返しのギャグはシリアスを貫く
「ギャランドゥ!! 貴様との婚約を破棄する!!」
ここはとある国のとあるパーティ会場。
そこでポチョムキン王子の誕生日祝いに、名目に反して小規模なパーティが開かれている。
パーティの参加者はポチョムキン王子と年の近い者ばかり。近い将来、ポチョムキン王子を支える「友人」ポジションになる者たちが集められていた。
主賓であるポチョムキン王子は最後に登場するモノ。参加者は食事に手を付け、仲間と歓談をしていたのだが、そこに登場したポチョムキン王子が最初に言い放ったのが冒頭のセリフである。
「貴様は我が婚約者にして公爵家の長女であったにもかかわらず、男爵家の娘オカマを襲った!
我がオカマを気に入っていたのは事実だが、それも常識の範囲。いずれ愛妾にと考えてはいたが貴様を蔑にするつもりは無かった!
それなのに貴様は何を狂ったのか、先日オカマを階段の上から突き飛ばし、重傷を負わせた!
これは明らかに人として義に悖る行いであり、我が将来の妻としてあまりにも不適格! よって婚約を破棄し、後日、正式に罪に問うものとする!!」
婚約者女性と言うのはこういったパーティでは男性と共に行動することが常識である。
それなのに一人でパーティに参加したギャランドゥ――元が付くが、ポチョムキン王子の婚約者――には奇異の目が向けられていた。
しかし貴人である彼女にそれを直接問いただすのは無礼であり、ポチョムキン王子の登場まで独りでいたのだが、ポチョムキン王子の言葉にほぼ全員が「ああ」と納得の表情を見せた。
一部納得していないのは彼女の事を良く知る、彼女がポチョムキン王子にそこまで拘っているようには見えなかったごく親しい者達である。
「さあ、反論があるならばこの場で申し出るがいい!」
周囲からは会話の声一つ漏れていない。まったく、水を打ったかのように、静かなものである。
そして糾弾されている彼女、ギャランドゥの表情も暗くは無く、非常に穏やかであった。
周囲にいた者は気を利かせたのかギャランドゥから離れていき、ポチョムキン王子とギャランドゥ、二人は囲まれるようになる。
「では、私からは一つだけ。
私は彼女、オカマとお話を行い、ポチョムキン王子に対する態度を改める事を求めました。ですが彼女はこちらの言葉に耳を貸さず、あまりにも言う事を聞かなかったので、つい手傷を負わせてしまっただけなのです。
公爵家の娘に従わぬ男爵家の娘が傷を負っただけの事。何の問題も無いでしょう?」
大したことではない、問題など無い。ギャランドゥはそう言い切った。
その顔は自身を弁護しようという必死さの欠片も無く、ただ当然のことを言っているふうである。
なお、王国の法には「貴人が下々の者を犯した場合は罪二等を減じたうえで処罰を下す」とあり、この場合は厳重注意ぐらいはあるものの、実際に婚約破棄などを行う根拠としては弱いのも事実である。
ただし、それを言われたポチョムキン王子が納得するはずもない。お気に入りの娘を害されたのだから当然である。
よって相手の言葉のアラを探すように頭を働かせ、ついにその答えを見つけてしまう。
「学園内では身分の如何に関わらず、平等たれと言う言葉がある! 故に貴様の罪は対等な者への傷害として裁かれる!
さあ、衛兵ども! この女を連れていけ!!」
その言葉を聞いたギャランドゥは微笑んだ。どこか、狂気を感じさせるように。そして、まるでその言葉を待っていたかのように。
「だ、そうですわ。衛兵の皆様。
では、よろしくお願いします」
花が咲いたかのように微笑むギャランドゥ。
その表情に訝しむ王子。
そして。
ギャランドゥと、ポチョムキン王子を捕縛する衛兵たち。
「待て! 貴様ら、何をする!?」
「学園内で学友を害した者を捕えているだけではありませんか。何も間違ってはいませんわ」
されるがままのギャランドゥの表情には余裕の笑みが。
状況が分からず困惑し、憤るだけのポチョムキン王子には必死さが。
それぞれの表情を浮かべ、衛兵に連れて行かれる。
事態を把握できない者たちのざわめきと共に、パーティ会場には困惑だけが遺されるのであった。
このポチョムキン王子。昔から女癖が悪く、我慢の弱い性質であった。
2年前には婚約者がいた女生徒を無理矢理押し倒しており、その時には身分を笠に無罪を勝ち取り、王子に盾突いたとして婚約者の家を潰して女生徒を自殺に追いやった。
その女生徒は、ギャランドゥの友人の一人だった。
諌められるも忠言を聞かず自由奔放に振る舞うポチョムキン王子に対し、ギャランドゥは一つの罠を仕掛けた。
男爵家の中からポチョムキン王子好みの女を用意し、事情を説明し、ポチョムキン王子に近付けさせたのだ。
オカマは最初かギャランドゥの仲間だったのである。
その後の顛末はパーティでの通りである。ポチョムキン王子は見事に引っ掛かり、言ってはならないことを言ってしまった。身分差で通した正当性を、自ら捨ててしまったのである。
その後、ポチョムキン王子は人格と能力に問題があると見做され王位継承権を失い、修道院に幽閉される事になる。
逆にギャランドゥはその謀略の才を見込まれ、オカマと一緒にとある上位貴族の嫁兼参謀として表舞台に残る。
「仇は取りましたわよ」
死んだ者は何をしても喜ばない。復讐とは、生きている者の為にある。
かつて少女だったギャランドゥは、友人の墓に花を添えるのであった。




