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「えと……」
「愛を確かめ合ってました」
真面目に言った早紀に吹き出してしまった。悠希さんも苦笑してる。
「それは、おじゃましました。けど、団体でお客さんが来ちゃったんだ。出られる?」
「あ、はい」
私たちは急いで立ち上がった。早紀を見ると、少しだけ頬が赤い。うわー、本当に悠希さんのこと好きなんだ。
自分を客観的に考えてみる。うん、別に悠希さんを見ても、そんな風には思わないな。むしろ私は……
一瞬頭を横切った姿に、ぶんぶんと首を振る。
あ。話しててケーキ食べ損ねた。
☆
そのあと、お店は珍しく忙しくなった。店をにぎわせているのは、多分、休日で出かけた帰りらしい人々。
「先に休憩とっといてよかったね」
お客さんから見えないところで、早紀がこっそり息を吐いた。
「ごくろうさん。はい、これ四番ね」
「…………はあい」
うらめしげな目でマスターを見上げてから、早紀は差し出されたカップをトレーにのせて運んでゆく。その時にはもう、すっかり笑顔になっていた。
「なに笑ってるの? 奏子」
カウンターの指定席から、悠希さんがのほほんと言った。
「早紀って、本当に楽しそうに働くなあって」
いつもにこにこしている早紀は、いるだけでその場の空気が和らぐ。ウェイトレスも今回のバイトが初めてじゃないから慣れてるし、楽しそうに接客する姿を目で追うお客さんも多い。
「そうだね。向いてるんだよ、こういうの。奏子は楽しくない?」
「慣れるまでは大変でしたけどね。今は、結構楽しいかな。でも、まだ、早紀みたいにてきぱきできないから」
それを聞いて、悠希さんは優しく微笑む。その癒すような笑顔は、早紀でなくとも思わず見惚れてしまう。
なるほど、みんなこの笑顔にまいっちゃうのね。
「同じようにやろうとしなくていいよ。奏子は奏子のやり方でやればいいんだから。奏子の笑顔は、十分魅力的だよ」
……この人絶対、ホストの素質あるわ。意識してやってるんだったら悪質だし、無意識だとしたらさらに悪質よね。
「奏子、いつまでさぼっている気だ。お客さんだぞ」
言われて入口に目を向ければ、いつの間にか来店していたお客さんが席に座ろうとするところだった。
わ、ベルの音に気付かないほど話し込んでいたのかな。失敗、失敗。
あわててお水とメニューを持っていこうとする。と。
「いい。僕が行こう」
なぜか急に、悠希さんが立ち上がった。
「え、いいですよ。私、行きますよ」
「いいから。奏子はここにいて」
「でも……」
「自分で行くって言ってるんだから、いいんだよ」
マスターも平然と言う。ので、持っていこうとしたトレーを、釈然としないまま悠希さんに渡した。
「いらっしゃいませ」
悠希さんが優雅な仕草で、グラスをテーブルに置く。何気なくそのお客さんに目を走らせて、思わず眉をひそめてしまった。
言っちゃ悪いけど、その人は喫茶店の雰囲気にそぐわない人だった。中年くらいかな。顔はふせぎみにしていたのでよくわからないけど、その背負っている雰囲気が、ものすごく重く見えた。はなやかな女性の多い店内で、そこだけ浮いて見える。
別に暗いおじさんが一人で喫茶店に入ったって悪くないのだろうけど、接客する必要がなければ近寄りたくないタイプだなあ。




