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2 ペルカ

 路地を逸れて建物の脇にある階段から地下に入る。

 私は黙ってレイについて行った。

 レイは私に何度か話しかけるがそれに答えないと分かると返事を諦めて先を歩いて行った。


 地下は比較的温度が保たれる。朝方の寒さよりも暖かいと感じるが、それに変わって異臭も立ち込めていた。

 思わずウッとする。


「慣れてないやつにはキツイだろうな」


 私の気持ちを知ってか知らずかレイが先を歩きながら私に話しかけた。


 子供が何人もいる。

 皆んな痩せてガリガリでボロボロの服を着ていた。


「レイお腹すいた」


 一人の女の子がそう言うとわらわらと子供達が集まってくる。


「順番に配るから待ってろ!」


 手に持っていた小粒の果物を一つずつ渡していく。

(これが一食分?)

 一食にしても余りにも少ない量に愕然としていた。


「あぁ! 昨日の!」


 そう言われて振り向くと何となく見たことのある少年が居る。


「知り合いなのか?」


 ふるふると首を振った。


「知り合いなんかじゃねぇよ! そいつ怪しい技で俺を弾き飛ばしたんだ」


「どう言う事だ?」


 レイが見下す様に私を冷ややかに見ていた。


「…………」


 どうやら私は話ができない事になっている様なので黙っていたが言いがかりも嫌なのでレイの掌に指で文字を書いた。

 レイは多分読める筈だ。


「盗られそうになって?」


 コクッと頷く。


「お前盗みをしようとしたのか?!」


 威勢よくしていた少年がみるみる小さくなっていく。


「そういうのはダメだって言ってるだろう?」


「だってそいつ、金持ってそうだったから……」


 いつも大人を相手にしている分、ここでの会話のやりとりは簡単で良い。よく分からない魔術で弾き飛ばされたのは少年が盗みをしようとした事よりはどうでも良いことの様になっていた。


「仕方ないやつだなもうするなよ?」


 少年は小さく頷くと奥へいってしまった。


「ごめんな、悪い奴じゃないんだ」


 私もコクッと頷く。


 ここの状態を見れば、貧しいのは一目瞭然。そのひもじさにお金を持っていそうな人を見れば盗みを働きたく事もあるのだろうと思う。


 雨風が凌げるのはいいけど暗くてじめっとしている。口で息をして臭いは嗅がない様にしていた。

 それにしても、大人はおらず子供だけしかいない。


(仕事にでも行っているのだろうか)


 不思議に思いながらレイについて歩いて行くと布がカーテンの様にかかり仕切られている一角の前でレイが止まった。


 中に入る。

 ここには外と通じる小窓の様なものがありそこから光が伸びてあたりを照らしていた。

 どう見ても清潔ではなさそうな毛布、木の箱が置いてある。木の箱には文字がびっしりと書かれいた。


「ここには見た通り子供しかいない」


 レイが話し始めていたが、私は書かれている文字が気になり、箱の前まで進んだ。


『ペルカ』と書いてあった。


「これがこの基地の名前だ」


 その文字の所を屈んでじっと見ているとレイが横からなにを見ているのか覗き込んで教えてくれた。


 止まり木…………


 なるほど、ぴったりだと思った。



 この『ペルカ』という基地には、口減らしで親から捨てられた子供や、魔獣の襲撃により親が死んでしまった子供が集まって暮らしているという。

 何人いるのか?

