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重そうに見えた扉は音もなく開いた。中は真っ暗で、なにも見えない。ひんやりした空気がゆったりと足元を流れていく。
「動かないで」
アルの声がして、しばらくそのままで待っていると向こうに小さい光がともった。
ここでもろうそくなんだ。この館、もしかして電気って通ってないのかしら。
ぼんやりと見えてきたそこは、あまり広くない部屋だった。階段と同じくレンガ造りの壁。その壁の正面には、立派な天蓋のかかった肖像画がかかっている。他に見るものもなく、自然と目はその肖像画にひきつけられた。
……大仰に飾ってあるけど、それほど上手でもないような。色あせている感じからして、ずいぶん古いものみたい。これ、油絵だな。
それは、白っぽい薄物をまとったきれいな女性の絵だった。
アルはその絵の前にいた。
「見せたいものって、これ?」
「そう。リースリーナの肖像画だ」
いいながらその絵を見上げたアルの瞳が、少しだけ熱をはらんでいるように見えた。
「肖像画? でも……」
言いよどんで眉をひそめる。だって、その絵。
大きな水色の瞳に、やけに赤く彩られた唇。ありえないほど長い銀色の髪は、座り込んだ水の中に落ちて渦巻いている。彼女は、どういうシチュエーションなのか、一面の水の上に座っていた。
肖像画というよりは、どちらかというとおとぎ話の挿絵のような絵だった。それとも、かなりデフォルメされた人物画なのかな。
「きれいな子だったよ。気が強くて意地っ張りで歌う声がとてもきれいで……」
……だった?
背後から聞こえたユーキの声に振り向く。
「この人、どういう人なの?」
「アルの恋人さ」
「こ、恋人?」
思わず、場に似合わない声をあげてしまった。
「じゃ、なに? 恋人がいるくせに、嫁だなんて言って私をここまで連れてきたわけ?」
「リシィは、もうこの姿では存在しない」
アルが、その肖像画を見つめたまま小さく呟く。
「まだ、思い出さないの?」
思いがけない優しい声音でアルが振り向いた。
「……何を……」
「リシィ。君は、リースリーナだよ」
私の背中に、アルの腕がまわされる。あわててその胸を押し返そうとするけれど、私がもがいてもアルは腕を緩めようとしない。
「ちょっ、ちょっと!」
「思い出してよ、リシィ。俺の、俺たちのことを」
耳元で囁かれる声は、かすかに震えていた。それに気がついて、押しのけようとした手が思わず止まる。
「君はリシィの生まれ変わりなんだよ、奏子」
感情的なアルの声とは対照的な淡々とした声が響く。
「……生まれ変わり?」




