不意
「そう言えば、涼はさっきーちゃんが見ていたよな。あいつ、生きているのか?」
「沙希先生は力を抜いて…」
夜月はさっきーちゃんのことを思い出しながら言いたかったようだが、途中で言い淀んだ。
「全く、あなた方は…。先生がそんなに残忍な人だと思っているのですか?」
「やりかねないな」
「はい…」
俺と夜月は鵜月の驚く顔を見ないように目を逸らして涼の無事を祈った。
「先輩、様子を行きますか?」
「いや、俺も巻き込まれかねない」
夜月はさっきーちゃんが気になっているだろうが、危険な地であることは決まっていた。
「では鵜月先輩と私で見てきますね」
「へ?」
「お…おぅ」
鵜月は夜月の話に着いて行けないのか、鳩が豆鉄砲を打たれたような表情をしていた。
「ま…魔王!」
「鵜月とさっきーちゃんは気が合うと…思う」
思いたくは無いが感じていることを鵜月に伝えた。
「じゃあな」
「はい。先輩」
俺は夜月に鵜月を託して一人で部屋に戻った。
『マスターよ。良いのか?ツンデレ嬢ちゃんを向かわせて?』
「気にするな。どうせ気が合うだろ」
『だと良いがな』
クルスリアはやけに気乗りしないようで珍しく大人しくしていた。
「何かあるのか?」
『まあ。何だ。さらに鬼教師と一緒に居たら私の命の危機だからな。マスターも気をつけろよ』
クルスリアは冗談にもならない話を俺に伝えて恐怖心の共有をしてきた。
「俺は涼の心配でもするかな」
『そうだな』
今はいない連中の話をして何も起こるわけでもなく、ただ時間が経っていくだけだった。
「風呂でも入るか」
『おっ。良いな!じゃあ。私も人間の姿になってマスターのご奉仕でもするかな!』
「良いのか?」
『最近、えっちなこと無かっただろ』
クルスリアは何かと忙しくしていた俺に面白いことをしたいのか、提案してきた。
「早速風呂だな」
『おうよ』
寮の風呂は男女で分かれている。はずだった。俺が風呂の扉を開けるとそこには凛さんと鳳翠、そして凰火、綾が睦まじく入っていた。
「あれ?封魔くん!おかえりなさい」
「な!お母さん、だから言ったのに、ここは家じゃないって」
凰火は鋭い眼光で俺を睨みつけており、俺も思わず一歩下がった。
「全く。だから嫌だったのに…あなたも何ジロジロと見ているんですか!」
「えっと…。今まで男として見ていたからちょっとな…」
「本当に最低です。あとでぶっ殺しますので覚悟の準備をしておいてください」
物騒すぎる宣言をする凰火は鳳翠を演じていたとは思えないくらい恥じらいを持たせて、体を隠していた。
「え?私は楽しいよ。だって!魔王くんと話すこともなかったことだし、それに。…私が行けなかった間にも二人のお世話をしてくれたんでしょ!」
綾はそう言うと、とてもうれしそうな顔をしているが、俺はその顔が気になった。
「綾。一つ聞いていいか?」
「何?スリーサイズ?」
綾は体に自信があるのか腰に手を当てて胸を向けてきた。
「お…おう。じゃなくって、俺はお前の家族を成り行きとはいえめちゃくちゃにしたからな気になってよ」
「綾…」
凰火は俺の話を聞いて今まで聞けなかった話だったのか不安な顔で見つめていた。
「そんなこと?」
「そんなって」
「別にあの人たちがどうなっても良いと…言い過ぎだけど。私を今まで迷惑かけたんだから、ぜ~んぜん。気にしていないよ。だって、私の家族は蘆屋綾としている私だからね」
綾の笑顔は凰火の不安な表情を晴らすかのように満面の笑みを浮かべており、俺はそんな家族も良いものだと思えた。
「それで魔王くんはこの先はどうするの?」
「どうって?」
綾は唐突に俺へ話を振ってきたが、何が言いたいのか分からず、首を傾げた。
「どうって、それは私と凰火ちゃんはフリーだし、私たちはどうかなって」
「ちょっと、どうして私もなのよ!」
「え~!封魔くんが私の義理息子になるの!二人とも頑張って!」
「お母さん、真に受けない!綾ちゃんもふざけない」
凰火は綾と凛さんの対応に困り果てていた。
「そう言えば、鳳翠の調子はどうだ?」
「まあ。俺の体に混沌を無理矢理入れたような状態だからな。それなりに負担が大きかったみたいで、もうしばらくは安静にするようにって話らしい」
鳳翠は何事も冷静に話をしており、この先のことを見据えている表情を向けていた。
「でもまあ。俺のいつか、この力を使いこなせるようになってみせるさ」
「その時は俺と今以上に頑張らねえとな」
俺と鳳翠で話す男の友情を築いている様子に凰火と綾は何か怪しい企みをしているようにも見えた。
「私たちは先に上がるね。魔王くん!私たちが入った残り湯を堪能してね!」
「ちょっと!変なことを言わないでよ!魔王!絶対殺すいつか殺す!」
綾と鳳翠とは仲良くなった気がするが、凰火から何かと強い殺意を感じるが、でも少し前にも感じたことのあるなつかしさがあった。
『マスター、もしかして別の女を想像していないか?』
「ああ。そう言えば、帰って来てからあまり話していなかったな」
クルスリアの揶揄いも無視して、俺は夜月の友人であり、俺を憎む彼女のことを思い出していた。




