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- 6 -

「この姿のリシィは、百年前に跡形もなく消えてしまった」

 は?

「百年? え、でも、さっき、恋人って……え?」

 アルがゆっくりと離れる。薄闇の中でもわかるくらい、アルの瞳が赤く光っていた。

 恐怖。鳥肌がたつ。


「あなた達……」

 後ずさろうとする私の背後から、ユーキの声が響いてきた。

「僕たちはね、いわゆる一般的に言うところの、吸血鬼、ってやつかな」


  ☆


 吸血鬼? 

 聞こえたその言葉の、意味はわかっても認識ができない。

 だって……あれ、架空の生き物なんでしょ? それこそ、おとぎ話の……


「な、何言ってんの……? からかうのも……いい加減にしてよ」

「奏子」

 赤い目をしたアルがにやりと笑った。

 その唇に伸びるのは……するどい、牙。

「いやっ! 化け物!」

 私は、思わず頭を抱えてその場に座り込む。


「アル」

 静かな声が私の背中に落ちる。

「怖がらせてどうするんだよ」

「信じてくれないなら、あとは実力行使、だろ」

 実力行使って……実力行使って!


 二人が、くすくすと笑う声が聞こえる。うす暗闇に響くその声が、私の恐怖をかきたてた。

 なんなの?! なんなの、この二人……怖い……怖い!

「も、やだ……帰る。家に、帰して……」

 体を縮こまらせて震える私の肩に、そっと暖かい手が置かれた。

「悪かったよ、怖がらせて。ほら、もう大丈夫だから。上、行こう」


 優しいアルの声に、おそるおそる顔を上げると、もうその瞳の色は青に戻っていた。立つように手を差し出されても、動けない。

「奏子?」

「足が……」

 私は、腰が抜けて立てなかった。


 ☆


「ほら」

 ソファに私を座らせると、アルが新しいカップを渡してくれる。まだ震える手でそれを受け取って、熱い紅茶を一口飲んだ。

 熱い液体が体に広がって、ようやく私は自分の体が冷えていたことに気がついた。

「落ち着いた?」

 そう言ってまた、アルは私の隣に座る。反射的に、私は体を硬直させてしまった。そんな私の様子に気づいたのか、アルはさっきより少しだけ距離をとる。

 カップ半分ほど紅茶を飲んだところで、とりあえず震えは止まった。

 けれど……頭は混乱したまま。

 吸血鬼? 生まれ変わり? 

 夢だわ。やっぱりこれは。


「ねえ」

「ん?」

「ちょっと、ここつねってみて」

 私はカップを置くと、アルに頬を示した。

「は?」

「これ、夢なんでしょ。だったら、てっとりばやくつねってみるのがいいかなあって」

 ぶ、とまた二人が吹き出す。息の合うこと。

「ほ、ホントに、奏子って面白い……」

 笑いをこらえながらユーキが言った。アルが笑いながら手を伸ばしてくるのが見えて、私はぎゅ、と目をつぶった。

 と。

 頬に何かが触れた感触がしたけれど、痛くない。

 あ、やっぱり夢なんだ。

 ……違う!

 何をされたか気づいて、ばちりと目をあけながらあわててアルから飛び退る。

 今、今……キス……され……!

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