1.
ツインローズ王国。
この国は、第一王子マグーマ・ツインローズが不祥事を起こして王太子から降ろされてティレックス伯爵になったり、そのマグーマが再び不祥事を起こして男爵にまで降格するという出来事があったばかり。
そんな愚かな兄に代わって王太子になった第二王子トライセラ・ツインローズは苦労が絶えない日々を送っていた。
しかし、そんな王太子が行方不明になるという異常事態が起こる。
◇
行方不明になる前日、苦労人の王子トライセラの狂った笑い声が部屋に響いている。
「あはははははははははは! あっははははははは!」
以前、過労の末に判断能力を狂わせて、婚約者であるリリィ・プラチナム公爵令嬢に手伝ってくれないという理由で婚約破棄宣言をするという行動に出たことがあった。
「もう駄目だもう駄目だもう駄目だもう駄目だもう駄目だもう駄目だもう駄目だもう駄目だもう駄目だーっ!」
更に、失脚した兄を呼び出して王太子の地位を明け渡そうなどと考えついてしまう始末。幸い、それらは実現されずにすんだ。
「トライセラ殿下ぁぁぁぁぁ! 落ち着いてくださいぃぃぃぃぃ!」
今日もトライセラは王子なのに何やら目にくまが目立つ。そして、また可笑しくなったようで自室で暴れまわっていた。そんな王子を心配した専属執事コアトル・ケツアールはノックもなしに部屋に入って宥め始める。
「これが落ち着いてられるかぁ! 父上と母上は、国王と王妃なのに、また旅行に出ていってしまったんだぞ! 国外の視察とか言ってなぁ!」
「ほ、本当に視察なのでは……」
「そんな訳あるか! あのハゲは頭髪の心配してばかりだったじゃないか! 母上も間違いなく自分が楽したいだけだ! 反省しているって言葉は嘘だったんだ!」
「……そ、それは……」
コアトルは否定できなかった。実際に国王が頭髪を気にして温泉に行きたがっていたことを知っていた。かねてから頭皮にいい効能があるとされる温泉に浸かりたがっていたのだ。
「王太子教育が歴史上最短で終わっても仕事は減るどころか増えるばかり……! 群がってくる有象無象の馬鹿貴族どもの対応、学園と王宮の仕事で時間が足らない……僕に自由な時間はない! そうだろう!」
「……そ、その通りでございますな」
コアトルは遂に肯定した。トライセラは更に声を荒らげて叫ぶ。
「それもこれも父上と母上のせいだ! 兄上が王太子から降ろされるほど駄目な男になったのも元はといえば両親が教育方針を間違えていたせいではないか! 兄を甘やかして僕には仕事を押し付けて、弟には適当……ふざけるなぁ!」
「……全く持ってそのとおりですな」
コアトルはウンウンと頷く。彼もまた国王夫妻には思うところがあるようだ。




