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令嬢、仕事をする③

注意。軽い流血表現があります。苦手な人は流し目で読んでいただけると嬉しいです。

切断した部分に手を当て、回復魔法を使う。手のひらから緑色の魔力が、傷口へと流れていく。だが。


「…!なるほど、こうなりますのね」


 慌てて回復魔法をとめる。指が元に戻るのではなく、傷口を皮膚が覆うようにして包み始めたのだ。これでは止血しかできない。


 指を元通りにするには、やり方を変えなければいけないようだ。今までの訓練結果を見る限り、おそらく回復魔法は怪我や病気を治すものではなく、肉体の治癒能力を短時間の間向上させるものだ。人の肉体に元からある機能を強化しているだけだから、回復の効果が自分の思った通りにいかないのだろう。

 私は怪我を元どおりにしたいが、私の肉体は他の何よりも血の流失を止めたいと思っている。だから切断した部位が戻らなかったのだ。


 もっと強く指を治すことを意識するしかない。回復魔法は死に至るほどの怪我であっても一瞬で治すことができるのだ。このくらいの怪我どうってことはない!本能を意思で書きかえる!


「私ならできますわ。私ならできますわ。私ならできますわ。指くらいどうってことはないのですわ。指くらいどうってことない。どうってことない。絶対治せますわ治せますわ治せますわ、からのえいやー!もう一回いっきますわよー!」


 治りかけていた部分をもう一度切断し、再び回復魔法を発動させる。しかし、今回もダメだった。やはり肉体に根付いた本能はなかなか消えるものではないらしい。


「ふ、ふっふっふっ!それなら!痛みも恐怖もなくなるくらいに何度も切断と回復を繰り返せばいいのでしょう!私の我慢強さをなめるんじゃないですわよ!えいやー!」


 再び切断。そして回復。それを何度も繰り返す。脳を焼くような激痛が何度も走り、血が絶えず流れることで貧血になっていく。それのせいか、魔力切れの時にだけ起こっていた吐き気がしだした。

 危ない状態だ。ここでやめなければ、死にはしないまでも、大量出血と痛みによるショックで私は倒れてしまうかもしれない。

 それでも、約束をしたのだから、もう少し頑張るべきだ。平民は貴族のことを、どんなときでも民に恥じることのない誇り高い高潔な精神を持った者たちだと思っていると、昔パーティで聞いたことがある。蹴落としあいしかしない貴族たちとどこに出しても恥ずかしい兄上を間近で見てきた私には、その言葉が嘘っぱちだとわかる。けど、私に助けを求めに来た彼らは、本当に貴族である私を高潔な人間だと信じているのかもしれない。


「オエ……私だけが頼りなのかもしれない……そう思うと、簡単にやめるわけにはいきませんわよね……」


 とはいえ、体力の限界というものがある。魔力も彼らを最低限止血する分は残しておかないといけないし、なによりこれ以上やったら私が危ない。

 もう指の感覚があまりなかったので、痛みも恐怖も軽くなっていた。だから私は無心で傷を切断し、これまた無心で、回復魔法を発動させた。

 すると、不思議なことが起こった。今まで緑色だった魔力が薄い青色に変わり、傷口へと流れだしたのだ。それに驚く間もなく、新しい変化が起こり始めた。まず指の中心から白い骨が伸びだし、それに連なるように切断面から皮が伸びはじめた。皮は骨を包み、形だけ指らしくなると動かなくなってしまった。だがしばらくすると、その部分にほのかに赤みが差し始め、しわができ爪が生え、だんだんと元の指の状態に戻り始めた。くいくいと、曲げようと思うと復活した指もくいくいと曲がる。


「や、やりましたわ……大成功ですわね、っていったいですわー!?」


 指を曲げると同時に、さっきまで失っていた痛覚が戻ってきた。それをこらえ立ち上がる。本当はもう何回か試してから、本番に使うべきなのだろうけど余裕がない。どうやらさっきの青い魔力は濃度が濃いようで、使うと数十回緑色の回復魔法を使った時のような疲労感がする。あまり無駄うちはできなさそうだ。

私は少し深呼吸を繰り返したあと、アンナがラースさんたちを案内した部屋へと歩き始めた。

れいじょうの まほうれべるが あがった!


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