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「うち? 私、知らないわよ?」

「知られないように気をつけていたからね。先週、奏子が倒れたのって、お客さんについてた使い魔のせいだろ。叔父さんが来てすぐあれがきた素早さを考えたら、あの後、何もないのって不思議だと思わなかった?」

「……え?」

 そういえば、あれは警告だ、とアルは言っていた。

 警告は、一度じゃなかったってこと? でも、私は何も……

 は、と気づく。

 公園で私が襲われた時。アルは、『たまたま通りかかった』って言ってた。アルの態度に気をとられて深く考えてもいなかったけれど、あれってもしかして、たまたま、じゃなくて……

 ユーキが、うっすらと笑いながら続ける。


「奏子のことを気づかれたのは、それより前。感じの悪いお客さんが来て、奏子がカップを割った日があっただろう」

「あ……」

「僕らが確信を持ったのも、あの日。あの時、奏子は無意識のうちに力を使ったんだ。……実はね、君に初めて会った時に、少しだけ君の奥に眠る力を引き上げておいた。もしも君にその力があれば、それがあらわれるように。それを確認できなければ、僕らは何も知らせずに君の前から消える予定だった。アルのフライングは予定外だったよ」

 ユーキに初めて会ったとき。あの時感じた不自然な静電気のようなものが、もしかして。

「あのお客さんは一族の使いだったんだ。今までは適当にアルを泳がせていた長たちも、本物が出てきたってんであわてて叔父さんを送ってきた。……結局、長たちには、最初からアルに水の精を選ばせるつもりなんてなかったってことだね」

 最後の方だけ皮肉めいた口調で視線を落として、ユーキが言った。すぐにあげた顔には、もうその色は残っていなかったけれど。


「それからは、その前とは比較にならないくらいの力のある使い魔が送られてきた。ま、こんなに手ごわいのがでてきたのは今日が初めてだけど。奏子の家と念のため早紀ちゃんの家には僕が結界をはってあるから、よほどのことがない限り大丈夫なはずなんだ。それでも、アルは奏子のそばにいることをやめなかった。奏子が外出する時はもちろん、夜中も毎日、アルは奏子のそばにいたんだよ」

 それを聞いて、もう一つ心当たりが浮かぶ。

 あの叔父さんに襲われそうになった時も、あまりにタイミングよくあらわれたアル。そんな前から、アルはずっと。


 確かに、俺が守ってやるってアルは言っていた。だけど、その言葉の意味を私は深く考えてもみたこともなかった。どうせリシィが私の中にいるからでしょ、なんて穿った見方をするくらいで。

 そんなの、どうでもよかったんだ。リシィだろうが奏子だろうが、アルは確かに『私』を守ってくれていた。


「……アル、そんなこと、一言も……」

「うん、ここんとこ、なんだかアルもずっと考えていることがあるみたいだね。ようやく、あいつも気が付いたのかな?」

「気づいた……って、何に……?」

「それは、アルに直接聞きなよ」

 そう言うユーキは、ひどく穏やかな顔をしていた。


「奏子」

 キッチンを飛び出そうとした私を、ユーキが呼び止めた。

「もしも、今でもアルが求めているのはリシィだとしたら、君はどうする?」

 扉に手をかけたまま、私は動きをとめる。

 アルが大切に守っているのは……

「アルがなんて思ってようとかまわない。私は、私のしたいことをするだけ」

 振り向かないままでそれだけ言うと、私はガラスでできたドアをあけた。

第九章、終りです。次でいよいよクライマックス。いやあ、長くなっちゃったなあ。

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