超やわらけ~よ!
都内とはいえ正義の越してきた登調子市も、少子化と不況、さしたる特徴も強みもないことが原因でかなり寂れていた。数年前なら出歩くのは元気な老人くらいのもので、棺おけに両足を突っ込んだ老人が乗る救急車と霊柩車が主な交通手段と皮肉られたくらいである。もちろんそんなことを口走ってしまった代議士は高齢化の煽りを受けて二度と当選することはなかったし、かといって新たな市の代表にこの問題を是正する力もなかった。
しかしこの街に彼女が訪れた。
〔神さん〕だ。そして言った。
「私おばあちゃんッ子だったんだよねぇ~」
そして〔神さん〕は登調子駅から南に徒歩10分の位置に〔才覚高校〕を作り、自らが高校の理事長となった。
その影響は顕著で〔才能〕目当ての人間と彼らにサービスを提供する人間が外部から入ってきており、平日の昼間でも駅前の繁華街にはそこそこの人通りがあった。
時は放課後。
始業式やクラスメイトとの顔合わせやレクリエーションなど、保健室で本日のイベントを全てスルーしてしまった正義は、仕方なく夕食の買出しのため学校と自宅アパートの間にある駅前へとやってきていた。
そして、
「これで一通り生活必需品は揃ったね。あ、でも駄目だよ?一人暮らしだからって掃除とか洗濯サボっちゃ。あと家計簿もつけること。いい?」
「あ、うぬ」
「何?うぬ、じゃわかんない。聞いてる!?」
スーパーを出、車道側を歩く正義は隣で喋る連れに改めて言った。
「あの、チヒロ姉?」
そう言って少年は慎重に身をよじる。
「何?セイギ?」
少し低い位置から澄んだ瞳で正義を上目に見上げる少女。スーパーの買い物袋を持った正義の左腕に、ドリル男をブン投げた両手を絡めるチヒロの目には疑問の色。彼女との顔面距離が近づく。
「う、お!そ、その、もうちょっと・・・」
「どうしたの?」
チヒロが正義の顔を覗きこみ、手入れの行き届いた茶色の髪からシャンプーの匂いが届く。
「ふ、ぬ!い、いや、その、だから」
「気になる。ハッキリ言ってよ!」
チヒロが正義の左腕を逃げられないように抱きしめ、男子生徒を釘付けにした胸の間に引き寄せる。万力のような少女の剛力から正義が腕を抜けるはずもなく。
「う、い!だ、だから!」
「ちょっと、顔赤いよ?大丈夫?」
さらに寄せられた顔で桃色の唇が健康的な艶を放ち、
『ちょ、やめてえええええええ!?』
正義は耐え切れずに一度チヒロの腕を振り払い、側に立っていた電柱の前にうずくまった。
そして、
『お姉ちゃんに欲情してる僕は変態ですかああああああ!?』
半泣きの正義はチヒロから電柱に向かって歯を剥き、ギリギリと音が出るほど食いしばって『ヒヒッ!超やわらけ~よ!チヒロ姉ヒヒッ!』という自分の心の男の子の部分から目を背けた。