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「どうぞ」

「あ、ありがとう……」

 目の前に差し出されたカップに視線をおとして、とりあえずお礼を言う。アルは、片方の眉をあげたけれど何も言わなかった。

 そうして自分のカップを取ると、私の隣に優雅に腰をおろす。

「ダージリンのファーストフラッシュだぜ。奏子のためにとっといたんだ」

「はあ……」

 そう言うアルの視線は、じ、と私に注がれている。いたたまれなくなって、視線をそらすと、私は目の前に置かれていたカップに手をのばした。持ち上げると、ふわりといい香りがする。

 変な薬とか入っていないでしょうね、これ。

 しばらく眺めたあと、思い切って口をつける。と、想像していなかった味に軽く目を見開いた。


 渋くない。何も入れてないはずなのに、ほんのりと甘い。私が紅茶を飲むときは大体ミルクティーにしちゃうのだけど、それは紅茶の渋みが苦手だからだ。けれど、これはストレートで飲んでいても全然平気。というか。

 おいしい。


「ようやく、笑ったな」

 は、として顔をあげると、嬉しそうにアルが微笑んでいた。

 予想外の紅茶のおいしさに、うっかり顔がほころんでいたらしい。私は、表情をひきしめる。


「そんなに緊張するなよ。ゆっくりとくつろいでくれれば……」

「そういうわけにはいかないわよ。まさか、わざわざお茶するだけに私を連れてきたわけじゃないでしょ? 一体何が目的? いっとくけど、身代金がとれるほどうち、お金持ちじゃないからね」

「目的? もちろん、奏子だよ」

 アルは自分の持っていたカップをテーブルにおくと、視線を私にとめたまま体をよせてきた。

「言ったろ? 君は俺の花嫁だって。ようやく、見つけた」

 その声と瞳の色っぽさに、思わずめまいがしてしまった。そんな場合じゃないとはわかっている。わかっているけど、でも。

 少しだけかすれた、低い声。それは、反則。


「か、勝手に決めつけないでよ。大体あんたのことなんか知らないし、いきなり花嫁だなんだって……ちょっと……」

 口にした文句がだんだん小さくなっていく。

 なんとなれば、私のカップを取り上げてテーブルに置いたアルが、ほとんど私を押し倒さんばかりに迫ってきたから。せまいソファーの上で、アルを避けてのけぞっていく。アームレストに頭がつくと、アルがここぞとばかりにのしかかってきた。


 私の頬にかかっていた髪を、そ、と長い指がはらう。壮絶に艶めいた顔で、アルが微笑んだ。

「じゃあ、もっと知り合ってみる? いいぜ。俺のこと、一晩かけて教えてやるよ。じっくりと、な」

 間近に迫る、青い瞳。


 こ、これってピンチ?! 私、今、ピンチなの?!


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