こうして私は死んだ。
11/8改稿
大変お待たせしました。
前世過去回想の回です。
慌てて書き上げたのでいろいろ文章的にもおかしいところがあり、残酷描写ありでしかもずいぶんと長いですが、よろしくお願いします。
私がこの世界に落されたのは18歳の冬のことだった。
事故に遭った瞬間とか、病気で亡くなった瞬間に異世界トリップするのがよくあるパターンだけど、私の場合は本当に突然のことだった。
彼氏がいた。幼馴染みで付き合って1年になる彼氏が。
本当に大好きだった。幸せだった。生きてまだ十数年の小娘が幸せを語るとかちょっと不相応だけど、それくらい、互いのことを想いあってたし、将来を誓えるくらいの絆があった。
「優莉。」
「ん?なに?」
ん。と差し出された大きな手のひら。はにかむように笑って私が来るのを待っている彼。私はふっと笑い返してその手に重ねようと腕を伸ばした―――はずだった。
「陛下! やりました!!殊読みのエンディーファの召喚に成功しました!!」
だれ
「ふん。パッとしない顔だな。これが本当に異世界人なのか?」
ここはどこ
「これで我がアバティール帝国の繁栄は盤石ですね!!」
あんたなに
「これで大陸全土は余のもの同然、世界が私に跪くのだ。」
なにが
「召喚陣の消滅を確認しろ。逃げ道を消せ。」
どうなって
「これでもう永遠にお前は元の世界に還れない。死ぬまで、お前は余の物だ。」
洋輔
「余が永遠に可愛がってやろう。ありがたく思え。」
どこ?
そう言って、私は、何重もの鎖に繋がれて、
閉じ込められて、
あ
ああ
「いやああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっ!!!!!」
人としても、女の尊厳もなにもかも
皇帝と名乗るこの男に、
奪われた。
何度も逃げ出そうとした。何度も死のうとした。
しかしその度に連れ戻され、鎖が増え、自害防止の猿轡を噛まされ、最終的には逃走防止のために両足の骨を折られた。
なにもかもが信じられなかった。
魔法なんてものが当たり前に使われている世界にひとり放り出されて皇帝の慰み者として過ごす日々。
少しでも抵抗すれば殴られ、魔法で行動の一切を制御された。
どうやら私は異世界からの新しい知識をもたらすために呼ばれた存在であるらしく、
本来ならば異世界人の教えは全世界にもたらさなければならないらしいが、皇帝は私の存在を諸外国に公表する以外一切他の情報を渡さなかった。
見た目だけは豪華絢爛な部屋でいつの間にか生きた屍のように私は動かなくなった。
まるで人形遊びをするかのように動かない私を世話する女性たち。
いつの間にか私という存在に醜くおぞましい執着を見せるようになった皇帝。
異世界の知識を怪しい薬で無理やり私に吐かせ、帝国は驚異的な速度で発展していった。
「ほら、来てやったぞ小娘。今日こそ名前を吐かせてやる。」
この世界では名前はとても重要なものらしく、異性間で真名を教えあうことで婚姻が成立するらしい。
ゆえに、どんな自白剤や魔法をもってしても相手の真名だけは聞き出せないようになっており、ここ最近皇帝は私の名前を聞き出そうと躍起になっている。
「……………。」
もう何をされても私の身体は反応しなくなった。
無言でなにも反応しない私に今日も皇帝は頭に血が上り手をあげ、最終的にはその脂ぎった身体で私にのしかかってくる。
けれどそれすらも、もう自分にとっては慣れてしまった日常の光景だった。
そんな日々がどれほど続いた後だろうか。
この趣味の悪い金だけかかったこの空間に、ひとりの少年がやってきた。
「今日からお前の奴隷だ。好きに使え。」
ドサリと乱暴に床に投げ捨てられたその少年はずいぶんと痛めつけられたようであちこちに傷や痣があった。
少年はのろのろとした動きで私を見上げると腫れてほぼ見えなくなっていた瞳を大きく見開かせた。
「殊読みの…………エンディーファ――――――!」
かすれた声でそういった少年は高笑いしながら部屋を出ていく皇帝の後ろ姿を少年にはあるまじき形相で睨み付けた後、ゆっくりと立ち上がって私が座っていた寝台に寄ってきた。
なんの用途で彼をここに連れてきたのかは知らないが、どうせあの皇帝のことだからロクなことじゃない。
そう思って唯一自力で動かせることができる腕を使って後ずさろうとするけれど
「――――っ! エンディーファに、こんなことを………!?」
私につながれた数々の鎖に驚愕の色を浮かべた少年。私はなんと反応すればいいのかわからなくて、首をかしげた。
しかも私が後ずさるとき、腕しか使わないのを不審に思った少年はより一層顔を険しくさせて
「足、使えないの?」
なんて聞いてきた。
もう言葉を発することをやめて随分立つからうまく声が出ない。猿轡はいつの間にか外されたけど、そんなものあってもなくても変わらなかった。
恐る恐る私の足に触れる彼
「………っ!!」
痛みで顔をゆがめた私に慌てて手を放した少年は何故か怒った顔をして、「エンディーファになんて仕打ちを……!」とかなんとかつぶやいていた。
なんだか見た目の年齢にふさわしくない発言するなこの少年。
見た感じ10歳くらいの少年は、今度はそっと私の両足の腕に手をかざした。
暖かい光が生まれ、優しく私の足を包むそれが魔法だと分かった瞬間、思わず私はビクリと身体を震わせてしまった。
仕方がない。当時は魔法にいい思い出なんか一つもなかったんだから。
だがしかし、その光が収束するころにはすっかり足の痛みが引いていた。
……治してくれたの?
