#939 オリュンポス山のアテナ領域
土曜日の朝、海斗たちが遊びにやって来た。土日が本番になるだろうから親に見つからず思いっきりゲームをするためである。
「俺の家を漫画喫茶かネットカフェだと思ってないか?」
「そこまで漫画もパソコンもねーだろ?」
「俺が言っているのはそこじゃない!」
「美少女女子高生二人の手料理を食べれるんだから、文句言わない」
「美少女?」
海斗が副委員長のアイアンクローをくらった。危なかった。俺も口が滑りそうになったぞ。いつものように当番を決めてからゲームにログインすると目が充血しているノアがやって来た。
「今日のお昼にはすっごい船が完成するよ! タクト!」
「そ、そうか…お疲れ様。とにかく顔を洗ってこい。ご飯を用意してあげるからさ」
「わかったよ!」
これで今日の予定は大体決まって来た。
「今日は午前中にアテナ様の試練に挑戦しようと思う」
「大丈夫なの? お兄様」
「今日は採掘せず、真っ直ぐ進むよ。メンバーは昨日と同じメンバーで挑もうと思う。昨日確認したのはグラウクスだけだったけど、奥に進むとパラス・グラウクスはまず出て来るだろう。かなり厳しい戦闘になるとは思うが、頼むぞ」
「任せて! タクト」
このアテナの試練のポイントはどんな敵が登場するかだ。アテナはメデューサやアラクネーなどの怪物を生み出した女神でもある。この二体が登場するとなると難易度が跳ね上がる。
メデューサはエキドナの進化先だとついこの前、判明した。つまり強さ的にはクリュスのほぼ同格。アラクネーは第五進化だし、本当にやばいことになるだろう。
ただ彼女たちが登場しない可能性の方が高いかも知れないと俺は考えている。彼女たちはアテナを怒らせて怪物にさせられているからだ。そんな自分を怒られた存在を自分の神殿近くにいさせるだろうか?俺なら絶対しない。
「考えていても答えは出ないし、早速行くか」
「「おぉー!」」
俺たちはアテナ様の神殿の前に来る。
「料理バフが効いているうちに一気に攻略するぞ!」
俺たちが突撃を開始すると早速隕石が降って来た。それをゲイルが電磁操作で対処する。するとアリナが危険を知られる。
「お兄様! 地面に何かがたくさんいるの!」
いきなり知らない敵か!
「来るぞ!」
俺たちが下がると俺たちがいた場所に蛇がデザインされた槍が地面から出て来る。そしてその槍の持ち主が次々地面から現れた。
ラミュロスLv47
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
上半身がマッチョな男で下半身が蛇の敵だった。この敵はゲームオリジナルだな。恐らくラミアの男版を意識して作った感じか。アテナ様との関係は不明。数はいきなり二十はいる。
「「「「おぉ!」」」」
「黒鉄! 薙ぎ払え!」
黒鉄が荷電光線を放ったが土に潜られる。無我持ちか?うざったい。
「お兄様! 空からも来るの!」
「グラウクスだよ! タクト」
ここで増援!?ひでぇ!いじめだ!
「数は六! え? 六体集まっているのが、四つ! 向かって来てるの!」
グラウクスが六羽の編隊が四つだと!?嫌な予感しかないぞ!
「リリーとコノハはグラウクスを迎撃! アリナはリリーたちを隕石から守ってやってくれ」
「わかった!」
「了解なの!」
「ゲイルは俺たちの護衛を頼む」
そういうと早速第六感が発動する。地面から飛び出してきた槍を近衛で受けると地面から蛇の尻尾が現れ、拘束される。強いし、賢いな。
すると黒鉄が腕をドリルに変化させ、腕を伸ばすと地面にいたラミュロスを貫いた。俺は感動していると次々地面から槍が出て来る。うざったいが黒鉄が倒す時間を稼げば俺たちの勝ちだ。
俺が回避に専念していると今度は空から第六感が発動する。上を見ると十二羽のグラウクスの魔方陣を展開していた。
「ゲイル! 黒鉄の近くに来てくれ! 俺が何とかする!」
魔法が一斉掃射される。
「空間歪曲!」
俺は空間歪曲で魔法をグラウクスたちに返し、ダメージを与えた所にリリーたちがやって来て、追撃を加えて、倒す。
俺が息を吐くと下から猛毒ブレスが飛んできた。本当にうざったい!
