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1.異世界転生でした!

「ファビエンヌ・ド・ラ・クラヴェルと申します」

「私はアンセルムだ。ファビエンヌ嬢よろし……」


「あーーーーーー!」

「ああああああーー!」


「恋プリじゃない!?」

「恋プリかっ!?」


 ん? と首を傾げた。何故声がハモったかな?


 私はファビエンヌ・ド・ラ・クラヴェル。五歳。クラヴェル公爵家の長女で、今日はお父様に連れられて王宮にやってきました。


 煌びやかな建物に衣装。歴史の教科書に出てくるような世界です。私も子供なのにコルセットで腰をがちがちに締められて重たいドレスを着させられています。

 王宮に連れてこられたのは第一王子殿下の婚約者候補としての顔合わせとしてでした。その王子殿下と顔を合わせて挨拶をした途端に前世の記憶が蘇ってきました。


 ええ。乙女ゲーの世界でしたよ。誰か嘘だと言ってちょうだい……。


 私はファビエンヌか……。所謂、悪役令嬢枠だわ。そしてヒロインは異母妹だわ……。ひど……。


「…………恋プリ…………っておっしゃいました?」

「……………………言ったな」


 目の前には王子殿下のお顔。金髪碧眼のいかにも典型的な優しそうな王子様のお顔があります。その王子殿下の口からも恋プリって言葉が出たんですよ? 王子殿下も転生者って事? 噓でしょ……。


「何を大きな声で叫んでいる! みっともない!」


 父に怒られました。怒られたといってもこれ位なら全然平気ですけれど。


「……クラヴェル公爵、ファビエンヌ嬢と話がしたい」

「これは殿下、是非に!」


 なんかねぇ……公爵様ならもう少しどっしりと構えていられないのかしら? なぜ我が父はこう小物感が漂っているのでしょうか? 本当に公爵様なの? ……別に私にはどうでもいい事ですね。


「ファビエンヌ嬢、庭の薔薇が綺麗に咲いています。そこで少しお話をしませんか?」

「喜んで」


 さすが、五歳でも王子殿下。エスコートの為にスマートに手を差し出されました。私がその手にそっと手を添えると王子殿下が薔薇の庭に案内してくれます。

 薔薇の庭! 王宮の薔薇園で王子殿下とのデートはスチルで見ましたよ! リアルで体験出来るなんて!


 あー……私、事故で死んじゃったんだねぇ。お兄は助かったのかなぁ? イベントで出かけた帰りに駅までお兄に迎えに来てもらって事故に遭ったんだったね。

 それで恋プリの世界に転生って……。そりゃ私はかなりゲームをやり込んでましたよ? だからって転生とか普通ないわ。それとも夢でも見てるのかしら? 実は本体は病院で意識不明中で夢の中とか?

 事故にあったのは覚えている。お兄が叫んでいたのも。

 

「お兄……」


 お兄がどうなったかが気になって思わず呟いてしまいました。すると殿下が目を大きく見開いて凝視してきました。


「あの……何か?」

「いや」


 そのまま黙って薔薇の園まで案内されました。侍女や侍従がついてきていますが父はついてきていないのでちょっとほっとします。


「わぁ……」


 スチルでみた薔薇園だよ! 自分の目で見られるなんて! 隣には殿下がいるし。ただ! まだ私五歳ですが! そして本来はヒロインで私の異母妹であるメロディのスチルなんだろうけど。

 殿下が使用人に少し離れてと手を払って指示すると使用人達が声の聞こえない範囲まで離れました。


「芽衣」

「何? ……え? ちょ……待って! 芽衣って……なんで名前……」


 なんで私の元の名前を殿下が知ってるの!?


「やっぱり芽衣か……マジか……嘘だろ」

「も、もしかして、……お兄なの……?」

「落ち着け。抱き着いたりするなよ!? 声は押さえて! 使用人の耳に入るぞ」


 んく、と慌ててお口を閉じました。ここで大声を出したり騒いだりしたらいけませんね。私は公爵令嬢ですもの。


「大丈夫です。落ち着きました」


 いえ、内心は全然落ち着いていないです。だってお兄がまさか……やっぱり夢なの? でも夢でお兄が王子様ってなくない? ないわー!


「俺がアンセルムで芽衣がクラヴェル公爵令嬢ファビエンヌか……異母妹、いるのか? ヒロインのメロディ」

「ええ。おります」

「……という事は、お前公爵家では……」


 こくんと私は頷いた。

 

 私がこのゲームにはまっていた時お兄にいっぱい話を無理に聞かせていたからお兄も大体内容を知っているんだよね。

 

 ファビエンヌは公爵令嬢だけれども、生母は亡くなっていて、亡くなってすぐにメロディを連れた義母が公爵家にやってきて、その義母と父にファビエンヌは疎まれています。

 元々政略結婚だった母とはうまくいっていなかった父に男爵令嬢だった義母がすりよってきたらしいです。これは私と仲のいいうちの侍女情報ですが。

 

 攻略相手は中身がお兄だったけど、我が国ギルメットの第一王子アンセルム殿下、弟殿下のシャルル王子、騎士団長の息子のエミリアン、宰相の息子のナルシス、隣国アルドワンの王子でデュドネ。隠しキャラで実は公にしていないけど、狼のケモミミを持つ獣人の血が入った隣国バルリングの王子ヴィーラント。


「そうか……で、お前の推しだった……」

「……ここには、ヴィーラント様が現実にいらっしゃる! という事なのね!」


 あああ! そっか! 現実に! 今この瞬間にもこの世界のどこかにヴィーラント様がいらっしゃるんだね! うわぁ……どうしよう。


「会いたい!」

「一六歳になれば会えるだろ。それよりも大事な事があるだろう?」

「大事な事?」


 私はきょとんとして首を傾げた。


「恋プリの中ではアンセルムとファビエンヌは婚約していたじゃないか」

「あっ……んぐ!」


 大きな声を出しそうになって慌てて口を押さえた。そうだった! 私、というか乙女ゲーの中でアンセルム王子とファビエンヌは婚約していたんだった!


