第三話 「試験官」
日は落ちかけて、うっすらと星が見え始める時間帯。
「そろそろやめにしようか、、、」
ティムはいまだに裏庭に座っていた。
ティムの頭に乗っていたイグニスは羽ばたいて中に浮くとぺこりと頭を下げてから炎に包まれ姿を消した。
ティムは立ちあがろうとするが、なかなか立てない。昼間からずっと座りっぱなしだった。それにだいぶ疲れが溜まっている。数時間トレーニングに集中していたからだ。
「何をしている」
ティムが足を伸ばして休んでいると後ろから野太い男の声がする。
「だれです?」
振り向くこともなくストレッチをする。
「こちらを向け、」
「向いたら殺されませんか?」
ティムは淡々とストレッチを続ける。
「クヴァール魔法学校、治癒魔法教師のアルベルトだ。お前の試験に来た」
ティムは重い体を立ち上がらせる。
「それならそうと言ってくださいよ」
「今言ったじゃないか」
ティムは屈伸する。アルベルトは太い腕組んでティムが屈伸を終えるのを待った。
「で?何をすればいいんですか?筆記とかは無理ですよ?字、書けないし」
アルベルトは眉をひそめた。
「字がかけない?それでどう学ぼうというのだ、、、ま、まあいい。そうだ。お前は俺に”まあいい”と言わせるとんでもない才能を持っている。それをみせろ」
その瞬間、まばゆい光の渦が地面から現れる。
「これか、、」
アルベルトは顔を背けた。ただその光を必死に見ようと目を向ける。
光の渦が弾けるとそこにはルミナがいた。
「あぁ、、、絵本の通りだな、、、」
アルベルトは額に冷や汗を浮かべた。
「これから試験を始める。簡単だ。お前は俺に攻撃する。俺はそれを防ぐ。別に俺を倒したから合格、倒せなかったから不合格ってわけでもない」
アルベルトの声はすこし震えていた。
後ろを向いて距離をとる。
「合図は俺だ。それまでは絶対動くなよ。」
静寂が庭を包む。
何秒止まっただろうか。草木が風に揺らされる音が耳に入り込む。
「はじめ!」
アルベルトはフライング気味に後ろに下がる。
「マスター。どうしますか?」
ルミナの手に弓が現れる。
「難しいだろうけど大怪我しない程度に頼むよ」
ルミナは出したばかりの弓を床に落とした。弓は地面に吸い込まれるように消えていく。
「わかりました。マスター、目を閉じて」
目を閉じる。ルミナはその上からティムの目を手で覆った。
「何をするつもりだ」
アルベルトは身構える。
「よく見ておきなさい。愚か者よ」
ルミナそういうと目を伏せた。
アルベルトは素直に従った。眩しく光るルミナをしっかり捉えていた。
その瞬間、アルベルトの視界を白い光が包んだ。
だんだんとあたりが見渡せるようになると気がつく。ルミナの手にもたれた矢はアルベルトの喉に触れそうなほど近くにあった。
「フリーズ!」
アルベルトがそう言って動きを止めたのはルミナではない。ティムだ。
ティムの動きが止まる。
ルミナは矢で男の顔を切りつけた。
「ブレイク、、、ブレイク、、ん?」
ルミナは光る男の傷に手をかざした。しかし魔法が発動しない。ルミナは手を見つめる。
「ペイン!」
ルミナの眉がすこし動いた。
「あいつを止めればお前も止まるなんて考えは、、甘すぎたな、、、」
アルベルトはそういうと、ルミナと距離をとった。
それにつられるようにルミナもティムの横まで下がる。
「マスター。なぜか魔法が放てませんでした。止めましたか?」
「止めた。殺す気だったでしょ」
ルミナは弓矢を出した。
「マスター。足と腕ならどっちですか?」
ティムはため息をつく。
「どっちもだめ。そんなに手加減が苦手ならアニマに頼む」
ルミナは肩を落とした。
「申し訳ございません、、」
ルミナは光に包まれ姿を消した。
「ティム。お前が俺を殺そうとしたら俺は今どうなっていた?」
「多分、、、人には見えないくらい細切れになってたと思います」
アルベルトは歪んだ顔に無理矢理笑顔を貼り付けた。
「まあ、、だろうな、、」
アルベルトはルミナにつけられた顔の傷に手をかざす。
「ヒール、、」
傷の周りで緑の光がきらめく。
傷が癒えていく。
「ティム。精霊はあと一体いるんだろ?見せてくれないか」
「いえ、あと四体います。」