呆然と少年を見つめた私にずっと足元を見ていた彼が顔をあげる。
驚いたことに、少年の顔もその時にはすっかり治っており、しかも恐ろしく美少年だった。
切ない微笑を浮かべた少年は鎖につながれた私の両手をとって
「……僕の名前はルーク。ルーディル・アーベルだよ。エンディーファ。」
アーベル?……どこかで聞いたことがある気がする―――。
というか、それ真名なんじゃないの? なんでこんなこと
「いいんだ。今日から僕は貴女の奴隷みたいだから、僕の名を貴女が縛るのは当然でしょ?」
いらない。私奴隷なんか欲しくない。
なんだかこのルークという少年はこの世界であってきた帝国の連中とはなにかが違って見えた。
言葉はもう出すことができない。だから必死で首を横に振った。
こんな自分より年下の子に自分のこの穢れきった、ただ生かされるだけの人生に巻き込みたくない。
私は扉を指さす。出て行って。逃げろ。と。
だがどれだけ促そうとしても、彼はピクリともその場を動こうとしなかった。
痛々しいものを見るかのように、悲痛な表情を私に向ける。
「………ごめんね。僕がもっと早く助けてあげられたらよかったのに―――。」
なんであんたが私を助けるのよ
一度振り払った手をもう一度握ってルーク少年は固い決意を固めた瞳をこちらに向ける。
「でも、これからはずっと傍にいるから。もうひとりになんてさせないからね。」
その言葉に、私は何故か涙がでてきた。
嗚咽は漏れない。表情も崩れない。ただ、涙だけがでてきた。
なんで彼が私にこんな感情移入してくれるのかは全く分からないけれど、久しぶりに優しさに触れて年下相手だけどちょっとやられてしまった。
声はでない。けれど伝えてみよう
『あ り が と う』
唇で音のない言葉を紡ぎ出せば、ルーク少年は泣きそうな顔で顔を横に振った。
そうして、彼と私の生活は始まった。
この後、私たちはほとんど傍を離れることなく暮らした。
ちょうどそのくらいの時期から、帝国の発展にも陰りが見え始めたらしく皇帝が部屋にやってくる頻度も減った。
ただ、その分さらに私から知識を得ようとし、前よりもさらに強力な自白剤を飲まされるようになったし皇帝も私の名前を縛ろうとしてくることも増えた。
皇帝が部屋にやってくる間だけは、私はルーク少年を傍に置くことはしなかった。
私が皇帝になにをされているか知られたくなかったし、子供にそんな酷な場面を見せるつもりも毛頭なかった。
でもルーク少年はなにもかもお見通しだったらしく、毎回皇帝が部屋から出て行ったあと泣いて謝りながら私に縋り付いていた。
そんな暮らしがしばらく続いて、
ある日部屋に血だらけの皇帝が倒れこむように入ってきた。
「召喚国にこの様な無礼な振る舞いをするとは――! エンディーファは余の物だ……! だれにもやらん、どの国にもやらん!! まして聖国などには!! 」
「名前を教えろおおおお……! 世界はすべて余のものなのだ……っ! 」
地面を這いずってこちらに近づいて来ようとする物体はいったい何なのか。
これだけ血みどろになった皇帝の姿を見ても私はなんの感情もわかなかった。
いつの間にか目の前にはルーク少年が私を守るように立ちはだかりなぜかその手には立派な剣が握られている。
「アーベル聖王国王太子の名において、殊読みのエンディーファの監禁、暴行の罪、および自国民への残虐な行為の罪により、アバティール皇帝バッセン・アバティール2世を拘束、そしてしかるべきのちに死罪に処す。」
氷よりも冷たい瞳で皇帝を見下ろすルーク少年
皇帝は残った片目だけでルークを般若の形相でにらむと、不意にこちらへ視線を向けた。
「……結局、お前は余を愛してはくれなかったのか――――――。」
ああ、そういえば皇帝の名前。初めて聞いたな――――――。
別に、だからと言ってなんにも思わないけど。
その後私はルーク少年の国であるアーベル聖王国に保護された。
どうやら殊読みのエンディーファとは代々このアーベル聖王国が執り行っていたものらしく、今回の件では王様と王妃様に深々と謝罪された。