「え、お兄と婚約なんて無理ゲー」

「無理ゲー言うな。俺だって妹と婚約なんてごめんだ。だが、婚約しないとファビエンヌの、お前の境遇はどうなる?」


 どうなるでしょうね? 今日は王家から私に直接婚約者候補の打診が来たから父にドレスを着せられて一応上辺を取り繕って連れて来られたけど、普段はこんなドレスなんて着せられていないですからね。離れに一人で追いやられてる状態だし。婚約者になれなかったら餓死しちゃうかもね。


 スンとしたらお兄がはぁと溜息を吐き出した。


「ゲームの中のファビエンヌ嬢は表情もなく人形の様な感じだっただろう? それが中身は今、芽衣になっている。そして王子も。第一王子は軽薄な考えなしのバカ王子だったはずだが、中身は俺だ。色々齟齬が出ると思う」


 そうだね。お兄ったら無駄に頭よかったから。一流大学を出て、一流企業に勤めていたし。バリバリ働いていたし。


「ねぇ? これって夢なのかなぁ?」

「いや、俺達は死んでる。あの事故で」


 うわ……お兄に断定されちゃったよ。


「……まさかあんな事になるなんて、……悪かった」


「お兄は悪くないよ。むしろ悪いのは無理に迎えに来てって頼んだ私の方じゃない。ごめんね……知ってるよ。お兄は悪くない。道に飛び出してきた子供を避けようとしてハンドルを切ったけど、それも私の方に電柱があったから反対に切ったんでしょ?」


「……まぁ、あのまま電柱に突っ込んだら芽衣が危ないと思って……まさか反対車線からスピードオーバーの大型トラックが突っ込んでくるとは思ってもみなかった」


「運が悪かったんだね……きっと。お父さんとお母さんとお姉ちゃん、元気かなぁ……」

「時系列も次元もどうなっているか全く分からないけどな」


 確かに。まさか乙女ゲーの中に自分が存在する事になるとは。でもお兄が一緒でよかった。心強い。


「今考えなくてはいけないのは、芽衣の、ファビエンヌの家庭環境の事だ。確認するぞ? 母親が亡くなって、異母妹がいて、ファビエンヌは虐めにあっている、でいいのか?」

「そうね。育児放棄とでも言うの? どうなんだろう? 一日にパン二個だけとかだし。着る物も碌に与えられてもないわね。一応食べ物は仲のいい侍女が隠れて持ってきてくれるけど」


「そうするとやっぱり婚約者か……いや、でもなぁ……」


 ふむ。お兄は私を助けるつもりはあっても婚約者にはなりたくないらしい。失礼な。前世が兄妹でもこの世界では他人なのに! と言いつつ私だって嫌ですけれども!


「それなら婚約者候補だったらどうだ? 一人に決めかねるとか言って二人か三人位候補に残すとか」

「うわー……お兄がハーレム築く気?」

「違うわっ! お前だって王妃教育は受けていた方が都合がいいのでは? ヴィーラントはバルリング国の王太子だろう?」


 ぽん、と私は手を叩いた。


「是非! お願いします。アンセルム殿下」

「やめろ。寒気が走る」


 にっこりと公爵令嬢の笑みを見せたら失礼な言葉が返ってきました。


「王子とファビエンヌの中身が違うんだ。少々ゲームの内容と違ってもいいだろう?」

「いいだろうけど、強制力とかってないのかな?」


 強制力? とお兄が首を傾げた。

 それにしてもさすが王子殿下。金髪だし色々キラキラだね。元のお兄もイケメンでモテモテだったけど、今の方がすっごい顔が整ってるわ。まだ五歳で可愛い感じだけど、中身がお兄で大きくなったらゲームのパッケージの王子よりもカッコよくなるんじゃないかしら?


「強制力ってのは、よく悪役令嬢物のラノベとかに出てきたんだけど、乙女ゲーのシナリオ通りに進めようとする力、みたいな?」

「するとなんだ? 俺は大きくなったらバカ王子になってヒロインのメロディに骨抜きになるのか?」


 いや、私にだって分かりませんけども。でもあるあるだよ? ラノベでは。


「メロディに会わないようにすればいいのか? しかしゲームが始まるのは学園だろう? メロディは一つ下だったな? 全く会わないようにするというのは難しいか」


 五歳児の王子ってばすっごい可愛いね! 顔がさすが王子といわんばかりに整っているし、黙っていれば天使みたいに可愛いよ。……中身がアラサーのお兄だけど。


「とにかく今は乙女ゲーの中のシナリオ通りに進めない方向でいいんだろう? その強制力? があるかどうかも分からないし」

「そうね。お兄は自分のお嫁さん候補をちゃんと選んでよ?」

「当たり前だ。恋プリの中では王子がファビエンヌと婚約破棄をして、ファビエンヌは国外追放、メロディと結ばれて終了だったか?」


「おおまかにはそうだね。ルートとか選択肢でちょっと変わったりするけどそんな感じ」


 断罪ルートとかそういうのはなかったのでちょっと安心する。国外追放位だったら全然平気だよ。ただ、いつそうなってもいいように自分で何か出来る事を探さなくては。お兄が守ってはくれるだろうけど、今は本当の兄妹じゃないしね。一応王子だもん。自由にならなかったりもするだろうから自衛大事だよね。


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