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 そう言ってまた楽しそうに笑うリシィに、アルはもう一度、切なそうな笑顔を返す。

「ああ」

 アルが、ちらり、と私に視線をよこした。

 え?

「情けないけれど、今でも迷う時もあるし間違えそうになる時もある。けれど、一人じゃないことに気付けた。気付かせて、くれたんだ。もう絶対に、手放したりはしない」

 苦笑したアルに、リシィは嬉しそうに微笑んだ。

 

 ―― 今度こそ、幸せになってね ――


「あの頃だって、俺は幸せだったよ。リシィ」


 ―― 私も、幸せだったわ。アル ――


「ふざけるな……」

 低い声が割り込んだ。

「精霊だの、人間だのと……直系の血を何だと思っているんだ」

 我に返って振り返ると、ディードが燃える目のまま立っていた。彼の背後で風がうなっている。

「忘れているわけではあるまい、アルト。お前の血が持つ重さの意味を」

「叔父さんには、感謝しています」

 淡々とした声で、アルが言った。


「本当は、ちゃんとわかっているんです。母を、父を亡くして長にとらわれた本家で私が狂いもせず生きてこられたのは、あなたが私を守っていてくれたからだと」

 ディードは何も言わずアルを見つめていたけど、その瞳の光が微かに揺らいだ。

「それでも……私は、決めたんです。私は今度こそ望むものを手に入れたい。そのために、俺は、俺自身に戻ります」

「直系の血を絶やす気か!」

「もう遅いんですよ、叔父さん」

 そういったアルの瞳は、意外なことに、ほんの少し悲しそうだった。


「あなたが、おばあさまのために血を望んでいることもわかっています。けれど、たとえ私が純血の、たとえばあなたの娘と一緒になっても、もうその子の相手となる直系を見つけるのは難しいでしょう。われわれはもう、絶えていくしかない種なんです」

「だからといって、このまま黙って絶えてしまえというのか! そんなこと、できるわけない! あの方は……あの方は、まだ生きているのに。生きていかなければならないのに!」

 悲鳴のような声。

 悪い人じゃない。あの人はあの人なりに、考えがあるんだ。

 以前聞いた言葉を思い出す。あれは……


「お気持ちはお察ししますが、あなたは少しやりすぎたみたいですね」

 ふいに、その場にいた誰のものでもない静かな声が響いた。

「ユーキ……」

「どうする? アル」

 いつの間にかそこには、今まで見たこともないほど冷たい目をしたユーキがいた。細く開かれたその目が、怪しい光を帯びている。

 ぞくり、と背筋が寒くなる。

 怒っているんだ。多分、アルを傷つけたディードのことを。


「命令を。アルトレード様」

 視線をディードに据えたまま、ユーキが短く言った。

 言われたアルは、支配する者の声音で答えた。

「命までは。力だけでいい」

「相変わらず甘いな、お前は」

 ユーキは、少しだけ笑んだように見えた。その様子を、ディードが苦々しげに見ている。


「できそこないが」

「あいにく」

 吐き捨てるように言ったディードに、ユーキは細めた目をさらに細くして、両手を唇の前で組み合わせた。

「できそこないでも、力はあなたより上ですよ」

 次の瞬間、風が、吹いた。


 強い風が、ユーキの体をとりまく。さっきの痛みを思い出してとっさに身構えたけれど、それはもう、ユーキの力になっていることに気がついた。

「ディード・ナルタ・フォア・ソート・ド・グリフォルドの契約された精霊にユーキが命ずる。今、その呪縛を解き放つ。開放された力を持って、あるべき場所に還れ」

 重々しい言葉が終わるのと同時に、力を放たれた風があたりを暴れ始めた。さっきとは比較にならないほどの風圧が押し寄せて、そのまま体が浮く。

「きゃ……」

「奏子!」

 アルが手を伸ばして私を引き寄せた。そのまま、自分の体で私をかばうように抱きしめる。

 とんでもない力が、渦巻いていた。飛ばされないように、必死にアルにしがみつく。


 奏子。


 その私の耳に、ふいに、涼やかな声が聞こえた。


 また、あとでね。



 ……リシィ?


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