俺が視線を地面に向けると全身に寒気が走った。
俺は構えていた近衛を背後に向けると太刀音がする。
パラス・グラウクスLv60
召喚モンスター 討伐対象 アクティブ
どこから現れたんだ!?アリナからの報告は無かったぞ。
「ホー!」
「くぅ…らぁ! おら!」
俺はなんとかパラス・グラウクスの氷雪刃を弾いて、下から飛んできた石ブレスをマントで反射する。
「なかなかやるな。少年」
地面から新たなラミュロスが現れる。しかしそいつには王冠があった。
ケクロプス?
? ? ?
あぁ…この男繋がりでラミュロスを作ったのか。納得したよ。
ケクロプスはアテーナイの初代の王の名前だ。下半分が蛇、上半分が人間と言われている。ギリシャ神話ではポセイドンとアテナが喧嘩した時に当時アッティカを治めていたケクロプスはどちらを守護神に選ぶのか選択を迫られている。
普通に答えるとどちらかの神の怒りに触れる可能性が高いためにケクロプスは国民に相応しい贈り物を贈った方を守護神にすると伝えた。結果はアテナの勝利となり、アッティカはアテーナイと名前を変えてケクロプスは初代の王となった。大体の神話はこんな感じ。
流石のポセイドンも国民の総意を前にしたら、負けを認めるしかなく、罰を与えることも出来なかったんだろう。本当に賢い王様だよ。
「我が名はケクロプス! アテナ様の命により、貴殿をここで倒させて貰うぞ! 掛かれ!」
ケクロプスの王の加護の力で強くなったケクロプスは向かってくる。するとリリーから通信まで来た。
『タクト!? 助けて!? リリーの大ピンーーひゃう!? そこはダメ! アリナちゃ~ん』
何が起きているんだ!?リリーが妙に色っぽい。
「うお!?」
投擲された槍が当たりそうになり、これを躱すがそこにパラス・グラウクスの死滅光線が放たれ、俺は乗っていた黒鉄から落ちる。
それを見逃す敵はこの場にはいなかった。パラス・グラウクスは追撃に向かって来て、ラミュロスたちは槍を投げて来た。
「ホー!」
「ガァアア!」
パラス・グラウクスにコノハが襲い掛かり、ラミュロスたちはゲイルが体で弾くと弾かれた槍を電磁操作で逆に返す。それを見た俺は閃いた。
「きゃあああああ!?」
俺が体勢を整えていると隕石をくらったリリーが落下してきた。しかも次々落ちていく。これで何とかするしかない。
「何かを思いついたようだが、無駄だ! 石化の魔眼!」
ケクロプスの槍の蛇の目が光ると俺は石になっていき、あっさり加護とか無効にしてきたな。
「終わりだ。少年。ん?」
『『『『マグネットサークル』』』』
ケクロプスとラミュロスをマグネットサークルで拘束する。
「これが少年の奥手か? このような拘束、一瞬で」
ケクロプスとラミュロスたちの頭上に無数の隕石が降り注ぐ。隕石を電磁操作で操れるなら、マグネットサークルで引き寄せることが可能だと思ったのだ。
「なぜ隕石が我々に!? アテナ様ーーーー!」
ケクロプスとラミュロスたちは倒されて、俺の石化は解除される。
「危なかった…」
憶測でのマグネットサークルだったけど、上手くいって良かった。これでマグネットサークルが発動している間は隕石はマグネットサークルに集まるだろう。
『リリー、無事か?』
『全然無事じゃないよ!? タクト!? アリナちゃんをなんとかして~』
『アリナ? そういえばアリナはどこに』
「お兄様~~~!」
アリナがリリーが落下した方向から飛んで来て、俺の顔に抱き着いて来た。
「ちゅっちゅっ! はぁ…はぁ…お兄様、しゅき…だーいしゅき」
髪の毛にキスをしてきて、顔を擦り付けて来た。これは、魅了の状態異常になっているな。
「もう! お兄様! アリナがこんなにお兄様への愛を言っているのに別の事を考えているの! 今はアリナのことだけを見て?」
アリナを見ると瞳にハートマークが浮かんでいた。ダメだこりゃ。するとリリーが飛んできた。
「タクトに何しているの!? アリナちゃん! あ」
「リリーお姉様も大しゅき~!」
