第五幕:鏡の女王
【第五幕】
やあ、君。
話を繰り返し聞くよりも、手っ取り早く答えを聞いて、すませたいーーそういう気分になった事は?
厚みのある本を無造作に開く。
先へ先へと進む。
そこに君の役に立つモノはあるのか?
君は立ち止まって、考えるべきだ。
なぜかって?
ボクがウソをついてるかもしれないからさ。知らずに、もしかしたら気づかずにね。
第四幕では、小人グリッズルへの世界の残酷さを見た。
そしてグリッズルは女王に会うことにする。
女王のいる城は、ゴシック建築を基調にした石造りの要塞だった。
塔を囲む城壁には鉄の門と跳ね橋があり、グリッズルを阻んでいた。
彼はしばらく待った。
城に馬車が来たところを狙った。
弾き飛ばされる危険もあったけど、小さな身体を利用して、城の中に入り込んだ。
でも女王のいる場所が、グリッズルにはわからなかった。
彼は、城の中に入った。
そこは石の回廊は冷たかった。
床は磨かれた石板だが、
よく見るとーーひび割れてた。
石の上に足を乗せると、ビシッと音が鳴った。
壁には燭台の火が揺れてた。
大きな人影が踊ってた。
彼の泥のついたブーツが、彼の意思に反して足音を立てた。
衛兵が”その男”に気づいた。
衛兵らは槍を持ってて、グリッズルのいる場所へと近づいてきた。
まるで猟犬のようだ。
城の中と外から挟み込むように。
近づいてきた。
彼は焦って、無我夢中で城の中を走り回った。
衛兵の怒号!
グリッズルは唸り返した。
誰かの股の間に滑り込んだり、
跳んだり、
はねたり、
しゃがみ込んだりして、
彼は必死になって逃げた。
だけど彼はとうとう疲れて、近くの部屋に飛び込んだ。
もう袋のネズミだ。
逃げられなかった。
そこは、女の部屋だった。
床には毛皮の敷物が敷かれていた。
壁際には、豪華な装飾がされたベッドがあった。
窓辺に小さな祈祷台があった。
絹のカーテンが揺れて、外から月の光が差し込んだ。
「ーー何者だい?」という女の声と、ベッドの枕元の近くにあった燭台の火が灯された。
部屋が明るくなった。
グリッズルは眩しくて顔を隠した。
「ーーノームの妖精なの?」と、彼に女は好奇心をこめた声で話しかけた。
「ああ、ノームだ。珍しい。他の神とは行かなかったのか?」と女は、グリッズルが怯えないように、腰を屈めて、ゆっくりと近づいて彼を見つめた。
グリッズルは逃げずに、彼女を見つめた。
『ノーム』
懐かしい響きが、彼の足を止めていた。
「かつての我々の名だーーもう呼ばれることもない」と彼は言った。
彼は思わず女を見て、歌い出した。
人の神が現れて
やつの真理が光り輝く
暗黒の無知は去り
影は去る
虚へと
だが夢は去らぬ
ボクは夢の残り滓
暗黒の申し子
いずれは消える影
ヤツの真理が
この身を縛る
呪いのようーー
女は、まっすぐな金色の髪を腰までたらし、好奇心旺盛な水色の目をしていた。引き締まった顔つき、唇は赤みを帯びて、肌は健康的な白さを持ってた。スレンダーな身体をして、もしも貴公子の服を着たら、男だと思われただろうね。
それでも裸の女の身体を見たら、小人の彼でも戸惑ってしまった。
彼女は、自分が裸だと気づいたイブのように、恥ずかしさを感じたのか近くの桃色のローブを身にまとった。
二人はしばらく見つめあった。
なぜか、互いに目を離せなかった。
彼女の目は、鏡ではなく、闇の奥を見つめていた。
まだ、神が眠っていた場所を。
彼女は魔法や錬金術、禁忌と呼ばれる者たちを愛していた。
虚空へと去る彼らを、追いかけたかった。
でも、彼女の立場が許さなかった。
彼女こそ、悪の女王だった。
(こうして第五幕は、悪の女王で幕を閉じる。)




