しかけてきた。ああ、嫌いな野菜があったのか。


「その残しているピーマンを食べたら後で一緒に遊んでやる」

「んぐぅ……」


 シャルルが涙目になっている。面白い。

 シャルルも攻略対象なんだよな……。乙女ゲーでは第一王子がちやほやされて育ったためにアホな王子になって、このシャルルの方が有能王子だったはずだが。

 俺は生まれた時から俺だったわけで。どう考えてもアホ王子にはならないはず。芽衣の言った強制力がなければだが。

 シャルルはまだ四歳。有能王子になるはずなのだから鍛えれば有能になるのだろう。


「きちんと残さず食べたら遊んだ後に本も読んでやるぞ?」

「ごほん、んん……がんばる」


 ちまちまと嫌そうにしながらも残していた野菜をシャルルが食べ始めた。うぐぐとなりながらもどうにか食べ終え俺の方を見てにぱっと笑った。

 うん。弟も可愛い。


「シャルル、えらいぞ!」

「やったー! にいさまにほめられたー!」


 父と母が微笑ましいそうな目で見ていた。

 同腹の兄弟でも変な家臣が下に就けば骨肉の争いに発展する場合もある。今の所うちはそんな事はないので安心だがこれからもシャルルの事は気にしていかねばならないな。

 将来は俺の手伝いをしてもらうように育てなければ。父には姉と妹がいたがすでに嫁しており、王族は今ここにいる家族しかいないのだから。数少ない王族だ。


 シャルルは一歳下……芽衣の、ファビエンヌの義母妹と同じ年か……。メロディは公爵家令嬢だが母親が男爵家の出自という事で俺の婚約者候補からは外れた。

 それが乙女ゲーの中では姉を追いやって自分が婚約者の座に就くんだからな……。


 脳内お花畑で王妃が務まるとは思えないのだが? ゲームでは二人が婚約しました、というハッピーエンドで終わったらしいがどう考えてもその後はハッピーエンドではないと思うのだが?


 アホ王子と脳内お花畑娘でどうやって国を運営していくんだ? 乙女ゲーの中には出てこなかったけど、あれ絶対にその後廃嫡されたよな? 王族からも除籍されたのではなかろうか? 父は出来る人だ。ファビエンヌに何の落ち度もなかったことは確かなわけで。嫌がらせをされたとか妹であるメロディが訴えていたけどな!

 アホ王子は真偽を確かめもせずに婚約破棄で、ファビエンヌを勝手に追放とか。ないだろ。

 

 今回、中身が俺なのでそんな事は絶対に起こさせないが。

 芽衣はヴィーラント王子に会いたいと言っていたしやっぱ狙いはヴィーラント王子なのか。そうか嫁に行くつもりか……。

 前世では嫁に行けなかったからな。芽衣の幸せの為にもがんばらなきゃないな。


 


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