 と言うのは大体しか分からないらしい。知らぬ間に死んでいたり居なくなったり勝手に来ていたりなど特別厳しく出入りを制限しているのではないと言う事だった。


 私も同じ孤児だ。それでも、ここと比べればかなり恵まれていたのだと思った。


『なにをすればいい?』


「資金の調達を手伝って欲しい。後は何が出来る?」


 木箱の空いているところに尖った棒でガリガリと文字を書くとレイが答えた。

 何か出来る事と言われても私にはこれくらいしかない。


『掃除』


「掃除か」


 頷いた。


 レイは私に対して詮索する様な話はしなかった。多分、色々訳があってここに来ている子供達には深く聞かない様にしているのだろうと思った。

 資金の調達と言っても私にはそんなに経験がないしましてやこの見た目だ。自分が働いてお金を稼ぐには時間を要してしまうだろう。


「どうした? 働くのは嫌なのか?」


 無言で何かを考える私にレイが勝手に解釈をして聞いてくるので首を振ると私は木箱にまた文字を書いた。


『先に渡しておきます』


 袋から5万フィードを取り出してレイに渡そうとしたがレイは不快さを露わにした。


「俺らを哀れんでいるのか? そういう金は受け取らない!」


 私が情けをかけてお金を渡そうとしたの様に思っている様だ。ふるふると首を振り説明しようにも、木に字を書くことは手も痛くて面倒だった。


「うわっなんだよ!」


 レイの腕を引っ張り来た道を戻ろうとすればそんなに複雑な道順では無かったのに出口が分からない。


「外に行くのか?」


 どうしようかと立ち止まっているとレイが私の行き先が分かったのか言い当てたので一度顔を見て頷いた。


「たくっ、こっちだ」


 足早に歩くレイの後について行けばすぐに出口に着くことができた。

 地面に爪で文字を書く。

 平民街の石畳の様に整地されてないここの地面なら木に書くよりもずっと書くのが楽だと思った。別に声で伝えても良かったのだが、出来れば牽制の意味も含めてそのまま話せない事にしておいた方が良さそうと考えてのことだ。


『私は喋れないし、力もない』


 そこまで書くと、レイが立ち上がった。

 もしかして話も聞いてもらえないのかと思っていると、きょろきょろと辺りを見渡し何かを拾って戻ってきた。


「爪で書いたら割れてそこから病気になるだろ」


 差し出してきた手には角がある石がのっていて多分これで書けという事なのだろうと思って受け取った。

 受け取った石で続きを書く。


『働き口を探すのにも時間がかかるのでそれまでの間分として受け取って欲しい』


 レイの顔を見て頷く。


「そうか、ごめんな誤解してた」


 わしゃわしゃと私の頭を撫でるとレイが眩しそうに笑っていた。


「男なのに綺麗な顔をしてるんだな」


 わしゃわしゃされたおかげでフードが取れてしまって隠していた顔をまじまじと見られるとその不快感にそっぽ向く。


「ごめん、嫌なんだな……」


 フードを被ると前髪越しで上目遣いにレイを見て頷いた。



 レイに5万フィードを受け取ってもらい私は暫く働き口を探しながらここに止まることにした。人間の慣れとは凄い。あんなに臭いに不快だと思っていたのに、数日過ごすだけでその臭いにも慣れてしまった。


 働き口を探すにも案の定どこからも断られる始末でただ日が過ぎる毎日を送っているとペルカにはとても不似合いな露出の高い服を着た女の人がやって来た。


「レイ、会いに来たわよぉ」


 レイは早朝の仕事をした後に一度ここに戻り仮眠をとってから夜の仕事をして夜遅くにまたここに戻ってくる生活をしていた。

 その仮眠時にやって来たのだからたまったもんじゃない。


「あぁ、ノエル。なんの様だ」


「酷い。用事がなきゃここに来ちゃ行けないの?」


「…………」


 不機嫌を隠そうとしないレイが無言のままノエルを見る。

 レイと同じ歳くらいのノエルはあざとく悲しんでいた。


 私はというとレイのプライベートスペースに自分の毛布を買ってきて隅の方で丸まってぼんやり彼らの様子を眺めていた。


「何この子、最近入ったの?」


 ノエルが近づいてきて私の顔を覗き込むと安そうな香水の匂いが鼻をつき気持ち悪くて立ち上がって出て行こうとするとノエルに腕を掴まれた。


「貴方、売れるわよ」


「やめろ、そいつは男だ」


 売れると言われた意味がよくわからないがレイがやめろと言うのであまり良い事ではないのだろう。


「あら、今は男の子でも顔さえ良ければ売れるのよ? レイ、貴方もね」


「俺もそいつもそっちの仕事はするつもりはない!」


 ノエルの言った言葉にレイが心底嫌そうな顔をしていた。


「仕方ないわね。はいこれ、置いとくわよ。気が変わったらいつでも言ってくれれば仕事紹介してあげる」


 木箱の上には1万フィードが置かれていた。

 ノエルが去っていった後も暫くは香水の匂いが残っており私は彼女に言われた言葉を思い出す。


「さっきの話、本気にするなよ」


 レイが毛布に潜ると壁を向いて言った。

今日も起き抜けです。

ペルカについて。

貧民街にやって来たサファにぶつかった男の子は双子ちゃんです。

その他にレイ、ノエル、サファの他に少し精神が病んでる(幽霊が見えちゃってる系)女の子の他に働く事が出来ない小さな子供達が6〜7人程いる下水の様なイメージです。


「爪で書いたら……」

破傷風ですね。日本では三種混合に含まれる破傷風トキソイド、ユニセフによると根絶されてない国は28カ国。成人でもその死亡率は50%以上。赤ちゃんになれば70%以上となるそうです。


意外と長くなりました(*´-`)

今日も読んでくださってありがとうございました。



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