彼の従者の真実
「公主様、―――藍琳。此度の茶番に付き合わなければならないとは、人間とは、不便な生き物だ」
「仕方の無い事だわ。教会が盗み出した雷獣様と、その番を助け出す為には、他に舞台が無かったのだもの」
アイリーン様の傍らには、伝承に語られる麒麟の姿があった。
否、私達が認識していなかっただけで、アイリーン様が輿入れの為に我が国に来た時から麒麟はアイリーン様の傍に、―――ただの従者の灼曄として存在していたのだ。
雷獣様も人の姿に変わるのだろうか、と脳裏に浮かんだが、麒麟様曰く、雷獣様は人型には擬態する事はない、擬態する必要のない存在であるそうだ。
「これがこの国に祝福を齎す守護精霊である事実は間違いないが、女神とやらの教義に基づき在り方を変えたこの国は、これにとっても、これの番にとっても毒だ。
故に、精霊界と最も近い華國の霊山まで連れ帰る事の出来る機会を、2000年、待ち続けていたのだ」
精霊界に輿入れを果たした聖女は精霊となり、番である守護精霊と共に国に祝福を与える。
精霊となるとはいえ、聖女は元はただの人間。
数百年経過する頃には寿命が尽き、再び精霊の花嫁となる存在として人間の世界に生まれ変わる、と言うのが本来の聖女の在り方だと麒麟様は語った。
女神信仰により守護精霊と聖女の在り方が変化した結果が、我が国で頻繁に土地に負のエネルギーが溜まり、都度、碌に魂を休める事無く聖女が誕生していた理由であると言う。
「わたくし、アカネをたっぷり甘やかすと決めているの」
アイリーン様には幾度か、麒麟様の花嫁として輿入れを果たした記憶があり、我が国の守護精霊である雷獣は、お二人の間に誕生した仔の1柱であるのだ、と鈴の音を思わせる声音で語った。
アカネは、何処かの時代で、アイリーン様の敬愛する友人だったのだ、と、何処か寂しげに語っておられた。
お二人にとって雷獣は愛しい我が子であり、アカネはその番だ。
大切にしない訳がないだろう。
華國に渡ったアカネからは度々、お二人から少々度の過ぎた愛情表現をされている、と手紙が届いている。
ビジュナード・ジングウ
ジングウ男爵。アカネの後見人。
王妃陛下の所有する「影」の一員でもあり、国内のあらゆる出来事に詳しい。




