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地下牢の神子  作者: 雪香
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二の方

二の方視点




「おやすみ…。」


寝台で寝息を立てる少女を眺め、そっと髪を撫でで優雅に立ち上がる。夕刻に死の淵から息を吹き返したばかりだと言うのに、立ち上がった足元に頼りなさは無かった。

側で控えていた侍従長を振り返り、軽く笑みを向ける。


「来蘭、紅神子様の側に控えていなさい。」

「畏まりました。」


礼を取る侍従長は控えの間に待機する。彼女の瞳には安堵も動揺も感じさせず、命を全うするだけだろう。





月が照らす夜闇に目を向け、ふっと息を吐く。

モミジが側に居れば、多少生き永らえるかもしれない。だが、その様な縛る関わりは求めないが。


少し笑みを深める。

ただ、また出会えて嬉しいのだ。

これでもう思い残す事は無い。


無言で着いてきていた幾人かの一人が扉を開け、部屋へと入ると予定通りの者達が控えていた。


「二の方様にご挨拶申し上げます。5の国侍従長 慧羅にございます。」

「…ご、ご挨拶申し上げます。3の国侍従長 清風でございます。」

「一の方様より侍従長代理を命ぜられました、3の国侍従頭 遊栄と申します。」



「うん、ご苦労。紅神子様を無事送り届けてくれた事、感謝する。それと清風と遊栄とは初めて会うな、よろしく。」


室内の奥に用意された椅子に腰を下ろし、軽い調子で声を掛ける。

床上げしたばかりの為緩い着流し姿だが、灰色の前髪を後ろに流し涼やかな目元と、品格溢れる雰囲気は十神衆として相違ないだろう。


挨拶を返す清風と遊栄の言葉が終わると、後を継いだ慧羅が早速2の国に来る経緯を話し始める。

侍従長として期間の短い清風にとって、二の方は不思議な存在であった。何故なら、偽神子の件、三の方の振る舞い、1の国での問題…全てに眉一つ動かさず静かに耳を傾けていたからだ。


「………と言った次第でございます。ですので、暫く紅神子様がご滞在されるかと存じます。」

「なるほど、状況は分かった。」


一つ頷いた二の方は、一度清風に視線を向ける。


「三の方のお守りご苦労な事だな。」


少し呆れの混じった物言いだが、嫌悪や負の感情というより、まるで幼な子に対する様な印象を受けるだろう。

肯定も否定もしづらい清風にとって、ただギクシャクと「い、え」と曖昧な声しか出せない。


「まあ、紅神子様に何かあったのならば、三の方を手にかけなければいけなかったからな。良かったなあ。」


今度こそ清風は黙って俯いた。

清風と遊栄は恐れを感じているようだが、慧羅は少し違った。実はニの方は明朗で裏表の無い人物だ。清風に向けて皮肉を向けている訳でも無く、怒っている訳でも無い。

ただ、真実を述べているだけ。


その証拠に、特段纏う空気は変わっていない。


「そういえば、お前達はこれからどうする?一度国に戻るか?」

「っは。私と清風は各々国に戻り、今後の対策を講じたいと存じます。…遊栄に関しましては、一の方様のご判断を仰いでからでも宜しいでしょうか。」


慧羅の淀みの無い返事に頷くと、遊栄へ視線を向ける。


「此方も斎女をまだ決めていない。一の方より指示が来るまで、お前が紅神子様に付いていれば良い。」

「喜んで承ります。」


喜びを堪えきれず目元を潤ませる遊栄。それを少し不思議そうに眺めた後、話を切り上げ立ち上がる。

侍従長が達が跪き侍従達がそれに倣い、二の方を見送るのであった。





付いて来る侍従達を追い払い、誰も居ない回廊をゆっくりと進む。

近くに人の気配が無い事を確認し、窓の格子から侵入しようとする一見黒い煤に触れる。指で摘み押し潰すと砂塵となって落ちて行く。


「…死にかけの十神衆だと侮っているか。」


自嘲気味に乾いた笑いを浮かべ、壁に寄り掛かりふいに激しく咳き込む。肩で息をする様は、今にも倒れ込みそうだ。ヒューヒューと音がする息を吸い込み、無理やり呼吸を整える。


モミジ…ちゃんとお別れを言ってから、天に還ろう。

最も愛した紅神子。君の記憶を持つ新しい紅神子、現れたのは何故この時期だったのか。


でも、また僕は愛を伝えないよ。

一の方は最愛、四の方の様に情熱的な愛、五の方の様に穏やかな恋慕、三の方はひたむきなまでの敬慕、

君は辛いと言っていたから。凛と美しい君は、誰にも寄りかかれないのだと密やかに泣いていたのだから。


僕だけは、君に肩を貸せる。


『大好きだよ、弍佐。私を助け、支えてくれる人。ずっと、ずっと愛してる。』


今際の際に聞こえた大事な言葉。それだけを胸に、僕は今生を全うしよう。












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