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窓にはめ込んだステンドグラスのせいで、赤いはずの夕日が色とりどりに店の中に降り注いでいる。店内は、エアコンがほどよく効いていて心地いい。
『リースリーナ』でバイトを始めてから二週間が過ぎた。
「いらっしゃいませ」
ドアベルの音に、緊張して背筋をのばす。
カウンターの中のマスターからグラスに入った水とおしぼりを受け取って、お客さんのテーブルに置く。ふわりと鼻先をくすぐった香りに、初老のそのお客さんがふと顔をあげた。気付くか気付かないかくらいの微かなライムの香り。小さなかごに入っているおしぼりには、ほんの少しハーブの香りをつけてあるのだ。
「お決まりになりましたら、お呼びくださいませ」
頭を下げたまま、小さく下がる。
そのままスカートのすそに気をつけながらカウンターへ戻ると、マスターが小さく呟いた。
「五十五点」
「ええっ? 今日は下がるの、きれいにできたでしょ?!」
お客様に聞こえないように、こちらもほとんど声を出さずに抗議。それでも、顔は笑顔で。
「グラスの置く位置。もっと離して出さないと、メニューを開く時に邪魔になるだろ」
「うっ……」
「あと、前ばかり気にしすぎて、背筋が丸くなってる。胸を張れって、お前何度言われたら治るんだよ」
初対面の愛想のよさはどこへやら、マスターの物言いは容赦ない。あの時、うっかりとかっこいいなんて思ってしまった自分が恨めしい。
あれはきっと、やってきたバイトを逃さないための仮面だったんだわ。あんな好条件でバイトがいないなんて、きっとこのマスターが原因に違いない。
「ほら、注文決まったようだ。とっとといって来い。笑顔がかたくならないように。背筋を伸ばして」
とん、とマスターが私の背中を押した。言ってることがいちいち的を射ているから、さんざんに言われても文句を返すこともできない。
この調子だと、今日もまた居残りかなー……
バイト初日の、“研修”。てっきり、メニューの内容や仕事の役割分担を教えてもらうのかと思っていた。
着替えてまずマスターに言われたのが、「そこに立って」だった。
マスターの言う「美しい立ち方」をなんとかOKもらえるまでに、一時間近くかかった。
そのあとは、歩き方、言葉遣い、お辞儀の仕方。指先の動き一つに至るまでことごとく指導されて、気分はもう花嫁修業。
でも、驚いたことに、効果は普段の生活にも如実に表れていた。この二週間で、お母さんにもびっくりされるくらい、立ち居振る舞いが上品になってきているのを認めないわけにはいかない。毎日徐々にあがっていくマスターの辛い点も、くじけずにやっていけるコツなのかもしれない。
「ああ、疲れた」
休憩室に入って椅子に倒れこむと、どさっとテーブルの上につっぷす。ふくらはぎや変なとこの筋肉が痛いー。
カウンターの裏、面接に使った部屋はそのまま休憩室にもなっていた。




