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プロローグ

 俺はハーミット=グローヴァー今年で23歳になる。あまり身長は高くなく、桃色の癖のある髪のせいかいつも十代に間違われる。

 うちは下級貴族で土地も持たない。両親と妹が一人、その妹も二年前に結婚をして去年出産もしている。

 その事もあってか、顔を合わせれば両親から早く結婚をしろと言われていた。

 そんな事を言われても、相手なんかそうそういないし……


 秀でた才能も無く優柔不断で、騎士団に入れる程の技量も無かった俺は、修学院を卒業した後、父の経理の仕事を手伝いながらぶらぶらしていた。

 そんな俺を父が上司に相談したらしくエミュリエール様の補佐官はどうかと勧められて、大聖堂勤めとなったのはもう三年前も前の事になる。


 バウスフィールド家から出家したと言うエミュリエール様が神父と孤児院長を務めていると聞いて、ノミの心臓のようなビビリの俺は初めて顔を合わす時にとても緊張したもんだ。


 木香薔薇の様な薄い色の長い金髪を緩く三つ編みにまとめており空色の瞳を細めて自分を暖かく迎えてくれた事は今でもはっきりと覚えいる。

 もともと、バウスフィールド兄弟は眉目秀麗で有名で夜会などでも女性の視線を集めていた記憶がある。でも、見た目よりも心が美しいと言うのが第一印象だった。


 エミュリエール様の補佐官にはレイモンド=バージェスという奴がいて、エミュリエール様が大聖堂勤めになる時に補佐官になる事を希望したのだそうだ。

 奴のエミュリエール様に対する傾倒具合はまたいずれ。


 まぁそんな感じで大聖堂勤めになって暫くしてからエミュリエール様がある一人のサファという少女に特別に気をかけているのに気づいた。

 その事に疑問に感じてエミュリエール様に聞いて見た事がある。


「虐められていたから心配しているんだ」


 そう言われた事を記憶している。


 その日からサファの事を少しだけ気にかけてみる様になった。

 もう虐められてはいない様だがたまに嫌がらせを受けている所を目撃して報告すると、エミュリエール様は「あの子は助けは求めたりしないから」と寂しそうに言っていた。


 確かに食事に虫が混じっていた時もすました様子カトラリーで虫をすくって紙に包めば、何事もなかった様にそのまま食事を続けておりその様子は逞しいと思った。


 遠くから見守るだけの関係は俺がくる前から続いていたようだったが、その関係は昨年サファが補佐役になった事によって大きく変わった。

 俺が彼女に対して魔術を使ってしまった事は置いておこう。


 エミュリエール様が考えてサファの見た目を変えた時、初めて義務ではなくサファの指導をしたいと心から思った。だからサファが俺に指導を続けてほしいと言ってくれた時にはとても嬉しかった。


 エミュリエール様がゲーンズボロ家から帰ってきた日、初めて笑ったと聞いて自分も見てみたいと思った。

 その日は案外すぐ訪れた。


 彼女が見せてくれた一瞬の微笑みは、心を許した者への証のようだった。


 祈念式でトラウギマギアを使っ事によって数日眠り続けた時、彼女を守るエミュリエール様を見て力になりたいと思った。


 その後、魔獣の討伐に連れて行かれたとエミュリエール様に聞いた時は驚いたが、水涸れを起こしたという事に心底心配したもんだ。


 気づけば、サファはアシェル殿下の適合者としてバウスフィールド家の養子になる所まで上り詰めていた。




「お前、誰かと交信してるのか?」


「う、うるさいな! 物思いに耽っているんだって」


 レイモンドが後ろから不思議そうに声をかけられてびっくりした。

 奴のこの空気の読めないところは嫌いじゃない。


「もうちょっとで終わるから」


「まぁ、読者様は大事だからな」


「分かってるなら聞くなよ! もうっ」


 レイモンドが知ってか知らずか珍しく空気の読んだ事を言って通り過ぎて行った。




 コホン。

 少し横槍が入ったけど続けよう。


 サファが人身売買目的で拐われ、無事に保護された後、俺はアシェル殿下に側近にならないかと誘いを受けた。

 アレクシス様とエリュシオン様と同じ場所に立つ?この俺が?騎士団にに所属する者ならその光栄な事に喜んで引き受けるだろうが、俺は自信がなくて断ってしまった。


 すると今度はその矛先がエミュリエール様に行った。アシェル殿下の側近としてではなく貴族令嬢になるサファの護衛をしてはくれないかと。

 返事は急がないと言われて数日間考える猶予をもらったみたいだけどとても悩んでいるようだった。

 エミュリエール様がどうしてもと言うなら自分が名乗り出ようかどうしようか悩んでいるとレイモンドが「決めるなら今だぞ」と言ったので思わず言ってしまった。


「俺がやります」


「それなら安心だな」


 エミュリエール様はそう言った俺を見て最初は驚いていたが、安心したように微笑んだ。


 気になるのは自分が抜けた後の補佐官の仕事だ。俺がくる前はレイモンドが一人だったからそこまで滞る事は無いだろうがなんせほんわかと脳筋ボケの組み合わせだ。心配にもなる。


 そこでエリュシオン様にその事を聞くと、手配はしてるから平気だよと言われた。

 もともとそこら辺が怖いと思っていたが、手が込んでいた事に鳥肌がたったもんだ。


 そんなこんなで俺は騎士団に仲間入りしフィリズ=ベルティとサファの護衛になる事が決まった。


 エリュシオン様からサファはバウスフィールド家の養子になるとともにこの名前になると聞いていた。

 だけど、消え去ってしまった事によりまだ彼女は養子にはなっていないので伏せておく事にする。


 転移魔術は行ったことのあるところにしか行けない制限がある。でも、サファの使ったあの六方陣セクステットでは国外にまでも飛べるのかもしれない。どこに行ったのかはわからないままだ。


 護衛対象がいなくなれば仕事がないのも同じだ。俺は、籍は騎士団のまま引き継ぎの為大聖堂勤めを一年間する事になった。


(ここからの物語はサファが勧めてくれるかな?)


 そう思って考えるのを終わりにした。


「ふぅ」


「終わったのか?」


「あ、うん。今終わった」


「終わったってなんだよ? ここの人間のんびりすぎる!」


 騒がしい奴が入ってきたなと思った。

 奴がここに来たのはサファの願いだとエリュシオン様が言っていた。思えばこの一年間はサファに振り回されっぱなしだった。


「ちょっと、なんで笑ってるんだよ? やめろよ」


 俺はは奴に言われて自分が笑っている事に気付いた。


 奴についてはまた今度。


「夕飯に行くぞ」


「腹ヘリか!」


 三人は夕飯のため、街へ繰り出して行った。

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