始まりの島②
翌日(監視日数二日目)
「封魔さん起きてください」
麻奈の声が聞こえた途端、俺の上に掛けられた布団が奪い取られた突然の事だったため、驚いて起き上がる。
「どうした?」
「学校。行きますよ」
「早くないか?」
「遅刻しますよ」
起こされた俺は直ぐ側にあった時計を見る。
「…マジで」
「マジじゃないです」
時間の針は、八時を指していた。
「走らないと遅刻しますよ」
麻奈は俺の動きが遅いからなのか焦らせる。
「分かっている」
慌てて学校に行く準備を終えて家から出ると、九重 夜月が待っていた。
「九重。何でいるんだ?」
「そうですね…。先輩は私にとって敵なので目を離さないために来ました」
九重は満面の笑みで物騒なことを言い出したため、恐ろしくなり動きを止めた。
「怖いよ」
「冗談です。先輩、早く行かないと遅刻しますよ」
「そ…そうだな」
俺たちは遅刻を避けるため学校まで走って行く。
学校までの距離は冗談抜きで遠く。およそ3キロはある。島には学校が一校しかないため、かなり時間がかかる距離であっても通うしかなかった。走っても至る所にある信号機に止まり、学校の正門に着いたのはチャイムが鳴る五分前だった。
「ギリギリセーフだな」
「セーフじゃないですよ…」
俺が息を切らさずに言うと、夜月が疲れながらツッコミをいれてきた。
「悪かった…」
元はと言えば俺の寝坊に付き合ったせいでもあり、申し訳なくもあった。
「そう言えば。九重って学校に初めて来たよな?」
「はい」
九重はどこか警戒した様子で、俺の質問に答える。
「だったら、俺たちが案内するよ」
「良いですね!」
「本当ですか?」
九重は俺の提案に嬉しそうな返事し、警戒心も薄くなったように見えた。
「まかせてください」
「それでは…お昼休みにお願いします」
「分かった。昼休みに」
九重は俺と麻奈に約束すると、職員室に向かうため別れた。
「失礼します」
「君が本土から来た子だね」
「はい」
私が職員室に向かうと、学校の教師と思われる大人の方が出迎えておりました。
「とりあえず教室に行こうか」
「はい」
九重は先生に連れられ教室に向かった。
「この時期に転校は大変だね」
「はい」
私は教師にも言えない事情について苦笑しながら話を流す。先生は話すのが好きなのか話題が一瞬で変わりだし、何を言っても話が途切れることがありません。
「あなたのクラスは、参年弍組。たった一年だけどこの先もこの島で暮らすなら知り合いになるから仲良くね」
「はい」
私はいつまでこの島にいるのか分からないため複雑な気持ちで返事をした。
「ここが教室ね。男子二三人、女子二〇人合計四三人がこのクラスの生徒だよ」
先生が教室のドアを開けると、騒がしい声が鳴り響いてきた。
「ちょっと待ってね」
先生が教室のドアで私を止めると、自身が教室内に入り、生徒たちの騒がしい声の根元を止めた。
「皆さん、静かにして下さい。ホームルームを始めますよ。このままでは、喜ばしいことも紹介できませんよ」
「喜しいって。転校生ですか?」
「そうですよ。ですから」
転校生と聞いた生徒たちの声は静止した前よりも大きな声で聞こえており、むしろ先生が騒がしくしたようにも感じてしまう程でした。
「喜べ男共。お前達に少し遅い春がやってきたぞ」
先生の掛け声が聞こえたタイミングで最も丁度良い瞬間に私は教室の扉を開き、教卓と黒板の間に立ちました。
「めっちゃ美人」
「うぉー!かわいい」
私が教室に入ると、男子生徒が大きな声でさらに騒ぎだし、興奮した様子で視線が集まっていました。
「自己紹介」
「本土から来ました、九重夜月です。よろしくお願いします」
「女の私でもかわいいって感じちゃう」
転校生が来るのが珍しいのか私の姿を見た生徒たち騒いでいる私も緊張していたため、ほとんど聞こえておらず、焦っていると聞き慣れた声の持ち主がいた。
「夜月さん!」
「知り合いですか?」
「はい」
教室のグラウンド側の席前から四番目、立っていたのか先程まで一緒に登校していた麻奈さんでした。
「それでは望月さんが九重さんに案内などをしてあげて」
「はい」
自己紹介を済ませると、私が先生が用意したと思われる席に座り、ホームルームの続きを聞いていつもの学校生活になったのだと感じました。
