入り乱れる世界
「彩花は大丈夫なのか?」
「落ち着いてきたわ」
ホテルに来て一時間程経ち、一五時になっていた。
「それにしてもどうして船だったのよ?」
彩花は船で来たことに納得していないようで不満を言ってきた。
「仕方ねえよ。旅行手段が船だったんだよ」
「一週間も船旅をするなんて聞いていないわよ」
俺は唸る彩花の話に聞き入れるだけに留めた。
「俺は男だからな。嫌だろうから後のことは美沙は置いといて…香ノ木さんに言ってくれよ」
俺がそんなことを言うと彩花は右手を上げて左右に動かした。
「分かったわ。」
男は一人。部屋が二部屋を予約しているため、女子は三人で泊まる予定になっていたはずだった。
「先輩。私は街で食べ物を買ってきますね」
俺が泊まる部屋にはいつの間にか、夜月も泊まることになっていた。
「なあ。夜月は俺と同じ部屋で泊まることに抵抗はねえのかよ」
「ありますよ?」
夜月は当たり前じゃないかと言わんばかりに即答して来た。
「じゃあ何で一緒に泊まるんだよ」
「そうですね…。他の方はあまり先輩とは一緒になりたくないと思いますし。美沙さんだとまあ。危ないですから消去法となりますか。でも旅行なので先輩も楽しくなると良いかと思っていますよ」
夜月は旅行でもいつもと変わらず楽しそうにしている。
「夜月。海外で女子一人は危ねえから俺も行くよ」
夜月は食べ物のない状況が心配になったようで買い物へと行こうとしていた。
「あ…ありがとうございます。先輩」
俺と夜月は近くのスーパーに買い物へ向かった。
「なあ。さっきから何だ?」
夜月はホテルから出てすぐじっと俺の方を見つめていた。
「いえ。先輩は初めからそんな感じでしたね」
「何だよ?」
夜月は何かを理解して自己完結したようで俺を置いて行った。
「先輩が買いたいものはありますか?」
「そうだな…」
俺は麺コーナーへ向かい、日本でも売っている麺を買うことにした。
「彩花さんと美沙さん、香ノ木さんのご飯も買いますね」
夜月は三人のご飯を考えながら選ぶ。彩花にはお茶とご飯。美沙にはジュースとお菓子。香ノ木さんにはコーヒーとパンを買った。
「海外でもご飯はあるんだな」
「アジアにはご飯を主食にしている国が多いので、それにまあ。観光に来る外国人に向けたものもあるのでしょうね」
夜月とたわいもない話をしていると突然、周囲の異様な気配に襲われた。
『ゴトン』
「すみません先輩。落としてしまいました。」
「大丈夫なのか?」
夜月は驚いて落としたのか。それとも自然と手から離れてしまったのか持っていた籠を床に落としてしまった。
「あはは。すみません」
夜月の額には汗。籠を握る力も少し強くなったようにも見えた。
「夜月?」
「先輩。ここは公共の場。それに外の世界です。襲撃が来たら回避が難しいので他の三人にも共有します」
夜月は冷静に小声で話を進め、自然と買い物を終えた。
「先輩。戻りましょう」
「ああ。」
俺たちは三人の部屋へ向かった。
「香ノ木さん。開けて下さい。」
扉が開くと勢いよく隙間から何かが飛んできた。
「夜月!」
俺は夜月を庇うように覆い被さり扉から離れた。
「先輩!急にどうしたのですか?先輩?先輩?」
「あれ?可笑しいな。夜月を切ったつもりだったけど。外したか?」
「あなたは!どうしてここにいるのですか!」
「良いだろ。そんなこと。まあ。魔王を先にやるのもありだな。まあ。一緒に切れば問題ねえか」
聞き慣れた声。最近出会ったばかりだが学園でも仲良くしていた男の声が聞こえた。
「どうして…どうして!」
夜月の理解できていないような表情に何も動けない俺。どうやらお腹の辺りに攻撃を受けたようで激痛で動けなくなったようだった。
「夜月。落ち…着け。」
「思っていた以上にしぶといじゃねえか。魔王。でも大人しくするのが賢明だぞ。こっちには人質が四人もいるのだからな。」
「お前は一体。何が…目的なんだ!」
俺は激痛を耐えながら攻撃をしてきた男の声に目を向けた。
「…ほう…すい!」
「気安く俺の名前を口にするな。」
鳳翠は俺の左の胸に剣を突き刺し、押し込んで夜月にも届くように押し当てた。
「ぎゃあああああああああ!!!!」
「じゃあな。魔王。夜月!」
薄れる意識の中。歩く音だけが遠くなっていくのが聞こえた。