曰く、
理不尽な召喚で精神的にも身体的にもつらい目に合わせてしまって申し訳なかった。
こちら側の勝手な理由で私の人生、家族や友人、恋人を奪ってしまってすみませんでした。
という内容だった。
恋人。のところで私は洋輔のことを思い出した。
もう、元の世界には帰れない。
別にこの国の王様方に謝られたところでもうどうにもならない。
助けられたからといって一度捨てた感情は戻ってはこないし、謝られてもなにも感じなかった。
ただ感じるのは、故郷の世界への苦痛を覚えるほどの哀愁のみ。
頭を下げる人たちをしり目に……今思えばすっごい失礼だったけれど、私は部屋をでていった。
「僕がエンディーファの支えになることはできないの?」
ひとりで与えられた部屋で窓から外の景色ばかり見てる私にルーク少年はそう聞いてきた。
成長期だからか初めて出会ってからずいぶん成長して、今では身長も私とそう変わらなくなってきたルークは初めて出会った時のように私の両手をとって瞳を覗き込んできた。
「僕はエンディーファが大好きだよ? 初めて会った時から、大好きなんだ。」
気づけばこの世界に落とされてから2年がたっていた。
元の世界のみんなは、私のことなんか忘れてしまったのだろうか。
2年もたてば、洋輔ももう新しい恋人ができていたりするんだろうか。
そう考えただけで胸がズキリと痛む
ルークは国に戻ってからもかいがいしく私の世話をしてくれた。
いつまでも年下に甘えるわけにはいかないなと私が声を上げるのはこれからまだまだ先のことで、まだこのときはもう元の世界に戻ることができないという現実とルークの思いを受け入れるということは到底できなかった。
ルークの想いを受け入れるようになるまでさらにそこから2年かかった。
震える声で自分の名前を告げた時のルークの表情は忘れられない。
これ以上ないくらいに泣きそうになりながら私を抱きしめて「ありがとう、ありがとう…!」と言ってそれはそれは濃厚なキスをかましてくれた。
ちょうどそのころ、病気で亡くなられた王妃さまを追いかけるように王様も亡くなったからルークは王位を継承したばかりだった。
名前を告げた時初めて知ったのだが、代々エンディーファとして連れてこられた異世界人はアーベル聖王国の王族と婚姻を結んでいたそうで、
ルークは私が召喚されたと聞いた時から会いたくて仕方なかったらしい。
だから奴隷という形でもいいからと身体を張って私のもとに会いに来てくれたのだ。
元の世界のことを忘れたわけじゃない。忘れることなんてできない。
だけれど、もうどうすることもできない過去を嘆いて一生を過ごすより、こちらで私なりの幸せを見つけたかったのだ。
もう一生分は泣いたから。
私とルークは想いを通じ合わせてから一週間もたたないうちに婚姻の儀式を執り行い、名実ともに夫婦となった。
「ユーリ! ほら、早くこっちきて!!」
「でもルーク。王妃様の部屋って別にあるでしょ。わざわざいっしょに寝なくても……」
「嫌だ! 僕はもうユーリと一緒じゃなきゃ寝れないんだから。」
「王様がそんな甘えたさんでいいの?」
「ユーリのいじわる!! いいから寝るよ!」
幸せだった。
でも、そんな幸せもまた長くは続かなかった。
「――――ユーリッ!!」
のどが痺れる。吐き気がする。目が回る。
派手に倒れこんだ私にすぐさま駆け寄ってきたルークは血相を変えて私を抱き起す。
床に落ちて割れたグラスから先ほど飲んだワインが血だまりのように広がっていく。
「きゃあっ!! エンファーレ様!お気を確かに!!」
ルークの背後でそんな悲鳴を上げる侍女の見下すような笑み目が合った。
嗚呼、やっぱりこいつか。
この国に来たころから私の世話係の侍女だった彼女。声を取り戻したくらいのころから、私を脅してきた奴だった。皇帝の遠縁の親戚とかいっていた。
「ユーリ! 大丈夫…大丈夫だから、しっかりして!! 眠っちゃだめだ!! 」
