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「この姿のリシィは、百年前に跡形もなく消えてしまった」
は?
「百年? え、でも、さっき、恋人って……え?」
アルがゆっくりと離れる。薄闇の中でもわかるくらい、アルの瞳が赤く光っていた。
恐怖。鳥肌がたつ。
「あなた達……」
後ずさろうとする私の背後から、ユーキの声が響いてきた。
「僕たちはね、いわゆる一般的に言うところの、吸血鬼、ってやつかな」
☆
吸血鬼?
聞こえたその言葉の、意味はわかっても認識ができない。
だって……あれ、架空の生き物なんでしょ? それこそ、おとぎ話の……
「な、何言ってんの……? からかうのも……いい加減にしてよ」
「奏子」
赤い目をしたアルがにやりと笑った。
その唇に伸びるのは……するどい、牙。
「いやっ! 化け物!」
私は、思わず頭を抱えてその場に座り込む。
「アル」
静かな声が私の背中に落ちる。
「怖がらせてどうするんだよ」
「信じてくれないなら、あとは実力行使、だろ」
実力行使って……実力行使って!
二人が、くすくすと笑う声が聞こえる。うす暗闇に響くその声が、私の恐怖をかきたてた。
なんなの?! なんなの、この二人……怖い……怖い!
「も、やだ……帰る。家に、帰して……」
体を縮こまらせて震える私の肩に、そっと暖かい手が置かれた。
「悪かったよ、怖がらせて。ほら、もう大丈夫だから。上、行こう」
優しいアルの声に、おそるおそる顔を上げると、もうその瞳の色は青に戻っていた。立つように手を差し出されても、動けない。
「奏子?」
「足が……」
私は、腰が抜けて立てなかった。
☆
「ほら」
ソファに私を座らせると、アルが新しいカップを渡してくれる。まだ震える手でそれを受け取って、熱い紅茶を一口飲んだ。
熱い液体が体に広がって、ようやく私は自分の体が冷えていたことに気がついた。
「落ち着いた?」
そう言ってまた、アルは私の隣に座る。反射的に、私は体を硬直させてしまった。そんな私の様子に気づいたのか、アルはさっきより少しだけ距離をとる。
カップ半分ほど紅茶を飲んだところで、とりあえず震えは止まった。
けれど……頭は混乱したまま。
吸血鬼? 生まれ変わり?
夢だわ。やっぱりこれは。
「ねえ」
「ん?」
「ちょっと、ここつねってみて」
私はカップを置くと、アルに頬を示した。
「は?」
「これ、夢なんでしょ。だったら、てっとりばやくつねってみるのがいいかなあって」
ぶ、とまた二人が吹き出す。息の合うこと。
「ほ、ホントに、奏子って面白い……」
笑いをこらえながらユーキが言った。アルが笑いながら手を伸ばしてくるのが見えて、私はぎゅ、と目をつぶった。
と。
頬に何かが触れた感触がしたけれど、痛くない。
あ、やっぱり夢なんだ。
……違う!
何をされたか気づいて、ばちりと目をあけながらあわててアルから飛び退る。
今、今……キス……され……!




