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010 治療開始

養健(ようけん)病院・病室 四堂(しどう)誠一(せいいち)


 探索者の身体は頑強だ。

 片腕を失っても命に別状はないし、しばらくすれば日常に戻ることもできる。


 もっとも失った血液はすぐには戻らないので、誠一はいまだベッドの上で生活を余儀なくされている。

 その日、面会時間になるとすぐに拳人が夏美を伴ってやってきた。


 検査は午前中に終わり、誠一はちょうど暇を持て余していた。

「今日はずいぶんと早いな」


 軽口を叩いた誠一だったが、すぐに表情を改めた。

 やってきた拳人と夏美の表情が真剣だったからだ。


「約束のアイスはまた今度だ。とりあえず、これを食ってくれ」

「オイオイ、説明もなしか……この色、輝石(きせき)を砕いたのか?」


 拳人が持ってきたのは、一口サイズの団子(だんご)

 青く燐光しているため、中に輝石の成分が含まれていることが分かる。


 とはいえ、輝石は純粋なエネルギーの塊だ。

 これほど多くのエネルギーを内包できるとは、誠一は一度も聞いたこともなかった。


「誠一、私からもお願いするわ。これを食べて」

 いつもどこか余裕を感じさせる雰囲気を漂わせている夏美が、真剣な表情を浮かべている。


「このまえ聞いた、一般人を覚醒者にする団子じゃないのか? ……いや、お前たちが黙って食えというならそうするか」


 二人が悪いものを持ってくるはずがない。

 そう思って誠一は団子をひとつ、口に入れた。


 するとどうだろう。誠一の体内が活性化し、身体が回復してくるのが分かった。

 まず疲労が抜け、体力が戻ってきているのを感じた。次に、貧血状態が改善された。


「力が(みなぎ)ってくる……?」

 身体の内から湧き出る力に誠一は戸惑った。このままフルマラソンを始められそうなほど、体力と気力が充実してきていた。


「あと一個食べてくれ。今日の分はそれでお終いだ」

「ケント、おまえこれ……」


「俺が作った。毎日二個ずつ……余裕をもって三日間も食い続ければ、二週間で腕が生えてくる」

「……⁉ それがおまえの新しい能力か?」


 拳人は頷いた。

「覚醒者を量産する能力じゃなかったのか? とんでもないぞ、これは……」


 夏美は、拳人の作った団子を食べて覚醒したと聞いていたから、てっきり覚醒者を増やす特殊能力を得たのだと思っていたが、そんな簡単なものではなかったらしい。


 詳しい話を聞いてみると、先ほど食べた団子は、失った手足を完全回復させるものだという。

 回復に体内の輝力を使うため、覚醒者でなければ効果は半減するようだが、それでもすごい能力であることに変わりはない。


「こうしちゃいられないな。すぐに退院の手続きをとる」

 どうせ暇を持て余していたのだ。それを理由に即日退院しようと誠一は決断した。


「ねえ、いますぐ退院するの?」

「団子を食うだけで腕が生えてくるんだぞ。そんなのどう考えても、公にできる案件じゃない。ケントもそう思うだろ?」


「そうだな。もしバレたら貴族が手に手を取って、ラインダンスを踊りながら殺到してくると思う」

「そういうことだ」

 誠一は笑って、手早く荷物をまとめた。




〇喫茶店・夢見(むみ) 上野拳人


 誠一はあれよあれよと手続きを終えて、俺が面会にきたときから二時間で退院をもぎ取ってしまった。

 凄まじい行動力だ。


駆久(かるく)町で片腕姿を見られるのはまずい。どこか落ち着ける場所で詳しい話を聞かせてくれ」

「だったら、近くの喫茶店にでも入りましょう」


 夏美がそう提案して、三人で流行ってなさそうな喫茶店(失礼)を見つけて入った。

 店内の奥に座り、コーヒーを注文してからこれまでの経緯を話すことにした。


 前世のことは伏せて、それ以外――新しく得た能力が『丸薬作成』であることや、妹やその友だち、夏美やその魂妹(こんまい)を覚醒者にしたことを話した。


「それで次はこの回復丸か。一般人を覚醒者にする能力もすごいが、これも凶悪だな」

 誠一は乾いた笑いを浮かべた。


「私もそこまでとは思わなかったわ。……もう世間に発表できないレベルよ、それ」

 夏美の頬も引きつっている。半月で全回復するとは思わなかったのだろう。


「全員がこの能力を隠すように言うあたり、信頼されてないよな、貴族って」

「「当たり前だろ(でしょ)」」


 仲いいな、二人とも。まあ、あれだけ既得権益をガッチリ抱え込んで何もしないばかりか、国内で権力闘争に明け暮れていたらな。

 貴族だって自分たちが敬われているとか、信頼されているとは思っていないはずだ……いや、思っているのか?