「それじゃあ。今日の話す内容は以上です。皆んな、くれぐれも転校生に迫らないようにね」
教室から先生が出る途端女子生徒を中心に私の席の近くに寄っていた。
「ねぇ。九重さん、本土からってどこからきたの?もしかして東京?」
「やっぱり人が多いの?」
「本土の服ってどんな感じ?」
私はここまで話しかけてくるとは思いもよらず、急な出来事に追いつけなくなっていました。
「それより、私たちが学校を案内しようよ。困っちゃうよ。」
「それ、良いね」
私が質問に答えていると、学校案内の話になっており、慌ててお断りする。
「ご安心下さい。望月先輩がして下さるみたいですから」
「先輩?」
「望月って、麻奈。あなたの従兄よね」
女子生徒の興味があらぬ方向へ向かってしまった。
「え?もしかして、二人って仲良いの?」
「そう言えば、教室に入って来た時から知り合いみたいだったけど、お兄さんとどんな関係なの?」
「えぇ?」
私はこのような事にはとても疎い方です。なので先輩は先輩。変わる事はないので、軽く笑みを作って話を流す。
「べ…別に先輩とは…仲は良くないよ。ただの隣人だし」
「ほほぅ。隣人とな。それに狼狽え方ますます怪しいですなー」
私にしては初対面の人に頑張った方であると思いたいのですが、現実は上手く行かないようです。女子生徒にはさらなる追求を男子生徒はどこか戦いの中で感じたオーラが見えました。
「麻奈。その辺どうなの?」
「封魔さん?うーん。そう言うのには鈍感だからなー。それに…」
「それに?」
「幼馴染の涼ちゃんがいるから。厳しい戦いになるかも」
私が何も言っていないにも関わらず、女子生徒は恋バナに、男子生徒は恐怖を感じる雰囲気になっていました。
「望月封魔許すまじ…」
「ちょっと、急にどうしたのよ?」
「急に悪寒が」
俺の体調は健康そのものであるのか間違いないであろうが。どこからか不穏な雰囲気が感じられ、寒気を俺に襲ってきた。
「もしかして風邪じゃないでしょうね。もし良かったら、私が保健室に連れて行かせるけど」
「別に俺の事はどうでも良いから。涼、学校でおすすめの場所とかあるか?」
俺は幼馴染の萱倉 涼に聞いた。
「どうでも良い?」
「最近、引っ越して来た後輩に昼休みに案内したいのだが、良い場所場なくて困っているんだよ」
「そうだな…昼休みまでに考えておく」
昼休みになり、改めて今朝の約束を思い出して後悔した。何と、場所の約束や時間帯を飛ばしていた。
「おい。封魔、夜月さんって言うチョー美人が廊下で呼んでいるぞ」
「美人!」
涼は俺が九重と言う名字を口に出すより先に反応した。
「ちょっと行ってくるわ」
俺は廊下で待っている九重の方へ向かい、話しかけた。
「悪いな」
「いいえ…」
九重は妙に緊張しているようで話をしても周囲を気にしていた。
「先輩。教室の扉から禍々しい気配が…」
「気配?」
俺が教室の方を振り向くと、涼が強そうなオーラを出していた。
「涼の事か」
「涼さん?」
大抵、俺が初対面で人と話している時は同じような顔をしており、結果に緊張していたからと言うまでが一連の流れである。なので、俺はせっかくだったらと思い、涼に声をかける。
「涼…」
不機嫌な顔で俺の方を睨んでいる涼はやけに俺の位置より奥の方にも目が行っており、どうにも話しかけづらい。
「涼。おすすめの場所を教えてくれるか?」
「自分で考えろ!バカ!」
「どうして怒る?」
「お前、相変わらずクソったれだなぁ」
俺が涼に怒られていると聞き慣れたアホな声が聞こえて来た。
「雅樹」
比嘉雅樹、俺が中学に通っていた頃に仲良くなり、涼とも同じように仲良く話す友だちの一人でもある。
「全く分かっていないな。涼は嫉妬しているんだよ」
「ま…雅樹、でたらめな事を言うなよ。後で殺されんぞ」
「その言葉、後悔すんなよ」
雅樹は善意で最後の警告をしたものの、首を傾げている俺の顔を見てため息を出す。
「あのさ。俺にもその可愛い子を紹介してくれよ」
「俺らにも紹介しろ!」
雅樹を筆頭に同級生の男子生徒が俺に寄って来た。
「断る」
俺の言葉に男子生徒が激怒。雅樹はより強くヘッドロックで首を締めてきた。
男子生徒の憧れ転校生の九重夜月が俺に話しかけた。