「きゃあああ!? あ、アリナちゃん!? ダメだよ! タクトの前でそんな! あっ!? 尻尾触らないで~!?」
二人がじゃれているところを見ると二人の生命力が減っていた。俺も確認するといつの間にか生命力が残りわずかになっていた。俺は慌てて、全員を回復する。
このダメージはなんだ?今でも発生している。俺はアリナの様子から呪歌のダメージと推測した。音が隕石のせいで全く聞こえず、呪歌のダメージだけ届いているといったところか。本当に色々なことをして来る。敵はどこだ?というかアリナの様子から見て、リビナを召喚しないとまずいか。
「レギオン召喚!」
「よ! どうしたの? タクト?」
リビナが騒いでいるリリーとアリナを見る。
「えーっと…アリナにリリーをとられたの? タクト?」
「「違う(よ)!」」
第一声がこれかよ。
「リビナ、どこかにアリナを魅了した奴がいる。恐らく呪歌の使い手だ。見つけられないか?」
「なるほど。それでアリナがこんな風になっているんだね。でも音は専門外だよ。タクト」
そうなるよな。俺が困っていると黒鉄がミサイルを発射した。どうやら黒鉄が敵を見つけたようだ。
「リビナ! 一緒に来てくれ!」
「うん! あ、ほどほどにね」
「ほどほどって何!? 助けてよ! リビナちゃん! タクトー!」
助けるためにも敵の撃破をしないといけないんだよ!
ミサイルが岩場に命中すると敵が飛び出してきた。
マルシュアスLv35
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
現れたのは上半身がおっさんで下半身が山羊の敵だった。手には謎の笛を持っている。どうやら歌ではなく、あの笛が原因だったみたいだ。
「閃影!」
一瞬で首を斬り飛ばし、追撃が発動して倒した。すると残っていたグラウクスたちが俺を狙ってくる。しかしリビナの蛇が噛みつき。残りは鞭で拘束される。
「最近変な悪魔に憑りつかれた奴らばっかりだったからさ。たっぷり縛り取ってあげるよ」
「リビナ!」
「うわ!?」
リビナに向けて放射熱線が飛んで来て、リビナが飛び上がり回避した。
「あぁ~…これはちょっとまずいかも。タクト」
「だな」
神威解放したパラス・グラウクスがいた。俺たちに次々大気壁を飛ばして来たパラス・グラウクスにレールガンと化した短剣が飛んできた。
「よくも…やってくれたの!」
アリナが顔を真っ赤にして怒りに燃えていた。どうやら先程までの記憶があるらしい。更にリリーとコノハ、ゲイルも加わる。これなら神威解放をしたパラス・グラウクスにも勝てると判断する。
俺がマグネットサークルで隕石を抑えて、みんなが攻撃を担当するが神威解放したパラス・グラウクスは普通に戦っていた。パラス・グラウクスの影分身が強すぎるんだ。
「う!? 虚空切断!」
「待つの! く!? この! 大気壁! 」
リリーが大気壁を虚空切断で斬り裂くがすぐに影分身から別の大気壁にぶつかり、距離を詰めれない。アリナも数に対応出来ていない。コノハも影分身を使い、対抗しようとするが神威解放した影分身との差は歴然だった。
改めて神威解放の強さを実感していると黒鉄もやって来た。これで戦況が大きく変化する。黒鉄が俺の守りに入る。ここで黒鉄はパラス・グラウクスの放射熱線を無傷で止めて見せた。黒鉄の熱無効だ。
更に大気壁も多重結界でガードされる。最大の攻撃手段二つを防がれたパラス・グラウクスはなんとか隙を見つけようとするが攻撃に集中したところにリリーたちが襲い掛かる。いくら神威解放をしたパラス・グラウクスでも攻撃の隙をだけはどうしようも無かった。
「はずれ!?」
「ガァ!」
「ホー!」
「アリナが見つけるの! 気圧操作!」
リリー、ゲイル、コノハの影分身への攻撃を見たアリナは気圧操作を発動し、パラス・グラウクスは気圧に押しつぶされる。しかし影分身には気圧操作の影響がなかったことで本体を見つけることに成功した。
「「見つけた(の)!」」
