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精算がすむと、野宮君はちらりとカウンターに視線を向けた。
「あの二人は?」
「ここのマスターよ。カウンターに座ってるのはそのいとこで、同じバイト仲間」
「この店の採用基準は顔か?」
言われて、野宮君のすこしばかり険のある視線に気づいた。
「心配?」
「んー、たいがいの女って、あんな顔した奴ら好きだろ」
「女全般がそうとは限らないわよ」
でも、そういえば早紀ってば、最初に来た時も、がっつりとあの顔に食いついてたっけ。どうなんだろう。
「お前は?」
振り向いた野宮君が、眉をひそめながら聞いた。
「私?」
「やっぱり、ああいうの、かっけーと思う?」
私、は……
「どんなに顔がよくても、それだけじゃ、ただの鑑賞用よ」
……かな。
だって、口は悪いし人使いは荒いし……でも。
昨日、震える私を抱きしめてくれたマスターの手は、ひどく優しかった。普段ドSとしか思えない言動の中にも、時折、とんでもなく優しい目になるときがあることも、知っている。
ドSならドSのままでいてくれないかなあ。でないと、私……
「そっか」
ほっとしたような顔で、野宮君は笑った。
「じゃ、また明日な。バイト、がんばれよ」
「うん、ありがとう。また明日」
野宮君を見送ってカウンターへ戻ると、悠希さんがにやにやと私を見ている。
「奏子の彼氏?」
「違いますよ。あれは、早紀狙いでここを偵察に来たんです」
「え? でも……」
何か言いかけた悠希さんの声を遮って、マスターがぴしゃりと言った。
「さっさと食器さげてこい」
「あ、はい」
……ほら。
顔がよくても、人使い荒いんだから。
そう思う自分を、なんだか言い聞かせてるようだな、と思ったことは気付かないことにする。
☆
外は、しとしとと雨が降っている。今年の梅雨は、例年になく梅雨らしい梅雨だ。雨、好きだからいいけど、この雨のせいか客足は遠のいていた。
お客さんがこない。よって、暇。証明、終わり。
今日は土曜日だから、ティータイムとして三時から開店している。けれど、開店してから二時間がたとうとしていても、まだ一人も、お客さんは来ていなかった。もともとそれほど混むお店じゃないけれど、それにしてもこれはひどい。
「お客さん、こないねー」
カウンターにもたれながら、どうやら同じことを思っていたらしい早紀が言った。さすがにここまで暇だと、すこしくらい姿勢を崩していても怒られない。
外を見ていた私は、そのままの姿勢で答える。
「雨になると、余計この喫茶店て目立たないよね」
「奏子がそこでずっと外を睨んでいるからじゃないのか?」
カウンターの中にいたマスターが、口をはさんできた。暇なのは、みんな同じだ。悠希さんはいつもの席で、分厚い洋書を読んでいる。
「睨んでるんじゃありません。外、見てただけです」
窓の向こうには、ステンドグラスのせいで少しゆがんで見える、けぶるような薄暗い景色。




