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私が、選ぶんですか?

「だから朝雲!お前さんが、どちらに身請けされるか、決めてくれっ!」


(···あらあらまぁまぁ···困ったなぁ~···)


 ーーー話は、序章に戻る。

 

 まさか誰に水揚げされるかの話から、身請け話になるなんて思っていなかった。

 しかも自分に選べだなんて―――。


「そんなこと言ったら、朝雲は困ってしまうに決まってるじゃないか。楼主は意地が悪いなぁ」

「そうか?俺様は、答えがはっきりしてっから気持ちが良いねぇ。白か黒しかねぇんだから」


 朝雲と辰男は、ハッとして振り返った。ふすまを開き、現れたのは―――話しの話題になっていた2人の神である。


「こ、これは···正一郎様、富塚様···」


 辰男はへこへこと頭を下げ、上座から退く。座敷に入ってきた2人は、朝雲の両隣に座った。朝雲も慌てて下座に行こうとしたのに、富塚が大きく扇子を広げ、行く手を阻まれる。


「なぁ、朝雲。おめぇのような無垢な娘を、他の男神になんか触らせたくねぇって俺ぁ思ったんだ」

「鬼の旦那さん···」

「じゃあ水揚げなんかより、身請けの方が良いだろ?金ならたっぷりある!俺様とずっと一緒にいれるんだぜ?おめぇも嬉しいだろ?」


(嬉しい――――?)

 朝雲は、正一郎に言われて、疑問に思ってしまった。


「鬼の自慢話は、いつの世も変わらないねぇ。金があるとのたまうのも、品がない。金があるといっても、暴力で得た金だろうに」

「あ?」


 富塚は広げた扇子で顔を隠しつつ、正一郎を嫌悪するように言い放った。

 ―――彼の美しい顔が、顰められていた。


(あ、あらあら、困った―――お2人はあまり仲が良くない事で有名···)

 

 どちらも「天竺牡丹」の贔屓客だが、2人は決して妓楼内で鉢合わせしないようにされてきた。同じ時刻に妓楼にあがっても、同じ階にならないよう遣り手が采配していると聞く。


 さすがの朝雲も、2人の間の険悪な雰囲気に、身を竦めた。


「朝雲。僕はね、男女のあれこれなんて知らない無垢な君を汚したくないんだ。清いままの君でいてほしいと願ってる。だから、僕は水揚げじゃなく、君を身請けしたいんだ」

「お稲荷さん···」

「白無垢を着て、僕の神社に嫁入りしておいでよ」


 囁くような声音は綺麗だった。


(私を、無垢なままで···?)


 富塚の声は男にしては高い声音だが、だからこそ彼の魅力を惹き立てる。


「けっ、どうせ腹黒狐が汚すんだろ?お綺麗に澄ました言葉の底は見えてんだよ、むっつり助平」

「···はぁ?」


 2人が、互いに睨みあう。朝雲を挟んだ視線の交わりは、富塚の唸るような声音と共に、激化した。

 彼の唸り声は―――犬のような、けだもの染みていた。


「ちょ、旦那方···っ!!」


 辰男が憔悴の声をあげるよりも先に、朝雲を挟んだ2人の姿は”変わっていた。”


「うらあぁぁっ!喧嘩売る気なんだろぉ?!ゴン狐がっ!!ケダモノは猟師の罠でもかかってりゃあ良いんだよっ!!」


 正太郎はめきめきと拳を握り、腕をまくる。元々たくましかった彼の腕が、益々ふとましくなり、彼の頭の角から筋が浮き上がる。

 今までも当然持っていたかのように、突如として彼の手に鉄の棍棒が握られていた。


「若造の鬼っころが···!!鬼など、桃から生まれた若造にでも退治されてしまえばいい···!!」

 

 富塚は、大きな九尾の狐の姿に変化していた。大きな牙を持つ口を威嚇するように開き、吠える。


 ―――2人とも、いつもは人の姿に何かを付け加えたような姿をしているのに、今では本物の「鬼」と「九尾の狐」である。


(あらあらまぁまぁ···2人とも、大きいこと···)

 

 ―――目の前の姿こそが本来の姿なのだろうが、大きさが人とは異なるようだ。今いた御座敷のふすまや壁、あげくは天井までばきばきと破壊してしまった。1番上の階で、逆に良かった。

 上を見れば、もう朝焼けが――――。


「やめておくんなし」


 ―――その場に現れた人物の声に、正一郎も富塚も、硬直した。


「明け里姐さん」

「朝雲も、ちゃんと止めなんし。主の身請け話でお2人は争っておられるのでありんすよ?」

「あ、あらあら···」


 こてっと、軽く彼女の持っていた扇子で叩かれる。

 明け里はとても優しくにっこりとしており、怒っている様子はない。

 ただ、彼女が現れたことで、正一郎も、富塚もバツが悪そうに身体を文字通り縮めていった。


「あ、明け里···」

「···ちょっと、年甲斐にもなく、やりすぎてしまったかな?」


 正一郎は明け里におどおどとした瞳を向け、富塚は冷や汗を垂らす。

 そんな2人を見て、明け里はぱんっと手のひらを大きく叩いた。


「だんさんも仰られていたでしょう?誰に身請けされるかは、朝雲が決めることでありんす」

「え、でも姐さん―――」

「朝雲、責任を持って、選ぶでありんすよ?」


 彼女は自分にきつく言ったがー――少しかがみ、自分の耳元で囁いた。 


 

 ···どなたの『贄』になるのか。



 朝雲は、小声で言われた明け里からの言葉に、視線を泳がせた。


(···どうしよう~?。私、選べないよ~···)


この次の話は、今日の21時に更新予定です(^^)/

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