「カラミティカリバー!」
「ホー!」
リリーのカラミティカリバーを絶対防御でカードするパラス・グラウクスだったが背後から蛇に噛みつかれる。
「あぁ!? リビナちゃん!?」
「ごめんね。ボクはリリーと違って、背後からの不意打ちとか大好きなんだよ」
「ホ…ホー!」
槍でリビナの蛇を貫く意地をパラス・グラウクスは見せたがそうなると背後のリリーからがら空きとなって、地面に叩きつけられるとゲイルとコノハが追撃を加えて、最後はアリナが決める。
「爆轟!」
とんでもない爆音と共に衝撃波が発生し、パラス・グラウクスが墜落したところにキノコ雲のような煙が発生した。どうやらこれで戦闘終了みたいだ。
マグネットサークルを使いながら、俺たちは休憩と回復をする。
「しばらくほっといて欲しいの…」
「リリーお姉様、大しゅき~! とか言って色々触っただけでしょ?」
「思い出させないで~! リビナちゃん!」
「リビナお姉様!」
かなりやばい戦闘だったのに三人は元気だな。俺はその間に解体する。
アテナの草冠:レア度10 アクセサリー 品質S
効果:アテナの加護
女神アテナが贈ったオリーブの木の草から作製された冠。装備すると女神アテナの加護を得ることが出来る。
アテナのアウロス:レア度10 楽器 品質S+
重さ:15 耐久値:200
効果:加護無効、耐性無効、魅了、呪音、アテナの加護
女神アテナが作製した笛。女神アテナの呪いを受け、演奏を聞いた者に苦痛と魅了を与えて、笑う事を封じた魔笛となった。
パラス・グラウクスの瞳:レア度10 素材 品質S+
女神アテナの力を宿した瞳。神々しく蒼く輝く瞳は装飾品として女性に絶大な人気を誇っている。
これらに加えてグラウクスの瞳をたくさんゲットした。ラミュロスたちからは何もなし。パラス・グラウクスの瞳が手に入ったからグラウクスの瞳はルインさんかナオさんに売ろう。
アテナの草冠はケクロプスから手に入った。王冠や槍が手に入らなったのは残念だけど、これはこれで嬉しい。ただセチアは既に草冠を得ている。これを考えるとルーナかミールに装備させたほうがいいんだろうな。アテナの加護の事を考えると魔法特化のルーナが一番いいかな。
アテナのアウロスはマルシュアスから手に入った。考える余裕は無かったけど、これを見て話を思い出した。
アウロスは説明通りアテナが作製し、神々の宴会で演奏を披露したのだが、笛だから吹く時に頬が膨れてしまう。その結果、美を競っていた女神たちに笑われて、アウロスに呪いを掛けて捨てたとされている。このため、説明と効果がこうなったんだろう。
そしてこれを拾ったのがマルシュアスというサテュロスだ。半人半獣の自然の精霊であるサテュロスは悪戯好きで音楽を得意としているんだが、マルシュアスは神アポロンにアウロスを使い演奏の勝負を挑む。このことからマルシュアスが登場したんだと思う。
因みにこの勝負はアポロンが勝利し、マルシュアスはアポロンに殺されている。残虐なシーンだけど、神と精霊の力関係を証明するギリシャ神話のエピソードとして有名だ。
この笛は取り敢えず保管だな。使えばかなり強い楽器だ。何せ加護と耐性を封じて広域に常時ダメージを与えるわけだからもし戦争でこんなものを使われたら、回復役の人は大変な目に会うだろうな。
その後、リリーたちから先程の戦闘について聞くとグラウクスたちは最初に現れた編隊とその後方の編隊を囮にしていたことが判明した。リリーたちが暴れている間に左右の編隊が合流し、俺たちを襲って来たわけだ。
「明らかに指揮されているな」
「今までにもこんなことがあったの?」
「ありはしたけど、指揮のレベルも規模も段違いだ。まぁ、ケクロプスの言葉から判断するとアテナ様が指揮していることになるんだろうな」
隕石も通常時は敵に当たることはないし、厄介なことこの上ない。しかしそれだけアテナ様が本気であることを意味している。脳裏に挑発的なアテナ様の姿が過って、俺を笑む。絶対に突破して見せる。