「先輩、学校の案内をお願いします」
「おぅ任せろ」
「くたばれ!封魔」
雅樹は俺への妬ましいほどの羨ましい気持ちを込めで首を絞める。
「先輩?大丈夫ですか?」
遊んでいる光景を危険だと感じて、夜月が心配そうに見つめていた。
「先輩方。望月先輩が死なない程度でお願いします!」
夜月は男子生徒の仲睦まじい姿を見て笑顔になっていた。
「こ…これは…」
※男子生徒は女子に対して、ある一定の間隔を開けて関わっていた。理由は封魔のように同志に絞められないようにするため……もう一つに女子の満面の笑顔によって朽ちてしまうからである。
「エンジェルスマイルだ!」
「逃げろ~」
「目が~。目が~。ぐわぁぁあぁあ」
焦る男子生徒。俺を絞めていた雅樹は防ぐことができず、力尽き倒れ込む。
「雅樹!」
男子生徒は雅樹を庇うことができなかった。
直接浴びた雅樹の傍で俺と夜月が話す。
「クソったれが!なぜ、あいつだけ。いつも。外道」
以前までの同級生とは違い、俺との間には亀裂ができてしまった。
「雅樹。大丈夫か?」
「反逆者が雅樹を!」
「良いんだ。俺はもう天国に行って女性と仲良くなるよ」
「雅樹―!」
「夜月、あいつらには近づかないようにしような」
「は…はい…」
―今更ながら何を言っているか分からないので、学校案内をしよう。―
「九重、麻奈は?」
「用事ができてしまったようです」
「そっか。九重が行きたい所はあるか?」
「先輩のおすすめで」
「そうだなぁ…」
俺が知っている中で、良さそうな場所となると、夜月に合うものが少なくなるため、比較的に安全な場所に絞り込んだ。
「二階に夜月が喜びそうな場所があるんだ」
俺は夜月を手招きで呼んで二階に降る。位置は第一校舎と第二校舎の間の廊下、図書室を案内してみる。
「先輩。ここ、とても大きいですね」
「まぁ。ここらで一番大きい図書室だからな」
「ここは一般の人も入れて、休日でも開いているし。何でもあるから調べたい事があったら来ると良いよ」
「そうなのですね」
夜月は俺をまじまじと見ていた。
「どうした?」
「先輩って、魔王ですよね」
「そうだが?」
「魔王らしさがないので…つい」
「そうか?例えばどんな奴を想像していたんだ?」
「例えば『この町を支配してやる』とか、『すべての人間を皆殺しだ』とかを言うものかと」
「しねぇよ」
「先輩って本当に変ですね」
夜月はいつもより表情が緩み、微笑んだ。
「どうしてだ?」
「魔王って、この世界を破壊する存在ですよ?」
「住んでいる町をどうして破壊する」
「確かにそうですね」
「他の場所も案内するが…」
「お願いします」
俺と夜月に学校の教室を回って案内していた。しかし、必ずそこには比嘉が立っていた。
「おい、雅樹」
「どうした封魔」
「紹介は後でやるから着いて来るな」
「良いじゃねぇか」
どんな所に行っても着いてくる雅樹に呆れて夜月に紹介することにした。
「分かった。今すぐ紹介してやるよ。このストーカーは比嘉雅樹だ」
「よ…よろしく。九重ちゃん」
ぎこちない笑顔で挨拶をする雅樹。先程のリア充スマイル…基、トラウマの影響で不自然な笑顔で終わる。
「こちらこそ、よろしくお願いします。比嘉先輩」
雅樹の視界では夜月の辺りで光っていた。
「目…目がぁ…封魔、どうしてこんなにも眩しい九重ちゃんを直視できる!」
「比嘉先輩、大丈夫ですか?」
「九重、気にするな。こいつは、単なる頭の病気だ」
「病気ですか」
「失敬な。俺以外の奴も思っているよ」
「そうか?」
封魔は、辺りを見渡した。
「はぁ~相変わらずだな」
「呆れるなよ」
「封魔。次の時間体育だし、教室に戻るか」
「そうだな」
「それでは先輩。放課後」
「おぅ」
「やっぱり。九重ちゃんは良いよな」
雅樹は先程のあまり変わらず、夜月に見惚れていた。
「そうか?」
俺は九重を見ても初対面の時に遭った印象があり、良いとは思えなかった。
「今まで考えていなかっただろ」
「まぁな。」
俺の中で、九重の印象は魔族を警戒している少女でいつも敵視していると感じていた。
「あれ?」
「どうしたんだよ」
「いや。なんでもない」
その後の授業では何も見られている感覚がなくなり、普通の生活に戻った。
「急に怖いわ」
「悪い」