「それで、これからのことだ。ケントはどうしたいんだ? その能力じゃ、望む望まないにかかわらず星間闘争に巻き込まれるぞ」

「そうね。覚醒丸だけでも、今後の戦いに大きな影響をもたらすわよ」


 たしかにそうだ。覚醒者は人口の0.4パーセント。二百五十人に一人という希少性も相まって、それを量産できるとなったら星間闘争への影響は必至。

 日本だけでなく、世界中が注目するだろう。


「俺としては、信頼できる大人の庇護下にいたいな。俺のことを隠してくれて、身代わりになってくれて、代弁者にもなってくれる大人がいてくれると助かる。それなりに権力や武力を持っていて、他からのちょっかいをはねのけてくれるのが理想だけど」


「信頼できる大人か……ナツの魂妹はどうなんだ?」

静香(しずか)本人はもちろん信頼できるわよ。けどその周囲にいる大人は分からない。けど、大部分はもう開示している状況だから、頼ってもいいとは思うかな」


 誠一の腕を治す必要があったため、法院(ほういん)さんにはかなりの情報を開示している。

 俺も、このまま彼女の後ろにいる大人を頼るのが、面倒がなくていいと思っている。


「なるほど。なら、同じレベルの別の大人を見つけて、双方の真ん中に位置するというのもあるな」

 互いに牽制し合えば、滅多なことはおきないという考えだろう。たしかにそれも有りだ。


「変に結託されると、かえってやり難いかも。大人に頼らない方法はないの?」

「覚醒者を増やして星間闘争を勝ち抜くつもりなら、現時点で大人の手助けはあった方がいい。オレたちだけじゃ、クランが作れないだろ?」


「年齢制限か」

 クランは認可制だ。クランとして認められるには、覚醒者を七人以上集めることと、事務所を持つことが必須条件。

 代表者が書類を『覚醒者管理団体』に提出するのだが、クランマスターとして認められるには、『クラン責任者』という資格を持っていなければならない。


「クラン責任者の受験資格が十八歳以上かつ過去に問題行動のない覚醒者だからな。こればかりはどうしようもない」

「そうかぁ……」


 一般人や年若い覚醒者を食い物にするような悪質なクランがあってはならないので、無制限にクランを作れないようにする制度は歓迎だ。

 ただ、年齢規定だけは撤廃してほしかった。


「最終的にオレたちでレギオンを持ってもいいかもしれない。レギオンになると、できることが段違いだからな」

「レギオン……大きく出たわね」


 レギオンともなれば、アホみたいに優遇措置が受けられる。

 税制面の優遇がもちろんのこと、特定の情報の開示請求やこちらの情報の秘匿も思いのまま。


 武器などの優先貸与権もある。

 作戦行動中には不逮捕特権があるし、有力な覚醒者にいたっては、犯罪者でも勾留されないらしい。もっともGPS付きの足輪をしなければならないらしいが。


「法院さんとの関係を維持しつつ、独自に仲間を増やしていくのも考えておきたいな。目標は、自分たちだけで外部の力をはねのけること。ただしその過程で無理はしない。とくに貴族に目をつけられることだけは絶対に避けたい」


 俺は頷いた。この星間闘争を勝ち抜くには、いまの貴族は邪魔だ。

「よし、それで行こう」


「忙しい夏休みになりそうね」

「ああ」


 こうして俺たちの目標は決まった。




◯都内某所・高級ホテル最上階の一室 十七人会


 豪華さを詰め込んだ広い部屋に、巨大なテーブルが一つと椅子が十七脚おかれている。

 そこに座るのは、日本を代表する者たち。


「では、バタフシャーン公国に常駐している四つのクランに『十七人会令じゅうしちにんかいれい』を出すことでいいですな」

「……うむ」

「仕方あるまい」


「賛同が得られたということで、この令は十月一日(いっぴ)をもって発令とします」

 出席した半数の者が満足げに頷き、残りのうち数人が難しい顔をしている。


 まともに塔を攻略しない日本に対して、星間闘争管理連合から是正措置が通達された。

 それをそのままバタフシャーン公国にある日本のクランに押し付けた形だ。


 まともな神経をしているなら、恥ずかしくて顔を上げられない。

 だがここに出席している十七人は、これくらいのことでは小揺るぎもしない。


「それでは我々の明るい明日を願って、今月の会議は閉会としましょう。みなさま、遅くまでお疲れさまでした」

 八月の議長を務めたレギオン『暴風連合』のリーダー塚田(つかだ)弘道(ひろみち)は大げさな仕草で、この場を絞めた。



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― 新着の感想 ―
きっと貴族なら綺麗な足上げ出来そう……いや、どうしてその発想になる拳人よ。
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