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 無表情だったマスターが、にっこりと営業用の顔をつくった。

「どうぞ、お好きなお席へ」

 へー。男でも、この顔見るとぼおっとなるんだ。


 私は裏へ入ると急いで着替えて出てくる。

「ほら、ブレンド」

 カウンターには、もう野宮君の分のコーヒーができていた。他にお客さんがいないからか、マスターにいつもの愛想がない。

「はい」

 私は、一呼吸置くとそれをトレーにのせた。

「お待たせいたしました」

 目の前にコーヒーを置くと、まだ真ん丸な目をした野宮君が私を見上げていた。


「それ……ここの制服?」

「そうよ。かわいいでしょ?」

 背後にマスターの視線を感じながら、極力気をつけてお店モードで受け答えをする。いくら仲のいい同級生と言っても、ここではお客様。適当な態度で接客したら、またマスターに怒られる。

「なんか、お前もいつもと雰囲気が違うな」

「ほほほ、ここでは、そういう教育をうけているんですの。……だから、疲れるんだって」

 まだぽーっとしたような顔の野宮君としばらく雑談してると、新しいお客さんが入ってきた。

「失礼いたします。……いらっしゃいませ」

 野宮君の席から離れて、お水を用意する。


「マスター、ブレンド二つ」

 注文をとってくると、マスターはなんだか難しい顔をしていた。

「マスター?」

「何?」

「あ……いえ。えと、今日は悠希さんはいないんですね」

 機嫌悪そうですね、ともいえず、話をごまかす。

「悠希は……」

 言ったところで、ちょうど悠希さんが裏から出てきた。


 休憩室の奥に階段があって、そこから二階へといける。そこが、マスターと悠希さんの居住区になっているらしい。入ったことはないけど。

「や、奏子。そっか、今日は早紀ちゃん、休みだっけ」

「はい。だから悠希さん、忙しくなったらお手伝いしてくださいね」

 にっこりと営業スマイルで言うと、悠希さんの笑顔が固まった。器用にもその顔のまま、僕、働くの嫌いなんだけど、とぶつぶつ言って、いつもの位置に座るとマスターにコーヒーを頼んだ。


「ほら、ブレンド、ふたつ」

 マスターは先にオーダーの分をだした。それを出してカウンターに戻ろうとした時。

「乃木」

 呼ばれて振り向くと、野宮君が立ち上がったとこだった。

「もう帰るの?」

 一緒にレジへ向かうと、野宮君は小さくため息をついた。


「だめだ。ここ、俺のような小市民がくるとこじゃない。お前ら、よくこんなとこでバイトしてるな」

「最初はそれこそ大変だったのよ? でも、仕事自体はそれほど忙しくならないし時給もいいし、なかなかいいバイトなの。今度は、早紀のいるときにおいでよ。早紀がこれ着てると、すっごいかわいいんだよ」

 そう言って、ふわりと自分のスカートをゆらしてみる。野宮君は、少しだけ目を細めた。

「あー……そうだな。かわいいよ」

「ね? 今度はケーキセット頼めるくらい、しっかりお小遣いためておいてね」

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