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「か、奏子って、ホントに……」
悪いと思ったのか抑えて、それでも止まらないふくみ笑いが小さくもれる。
「平気なの?」
平静を装ってスプーンをおろしながら聞く。うう、頬が熱い。
「なんなら、にんにくも試してみる?」
自分から言い出すとこをみると、それも平気なのね。
「あなたたちって、本当に吸血鬼なの?」
「そうだって言ったじゃない」
「だって、十字架もにんにくも平気で昼間だってうろうろして、ちゃんとご飯も食べる吸血鬼なんて、他に何の特徴があるのよ」
「人間の作った吸血鬼像なんて、ドラマティックに誇張されたものだからね」
立ち上がって、沸いたお湯をプレスに注いでいく。店ではサイフォンだけど、こっちではプレスなんだ。
キッチンの中に、ふんわりといい香りがたちこめた。
コーヒーの香りは、私の中ではそのまま、アルの香りになってしまっている。さっきのアルの視線を思い出して、少しだけ胸が痛んだ。
「確かに夜にも強いけど、朝になって太陽の光で灰になるなんてこともないし、十字架もにんにくも平気だけど、中には単に嫌いだからってにんにくを食べないやつもいるだろうし」
私の前にコーヒーを置く。お砂糖ひとつ、ミルクはたっぷり。ちゃんと私の好みを覚えているところが、ユーキらしい。
「だいたい、血を吸ったくらいで人間が吸血鬼になることなんてないよ。蚊に血を吸われたって蚊にならないのと同じでね。もともと違う種族なんだから。人間を吸血鬼にするには、全身の血を全部入れ替えるくらいの大掛かりな儀式が必要になるよ」
自分のカップを持っていすに座りながら、面白そうに話す。
「え……あ、そう。そうよね」
「で、奏子はこんな夜中に、なんでわざわざ家を出たんだい?」
あ。そうよ。それが本題なのよ。
私は、一口飲んだコーヒーをテーブルに戻してユーキに向き直った。
「だから、アルの様子がおかしかったから、何かあるのかと思って……。さっきの話、教えてよ」
「奏子が出てきたことと、それが何か関係あるの?」
思いがけずまじめな目で、ユーキが聞き返した。
今度は私が口ごもる。コーヒーに視線をおとして。
「……栄養補給」
「は?」
「アル、なんだか随分衰弱しているみたいだったから……何か私にできることないかなあって考えて、アルが、本当に吸血鬼ならやっぱりアルの栄養ってって……私、一応健康だし、ちょびっとならいいかなあって……あきれた?」
歯切れの悪い話し方でもじもじとカップをこねくり回しながら、上目遣いでちらりとユーキを見ると。
「奏子」
あきれたというよりは、むしろ驚いたようなユーキの声。持っていたカップをテーブルに置いて。
「それ、自分でどういうことだかわかって言ってるの?」
「そりゃ、やっぱり怖いけど……アルなら、きっと大丈夫って思って」
悪いほうに考えないでもなかった。痛いんじゃないかとか、下手すれば死んじゃうとか。さっき否定されるまでは、私も吸血鬼になっちゃうんじゃないかとも考えてた。でも、早紀だって平気だったし、せいぜいがとこ私も貧血になるくらいかな、と。
アルのおじさんに襲われたときの恐怖を思い出す。だけど、アルはあの人とは違う。私を傷つけるようなことは、絶対しない。
「あのね」
数拍の沈黙のあと、ユーキが優しい声で言った。
「アルがあんなに衰弱しているのは、ここのところろくに寝ていなかったせいと、確かに栄養が足りてなかったせいだよ。あいつ好き嫌い多くて偏食なんだよね」
「アル、眠れてないの?」
「いや、そういうんじゃなくて……あいつ、毎晩、奏子んちに行ってた」




