桃源郷の旅準備②
「子どもと話すことなんて当たり前のことだろ?」
俺はそう言い、希を香ノ木さんに近づけた。
「えぇっと」
香ノ木さんは汗を掻きながら手を慎重に伸ばして抱えようとする。しかし、その前になって希は今までが嘘のように泣き叫び始めた。
「急にどうした?」
俺は希をあやして落ち着かせる。
「もしかして、香ノ木さんって。希に嫌われているの?」
「そうですよ!どうせ。私は他の方と違い、怖いですから相手にしてくれないどころか触れさせてもくれないのですよ!」
香ノ木さんの反応は希と遊ぼうと試みた結果、嫌われてしまった後だった。
「俺も手伝いよ」
香ノ木さんは俺の方を複雑そうに見てきたが、やはり希と仲良くなりたいようで頼ってくれた。
「まずは希と一緒に遊ぶ所からだな」
香ノ木さんは俺の動きを真似して希の視線を向かせようと頑張る。
「希さん。一緒に遊びましょう」
「うぅぅ。」
希は俺の体にしがみ付き離れないようにしてきた。
「希。香ノ木さんと遊ぼう」
怖がっている希をどうにか離して香ノ木さんと遊びやすい雰囲気を作ってみた。
外の花々。シロツメクサを花のかんむりにして希にあげてみた。
「どうだ?希?」
希は花のかんむりに喜んで多少のことでは悲しくならないくらいのご機嫌になった気がした。
「香ノ木さんも一緒に…」
「あなた。そんなこともできるのですね…」
香ノ木さんは俺が子どもに喜んでくれそうな行動ができないと思っていたためなのか想像以上に戸惑っており、俺と希に近づこうとはしない。
「ほら。こっちに」
俺は近づかない香ノ木さんの手を引き、近寄らせて様子を見てみる。
「希さん?」
香ノ木さんはようやく決心が付いたのか希に触れて仲良くなろうと頑張り出した。希はそんな姿に泣かずに自分から近づいてきた。
「あっぅぅ!」
喜んでいるのだろうか。希と香ノ木さんは仲の良さそうな雰囲気で遊び出した。香ノ木さんは少しぎこちない様子で抱っこしてみた。
「希さん。楽しいですか?」
香ノ木さんは心配そうに希を見つめて意識をしている。希は落ち込んだ様子も見せずに笑顔で楽しんでいるようだった。
「希も楽しそうだな」
俺は香ノ木さんの心配を無くそうと感じたことを言った。
「そう…ですか?」
希を見つめた香ノ木さんは嬉しいようで次の遊びを始め出した。シロツメクサで指輪やネックレスを作って挙げていた。
「香ノ木さんは器用だな。」
「あなたも作っているではありませんか」
希は香ノ木さんが作ったアクセサリーを付けると目を擦り出した。どうやら遊んで疲れたようで草の上で寝転んだ。
「希さん!」
香ノ木さんは急いで希を抱っこして学生寮に連れて行こうとしていた。
「私はこの子を寝かせますのでこれで」
「俺も行くよ」
俺は香ノ木さんが抱えている希を見て嬉しくなり顔が緩んだ。
「何かありますか?」
香ノ木さんは俺をジト目で見ており、一歩下がっていた。
「なんでもないよ」
「そうですか。あなたは学生寮で他の方と話してはいかがですか?」
香ノ木さんにとって俺はやはり敵なのであろうか。どれだけ関わっても夜月や彩花のように話してくれる気配がない。
「そうだな。まあ。魔王だし。怖がられないかは心配だが、話してみるよ」
香ノ木さんは俺の話がよほど可笑しかったのか。くすくすと笑い出した。
「そんなに可笑しいか?」
「あなたにも怖がられる意識はあったのですね」
香ノ木さんは俺のことを無自覚な男に思っていたのだろう。一頻り笑ってニコッと笑顔を見せた。
「魔王は怖いですよ」
香ノ木さんの顔は俺をからかい。希に俺が怖い人と暗示をかけている。
「勘弁してくれ」




