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5 伯爵様の裏設定

 お茶会があった日の夕方、イーヴァルに『少し話があるのだが……』と呼び出された。


 応接間で向かい合わせに座り、紅茶をすする。サフィニアは澄ました顔を崩さずにいるが、対するイーヴァルはばつが悪そうにうつむいている。


 なかなか話が始まらないので、サフィニアは自ら本題に切り込むことにした。


「それで、ご用件は? わたくしを第二夫人に降格する、というお話でしょうか?」

「……。私とラナの話を盗み聞きしていたのか?」

「あの後、花園を散歩していたので。偶然ですわ」


 へたれヒーローに歯ぎしりをしながら聞き耳を立てていた、なんて言えないので適当に誤魔化しておいた。


 イーヴァルは一つため息をこぼしてから、意を決したかのように話し始めた。


「ラナは第一夫人の位をお望みだ。そうでなければ婚約しない、と。だが……冷静に考えてみると、第一夫人の座は、やはりサフィニアに相応しいと思って……迷っている」

「はぁ!? なんで!!??」


 原作漫画ではサフィニアの同意も得ず、その場で第一夫人をラナにすると宣言するくせに。どうしちゃったのだ、この男は。


「ラナちゃ――……ゴホン、聖女様を優遇した方が良いに決まっているでしょう! わたくしなんかより!」

「自分を下げる言い方はやめなさい。……いや、私が最初に酷い物言いをしたから、貴女が気に病んでしまっているのか……。すまない……」


 そういえば、婚約を結んだ時に『君を愛さない』とかなんとか言われたっけ。気にしてなさすぎて忘れていた。こっちこそすまん。今思い出したわ。


 彼はうつむきがちに、遠い目をしながら後悔を口にした。


「あの時は……名門ガルシア家の人間に見くびられないようにと、強い言葉を吐いてしまったのだ」

「あら、そうだったのですね」


 確かに、漫画内でもサフィニアに対して、やたらあたりが強いなと感じてはいたけれど。ちゃんと理由――裏設定があったのか。

 作中では描かれず省かれた部分をこうやって知ることができるのは、ちょっとお得感がある。


(ふむふむ。なるほどねぇ。オタク、そういう裏設定大好きよ)


 裏設定、裏話、制作秘話。そういう話はどんどん聞きたいオタク心。思わず前のめりになってしまった。


「変に肩肘張らずとも、わたくしはあなたの味方ですよ。妻になるのですから。他には何か、隠し事はございませんの? 何でもお話しになって」


 いくらでも聞きますよ、の空気感が伝わったのか、イーヴァルは躊躇いながらもぽつぽつと語りだした。


「隠していたわけではないが……実は、我がマーティン家の血筋には特定の病を発症しやすい傾向があるんだ。私の祖父も、父も、病を発症して早くに他界した。だから、癒しの魔法を持つ聖女をどうしても迎え入れたくてな。他家に取られる前にと、急ぎ縁組を決めたんだ。君には突然の報告になってしまって、悪かった……」


 それも知らない情報だ。ラナを乞い求めるのは恋愛漫画のご都合主義だと思っていたけど、それなりに理由があったらしい。


(まぁ、理由があろうがなかろうが、わたくしのこの後の動きは決まっているのだけどね。わたくしはラナちゃんとイーヴァル様の恋路を推すだけ!)


 晴れない面持ちをしているイーヴァルに、ビシッと人差し指を突きつけた。


「じゃあ、わたくしも一つ、秘密の家族情報を明かしますわね。わたくしの家族、祖母も母も、難産に苦しんだそうですの」

「難産?」

「えぇ。だから、わたくしも出産には不安があるのよねぇ。もし第二夫人にして頂けたら、少しは肩の荷が下りて助かるのだけれど。あぁ、旦那様の配慮が欲しいわ~~~~」


 わざとらしく困った顔をしてみせると、イーヴァルはポカンと目を丸くした。


「と、いう訳で。あの頑固な側仕えさんにも、そのようにご説明を。事情があるなら降格も仕方ないと、納得してもらえるでしょう」


 あの老年の厳しい側仕えは、きっと茶会の後、イーヴァルに詰め寄ったに違いない。原作漫画内でも、何かと厳しい言葉を突きつけるキャラだったから。とはいえ、漫画内ではラナの味方として、だったけれども。

 今回はなぜかサフィニアの味方のようなので、きっと『第二夫人降格は許せない!』と憤っているだろうから、上手く丸め込んでほしい。


 イーヴァルは心底申し訳なさそうに顔を歪めた。


「……本当にすまない。埋め合わせは必ずする」

「いりません」

「そうはっきり言うな。させてくれ」


 眉をハの字に下げて、彼は気の抜けた微笑を浮かべた。


(……。そんな表情初めて見た)


 作中では、ラナの前でもそんな顔はしていなかったような。つい、まじまじと見てしまった。


 いや、あんたクールキャラどこいったのよ。という突っ込みが喉元まで出かかったが、吞み込んだ。



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