夕暮れの日常
「ふぅっ」
夜月は結露して瓶の表面で水滴が出ているラムネを飲み、涼しい風を感じながら一息吐いた。
「先輩。まだ夕日が出ていますね」
時間としては夕方の五時頃になっており、太陽が次第に沈み、夜になっていく頃合い。夜月は浴衣姿で俺の横で涼んでいた。
「あのさ。風呂でのことだけど。聞いていた?」
俺は勇気を出してさっきの話をしてみることにした。緊張もしたが、夜月に迷惑をかけてしまったことを謝ろうと思っていた。
しかし、夜月の返事がなく、見かねて見てみると赤くなり、お風呂後で湯気も出ていた。
「大丈夫か?」
「ゆ…湯あたりをしてしまったようですね。これは失敗しました。今度から気をつけないとですね」
夜月は赤くなった顔を冷やすため、飲んでいた冷えたラムネを首元に押し当て左手は浴衣の襟を掴んで仰いでいた。
「や…夜月?見え…」
俺は夜月の隣に居たこともあり、見えそうな胸元に思わず言いかけて目を閉じ、違う所を見た。
「迂闊でした。」
夜月の表情は見なかったが、分かっていた。恥ずかしさもあったことで顔をまた赤くしているに違いないと…。
「まあ。気をつけて」
俺は漸く目を開けた。
夜月の姿に思わず避けた先では雅樹は女子に殴られた挙句に買い物に付き合っていた。
「何か買いたいものはありますか」と言っている雅樹は一見、傲慢なお嬢様に付き合う可哀想な執事に見えていた。
「あれは大丈夫なのか?」
俺が心配になって雅樹の様子を夜月にも聞いてみると「自業自得なので大丈夫です」と呆気なく切り捨てた。
皆も浴衣姿で買い物をしている光景に早めの夏休みの雰囲気もあった。
「夏休み。頼みですね」
夜月は風情を感じてもう時期くる夏の期待感で心を踊らせていた。
「俺たちもあいつらと買い物をするか!」
俺は夜月の手を取り、他の連中とともに買い物をする。
「合計三万四千円になります」
「マジで買うの?みんな」
雅樹は言われるがままに女子の買い物で支払うこととなり、やつれきった姿になっていた。
「こちらは本日商店街で行われている抽選の引換券でして、豪華賞品もございますよ。宜しければ…」
店員さん抽選の引換券を雅樹に十枚ほど渡し、笑顔で会計を済ませた。
「そういえば!」
俺は今日の買い物で同じような引換券をもらったことを思い出して取り出した。
「五枚あるな。行ってみるか」
これもついでと思い、俺は雅樹たちを誘い、商店街の抽選会に参加することにした。
抽選の賞品はどこでもありがちな旅行券や電化製品。加えて実用的な魔道具などがあった。
「一等が香港のホテルの宿泊旅行券五人分って凄いな」
俺は当たるはずもない商品に驚いて見ていた。
「封魔。先に行くぞ」
雅樹はそう言って一等が当たるように願いながら引いていた。
「なあ。これは全部ハズレじゃねえか?」
雅樹の抽選の結果は全てはハズレになっており、景品のたわしとティッシュが贈られていた。
「いらねえよ」
俺は残念な雅樹の横で抽選を五枚の券で引いてみることにした。
一回目はハズレでティッシュ。二回目もハズレでたわし。三回目は六等の魔道具。四回目はハズレのティッシュとパッとしないものだった。そして最後の一回。五回目を回すと明らかに今までよりも輝いた玉が出てきた。
「当たり!!」
抽選会の進行役の人はそう言ってベルを鳴らして喜んだ。
「おめでとうございます。豪華五人分宿泊旅行券です」
「マジでかよ」
当たったのは嬉しいが、行く時間がないのに出てしまったことが不運であると思えてしまった。
「羨ましいな。五人分って誰を誘うんだ?」
「お前欲しかっただろ?いるか?」
俺は雅樹に聞いてみたが、欲しいわけではなく、『一回でも良いから出してみたかっただけ』だと言った。
「これって。来週じゃねえか?」
「誰か行きたい人はいるか?」
美沙は俺の手にあった旅行券の一枚を取り、大切そうに隠した。
「魔王と一緒に行く」
「美沙さん。先輩は監視が…」
夜月は俺の外出する際には監視が必要だからだろうか。困った顔で美沙に説明をする。
「私が行くから安心」
「…。そう…なのか?」
俺も同意ができないくらいには安心が持てない状況に夜月は仕方なさそうに言った。
「私も行きますよ」
「夜月と美沙。俺となるとあと二人。」
「夜月が行くなら私も行くわよ」
彩花はそう言いつつも俺の手にあった券に伸ばそうとはして来なかった。
「あと一人は…」
「凛華。親睦会。旅行に行こう」
美沙は珍しく気が利いた意見を言って香ノ木さんを誘った。
「恐ろしい魔王との旅行は遠慮させていただきます」
「まあ。そうだよな」
俺は香ノ木さんに言った後、余った券の一枚を雅樹に渡した。
「あとは。香ノ木さんが行くと良いよ」
俺が渡した券を受け取ろうとはしない香ノ木さんは雅樹に頭を下げて券を受け取っていた。
「私もこれからはあなたの監視として務める身です。今回はそう言うことにします」
香ノ木さんの言動には厳しいだけではなく、どこかに優しさのあった気がした。
「ふぅ。楽しみだね。夏休みは…でも…」
ジオはそう言って表情が曇らせて天井を見上げた。
「そう簡単じゃないよね」
何かを危惧してなのか言いながらお湯に浸かる。
「封魔くんには頑張ってもらおう」




