ー雨天の神子ー
「うっわ、最悪。」
今日は友達の大事な誕生日、この日ぐらいは受験の事も忘れて騒ごうと約束していた。
佐倉 楓は今年で中学三年の受験生。夏の大会までは、と剣道部も休まず続けている。そんな部活動も早く切り上げたのも、高校生になったら友人とも離れ会えなくなってしまうからだ。
そう思っていた最中、突然に降られる雨。
体を打つその勢いに抗えず、約束の場所であるファミレスへ向かう事が出来ずたたらを踏む。
まったく…昔っからこう。私が何かやりたいって思う日は、いつも雨の日が多い。運動会も、遠足も…ああでも、あの子と知り合ってからはそんな事無くなったけど。
…って事は、やっぱりあの子は晴れ女って事?
今此処に居ない友人を思い、ちょっと笑う。
友人は私と違い守ってあげたくなる様な子で、いつも一生懸命で同性から見ても可愛い。そんな友人とは真逆で、私は言いたい事を何でも言ってしまったり、剣道部では男子も打ち負かしており、可愛いげが無いの代名詞である。
しょーがないじゃん。そうでもしないと…もう、からかわれるのも虐められるのも嫌だ。
私は自分の髪が大嫌いだった。今は黒く染めているが、元は驚く程の青色だった。日本人どころか、天然なら有り得ない色…小学校の頃は心無い嫌がらせを受けたものだ。それが嫌で、中学からは黒に染めているが、私の髪は強いのか直ぐに色が落ちてしまう。
…やだ、また色が出てきてる。今日染めないとなあ。
青みがかった髪の毛先を弄りつつ、少し弱まってきた雨足を確認し傘を差しやっと足を向ける。
何のケーキを食べよっかな、等と思考に耽りファミレスの扉を開いた。
と、思っていたのだが。
「………………は?」
目の前に広がるのは、緑、緑、緑。どこを見渡しても一面に森が広がっていた。慌てて後ろを振り替えって見ても、扉らしきもものは見当たらない。
…夢?幻?神隠し?
盛大な疑問符を浮かばせながら、無意識に仕舞っておいた竹刀を取り出す。良くわからない状況だが、森といえば獣が出てくる危険を考えなければならない。
通学鞄を肩にかけ、竹刀を握ったまま森を歩き出す。本来なら森の中を無闇に歩くのは危険きまわりないが、中学生の楓にはそこまでの思考は生まれなかったらしい。その上、突然の状況に戸惑いもあっただろう。
ふいにパキ…と枝を踏む音が聞こえた。
恐怖と驚きに竹刀を構えたままその音へと向くと、息を潜め精神を集中する。
「お?おーおー。こんな森に女がいるぞ?」
「うわ、ほんとじゃねえか!変な格好の女だな。」
「いや、女っつってもガキじゃねえか。」
「馬鹿だな。女の下働きを欲しがってるお偉いさんが居ただろ。こりゃあ、小金を稼ぐには丁度良い。」
楓の視界に映るのは、汚ならしい三人組の男であった。下卑た厭らしい笑みを浮かべる三人組は、動けずにいる楓を無視し、勝手に何やら話し込む。
何こいつら…駄目、逃げないと!
男達が話している間に逃げようと、そっと後退りしその刹那駆け出す。「あ!?待てこのガキ!」と三人組の叫びが耳に入るが、自分の持てる限りを尽くして走り続ける。
恐怖で足が縺れそうになるのを叱咤し、追いかけてくる男達を振り払う為木々の間から洩れる光に向かう。
早くしないと…!あれは…出口?
「くそ、待ちやがれ!」
待つわけないでしょ…!
息も切れ切れになり、森から出た所は小さな村の様だった。
良かった、これなら誰かいる筈。
「…やあっと、捕まえたぜ?」
「_っ!?」
安堵の息を吐いた時、楓の長い髪が後方に引かれ痛みに小さく悲鳴を上げる。。男の一人が楓の髪を乱暴に引っ張り、腕を捻り上げる。
「………おい、お前達何をしている。」
そこへ、新たな声が耳に入った。小さな村には似合わぬ立派な毛並みの馬に乗る少年は、汚ならしい男達に乱暴に扱われる楓に目を留める、軽やかに馬上から飛び降りる。
そこで焦ったのは男達だ。相手はどう見積もっても一般の村民では無さそうなのだ。
「い、いやあ、俺達は商売の途中でしてねえ。そちらこそ、こんな田舎にどんな御用で?」
声を発せようとする楓の口元を手で抑える男は、どうにか見逃して貰えないかと相手を品定めする。
「…私は本国9の国侍従の志津。最近、身寄りの無い若者が人拐いに合っていると噂があり、それもこの地域で多発していると聞いてな。」
「…は、はあ。」
「よもや、その噂が本当だったとは…嘆かわしい。」
「!…ッチ…おい!ずらかるぞ!」
わわっ…!
少年が腰に下げていた剣を抜いた瞬間、男達は血相を変え楓を突飛ばし慌てて踵を返す。しかし、何処に隠れていたか少年が指笛を鳴らすと、十名程の兵士が姿を現す。
兵士達は「追え」との短い指示で、あっという間に男達を捕縛しに行く。
くのくに?じじゅう?…とりあえず、助かったのかな?
やはり人拐いと言われていたので、もしも連れていかれてたら危険な状態だっただろう。一先ずは呼吸を落ち着けて、落っことしていた竹刀を拾う。
本国…くのくにって事は、やっぱり日本じゃないって事?くのくになんて聞いた事無いんだけど。
危機は去ったが未だ見知らぬ場所で混乱する楓に、先ほどの少年が近付いてくる。
「…そこの娘、災難であったな。家は何処だ?良ければ兵士に送らせよう。」
「あ、えーっと…。」
あんな凄い兵士が言う事聞いてるんだから、結構お偉いさんじゃない?年は私と近そうだけど…でも、他に宛もないし。
「あの、家が分からないんですけど。」




