大事なことは2回言います
高校男子なら誰もが喜びそうな現状を正義が苦しむのは簡単な理由だ。
『お姉ちゃんみたいなもんなんだから!弟みたいなもんなんだから!』
つまり正義がチヒロの対応と自分の反応に戸惑っているのはこの思考が原因だった。
さらに、
『な、なんかチヒロ姉、変わった、よね?』
彼女をよく知る正義が否応なく自覚せざる負えない現実がそれだった。。
確かに一年前、先に地元の中学校を卒業したチヒロは今と変わらず明るかった。物事全般において妙なセンスを持っていたものの、基本は正義とは正逆の才色兼備、思ったことをハッキリと言う潔さを持っていた。
もちろん再会した彼女の、特に内面の部分の美点がかつてと変わってはいないのだろうことは正義も少ないやりとりの中で感じていた。
しかし変わった点もある。
つまり、
『ま、前より美人になってる、し』
妙なセンス全開のヘルメットとマント、パーティメガネを外したチヒロは、正義の記憶にある彼女よりさらに可憐になっていた。
『そ、それにあんなくっついて・・・』
正義の記憶によれば先のように腕を組んで歩いたことはなく、女の子だと意識させるような小悪魔技術を正義に使いはしなかった。
「ホントに大丈夫?」
チヒロが上から胸を押し付けるように正義の頭を抱え、柔らかさの中に弾力のある奇跡の肉感が文字通り制服越しにも正義の脳天を直撃した。
『うほおひいいいいいい!?』
動揺する正義の精神世界で『ヒヒッ!いいじゃねぇかよ、実の姉ってわけじゃないだしさあ』『煩悩去ねええええい!去ねええええい!』という凄まじい葛藤が起き、ギリギリのところでダーク正義を制したライト正義は慌てて身を起こした。
そして、
『や、やっぱり駄目だ!ダークは駄目だあああああ!』
だから正義は汗と涎と鼻水と涙に濡れた顔面をチヒロに向け、勇気を振り絞って言った。
「チ、チヒロ姉、こんなこと言いたくないけど」
「何?」
「あ、あんまりくっつくのはちょっと。僕、苦しくなっちゃうし」
「そう、なの?」
正義の言葉にチヒロの顔に広がったのは、不安。見る間に春の日差しを思わせた少女の表情にかげりが生まれる。
『嘘、え?なんで?だって、昔はこんなじゃなかったし・・・えっと』
予想外だった彼女の変化に正義自身も不安になる。
だからお人好しな少年は続く言葉を紡いでしまった。
「あ、あの、こういう場所ではちょっとって話で、その」
「・・・嫌、だったんだ」
「いや、だからあの、そういうことじゃなくて」
「そう、だよね。久しぶりに会ったからってはしゃいで・・・私、馬鹿みたい」
チヒロがフイッと顔を背け、正義に肩を落とした小さな後姿を見せる。
だから、
「ち、違うんだ!」
正義はそう言った。刹那。
「あ、違うんだ?」
笑顔でチヒロが振り向き、また左腕に少女の両手が絡んだ。そして正義は直感した。
『一連の全てが巧妙な罠だとおおおおおおおおおおお!?』
顎をガクガク言わせながら正義は自分の性格を熟知した策士・チヒロを凝視。しかし少女は勝ち誇った笑みを浮かべて悪びれもしない。
さらに、
「ホラ、行こう?今日は、〔私がセイギの夕飯〕・・・私が夕飯作ってあげるから!」
『なぜ間を置いて2回言ったああああ!?〔私がセイギの夕飯〕んんんん!?そして僕の自宅に来るという流れは確定なのかああああああ!?』
そうやって正義は激しくうろたえ、『逆に僕が食われる!?』と妄想した。
そして〔姉と弟〕の関係を再び意識して、
「い、いいよ、夕飯なんて!じ、自分で作るから!」
と、抵抗を試みた。
だが、
「セイギは料理苦手でしょ?包丁持ったら二秒で指切ってその二秒後に自分の血を見て倒れたことあったし」
「う!」
「じゃあ決まり!」
正義の予想した通り、チヒロは譲らなかった。だから今度は正義もそれを見越して考えた答えを返す。
「だ、大丈夫だよ!も、もし作れなくても、僕も一応その、〔才能保持者〕だし、ちゃんと国から特別奨学金、もらってるんだ。だ、から、いざとなったら出前とればいいんだし」
正義の言葉通り、〔才能保持者〕は国から特別な金銭補助を受けることが出来る。〔才能保持者〕はその存在自体が国の利益とみなされ、また奨学金というリスクに対してリターンが大きいためである。
『だからこれでチヒロ姉も引き下がる。少なくとも今日くらいは・・・』
だが正義は自分が〔才能〕キーワードから導かれる地雷を踏んだことに気づいていなかった。
つまり、
「あ、そういえば!」
「え?」
「正義の〔才能〕って結局なんだったの?」
『ロケットブースター(こいつ)のことすっかり忘れてたあああああ!』
正義は羞恥からチヒロに自分の〔才能〕について何も言っていなかった現実に直面した。




