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「あ、あの……」

「この人が、乃木奏子さんです」

「うん。今そこで会ってね。かわいらしいお嬢さんだ」

「彼女が来るのを見計らっていましたね」

「はは、見破られたか」

「叔父さんの考えていることくらいわかりますよ」

「まいったな」

 なんて、二人で笑いあっちゃって。

 えーと、今、私、この人にどうにかされかけたんですけど……


「こんなところではなんですから、店の方へいらしてください」

「そうしたいところだが」

 私の方にちらりと視線をおくって。

「彼女を怖がらせてしまったからね。また今度にするよ」

「そうですか。では、いずれまた」

「うむ。ああ、今度は連絡もなしにいなくならないでくれよ」

 それを聞いて、アルが苦笑する。

「すみません。今回は急を要したものですから……。落ち着いたら連絡はするつもりでした」

「そうか。……あまり、心配させるな。じゃあな」

 井戸端会議のような気安さでそう言うと、私にも軽く会釈して、その『おじさん』はすたすたと歩いていってしまった。


  ☆


「ほら、行くぞ」

 アルも、何事もなかったように歩き出した。

「な、なんだったのよ、今のは?! あの人……って……」

「俺の叔父だよ」

「おじ?」

 とりあえず足の震えはとまっていたので、どさくさにまぎれて私の肩を抱いたままのアルの手をはらう。

「父の弟に当たる人」

「そういうことじゃなくて! どうしてあんなにあっさりと話ができるのよ! 私、下手すると、こ、殺されかけたんじゃないの?」

 さっきの光景を思い出して、ぞ、とする。

 そうだ。あの人は、本気だった。本気で……私の存在を消そうとしていたんじゃないの? 邪魔って、きっと、そういうこと、だよね。


「そうかもな。でも、悪い人じゃないよ」

 涼しい顔で、アルは歩き続ける。

「どういうことよ、それ!」

「さてね。それより奏子ちゃん。まずは俺に言うことがあるんじゃない?」

 あ。

「……助けてくれて、ありがとう」

 アルがこなかったら、一体どうなっていたんだろう。

 青ざめた私に、アルは笑いながら人差し指で自分の唇を指した。

「ついでにそこで、抱きついて感謝のキスなんてしてみる気はない?」

「馬鹿言わないでよ」

「やれやれ、これだからお子様は」

 肩をすくめて言うアルのつま先を、よろけた振りしてふんでやった。

 それより。


「アル」

「ん?」

「アルだって、私に言うことがあるんじゃない?」

 睨みつける私に、飄々としたその顔が憎らしい。

「私、まだ怒ってるんだから」

 なるべく、しかめっ面で言ってみた。その顔で見当がついたらしく、アルが苦笑する。

「そんなに怒るとは思ってなかったんだよ。悪かったってば」 

 だからと言って、はいそうですかと許すのもしゃくで、私は無言のままアルを睨み続ける。


 だって。

 その唇で、早紀に触れたくせに。


 ……………………え?


 無意識のうちに考えてしまった言葉に、あわてて首を振る。

 ち、ちがう! そんなこと怒ってるんじゃなくて! 何考えてんの、私!

 あたふたしてしまった私をどう受け取ったのか、アルはにやりと笑った。

「それとも、抱きしめてキスしたら許してくれる?」

「絶対に許さない!」

 ぷい、と顔をそむけると、私はアルを置いて歩き始めた。

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