霞みゆく意識のなかでルークの必死な声が聞こえる。
ああでも、ルークに毒が盛られなくてよかった。
私が彼の代わりに〝彼のワイン″を飲んでおいてよかった。
「ルー……ク。よかっ…………た―――――。」
無理やりのどから声を絞り出すと、ルークは首を横に振る
「よくない!! 全然よくない! 僕のせいだ―――。待ってて、絶対助けるから!!」
ふふふ。この世界で頂点に君臨するほどの魔力を持つあなたなら何でもできそうだね。
ルークの魔力を体内に感じた。彼の魔力で毒を中和させようとしているのだ。
「侍医はまだか!! 早くしろ!! 」
遠くのほうでルークがそう叫ぶ。一段と濃い魔力が私のなかに注ぎ込まれる。
その瞬間、耐え難いほどの激痛に襲われた
「あ……あ゛あ゛あああああああああああっっっっっっっ!!!!!」
「っ!? ユーリ!! どうしたの!?」
毒、が、ルーク、の、魔力に、反、応、し、て――――
心臓があり得ないくらいバクバクと脈打つ。そして次の瞬間。私は意識を手放した。
そこで死ぬかと思ったのに、案外私は生き残った。
だが、現状は一向に予断を許さない状況で、自分でも死がとても身近に感じられた。
この国の権威とも呼べる城の侍医だった人はその直後、何者かに殺されていた状態で発見された。
他の医者を呼んでみても、その毒薬名はおろか、解毒方法さえ分からず、その場しのぎにすらならなかった。
ルークは毎日、私に魔力を注ぎ込む。
ほとんど意識のない状態で、ただ痛みだけを伴うその行為に抵抗する力すら残っておらず、だれもが寝静まった真夜中に、彼の魔力のよって暴れだす魔に私は連日連夜苦しめられた。
ある日、弱り切った私はもう今夜を乗り越えることはできないなと本能的に悟った。
例の侍女は行方知れずらしく、今ルークが血眼になって兵たちなどに探させている。
「ルーク……、ごめ……んね。」
結婚してからまだ一年もたってないのに、私は貴方を置いて逝かなければならないみたい。
「い、嫌だ……! ごめんなんて言わないでユーリ。しっかりして! 」
ぎゅっと力強く私の手のひらを握ってくれる彼の眼の下にはすごいクマができている。
「お願い―――。私が、いなくなっても……、お…い………か、て、こな……で。」
最後のほうはか細くなって、ほとんど聞こえないくらいになってしまったけど。ルークには伝わった。
血相をかえてブンブンと顔を横に振る彼は悲痛な表情で握る力を強くした。
「何言ってるの? 僕がもうユーリがいないと生きていけないの、ユーリが一番よくわかってるでしょ? 嫌だよ。ユーリがいなくなるなんて。絶対嫌だ。絶対助けるからそんなこと言わないで――――!!」
もう涙声だ。
出会ってから4年と少し、それだけ一緒にいればルークにとって私がどれだけ大事な存在かなんて嫌でもわかる。
大好きなルーク。年下でかわいいところがあって、だれよりも私に優しい旦那様。
家族や友達に紹介したら絶対ショタコンかお前! といわれることだろう。容易にその光景が想像できてちょっと笑えてくる。
無理やりこの世界に落とされて、最初は地獄でしかなく、憎悪しか感じることのできなかったこの世界。
でも貴方という存在のおかげで私は救われた。
ありがとう。感謝してもしきれない。
ああ、目を開けるのもつらくなってきた。眠くて眠くてたまらない――――。
「……ユーリ?」
怯えるように彼が私の名を呼ぶ。
だが私はもう彼の言葉に返事を返すことはできなかった―――。
ユーリ・アーベル もとい有山優莉。享年22歳
こうして、私は死んだ。
遠くなりつつあった音のなかに、愛しい人の叫び声を聞きながら。
今までにないくらい長かった…!すごい疲労感でいっぱいです。
お待たせして申し訳ありませんでした。
いろいろ設定がぐしゃぐしゃになってるかもしれない(汗
あくまで回想話だったので細部までは拾っていませんがそれでもすごい長さになってしまいました。
次回から本気のカメ更新になります。
みなさんしがない受験生作者に勇気と学力をください←