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「そんな理由で、やつらにつっかかっていったのか? もしそれでなにかあったら……」
「だからって!」
思わず声をあげていた。
「自分にとって大切なものを馬鹿にされて、黙ってなんていられません。私にとっては、一発や二発殴られるより、そっちの方がよっぽど大ごとなんです!」
自分でも、馬鹿だとは思うわよ。あそこでマスターに助けてもらわなかったら、確実に怪我をしてただろう。それでも。
「ああ、思い出したらまた腹立ってきた。あの連中、もう一度首根っこ捕まえてきてマスターに謝らせたい!」
思いだし憤慨している私の耳に、押さえた笑い声が聞こえてきた。見れば、悠希さんが肩を震わせて笑っている。どういうわけか、早紀が得意げな顔をしていた。
「奏子って、いい女でしょ?」
「ああ、そうだね。わかってる? マスター。守られたのは、マスターの方だったみたいだよ?」
え?
私はきょとんと、マスターに視線を向ける。と、片手で口元を隠したマスターが、視線を逸らした。
「えと……」
「早く、片付けて来い」
私に背を向けて、マスターは戸棚からカップを取り出す。
「え? ……え?」
ぽかんとしてると、私が持っていたモップを早紀がさっさと取り上げる。悠希さんが、カウンターの真ん中の席を空けてくれた。あれよあれよという間に、ちょこんとそこに座らされてしまう。
ことり、と目の前にコーヒーが置かれた。今日はブラック。
「うまいんだろ? 残すなよ」
ふ、と力の抜けた笑顔を浮かべたマスターに、どうしてか私はどきりとした。
☆
「お前ら、最近バイト始めたんだって?」
帰りの支度をしてると、後ろから声をかけられた。
「野宮君」
がっしりした体格の男子生徒は、野宮大輔。去年の夏、早紀に告白して見事に玉砕した同級生だ。諦めきれない野宮君の相談を受けているうちに、気が合ってよく話をするようになった。
「うん、もう二週間くらいになるよ」
「大丈夫なのか? ほら、林……」
あたりをうかがって、野宮君の声が小さくなる。それでも野宮君の言いたいことはわかった。
去年、早紀は別のファミレスでバイトをしていた。けれどそこの常連客が早紀にほれ込んでしまい、ストーカーまがいの行為をされて、それが原因でバイトをやめているのだ。
「いまのとこ、早紀は大丈夫よ。それに、今のバイト先って、そういう雰囲気のお店じゃないし。いっぺん、来てみる? お財布ぱんぱんにして」
「ええと、いろいろつっこんでみたいけど……まず、お財布、ってのは?」
「コーヒー一杯、千五百円。一番高いのは、なんとよんせんななひゃくえん」
「どわっ?! ぼったくりじゃねえか。そういう雰囲気って、ようは高級な、ってことかよ。んじゃ、今のとこ、林は大丈夫、って、他の誰かは大丈夫じゃないってこと?」
あ。
野宮君に言われて、無意識のうちにそういう言い方をしてたことに気づいた。




