#761 水計破れる
俺と姫委員長が夕飯の準備をしていると海斗が慌ててやってきた。
「お、おい! 敵襲だ! 敵襲~!」
「はいはい。大声で叫ぶな。近所の人に不思議がられるだろうが」
「冷静! って少しは急げよ!」
「俺は料理作っているから姫委員長は行ってきてくれ。後は俺だけで大丈夫だからさ」
流石に今の状況で離れるわけにはいかない。
「う、うん。でもいいの?」
「夜に全力を出さないといけないからな。今回はみんなに任せるよ」
「じゃあ、私も残って料理の手伝いを」
「姫委員長まで抜かれたら大変だって! 早く来てくれ! ってなんで俺は睨まれるの?」
そんなこと知らんよ。というか姫委員長は重要なことを忘れている。
「姫委員長…雫ちゃんの護衛も約束して無かったか?」
「あ」
ということで姫委員長たちは雫ちゃんの護衛に向かい、俺が料理を完成させることになった。暫くすると三人がやってきた。
「あぁ~…酷い戦闘だった。って凄いご馳走じゃん!」
「煮込みハンバークにナポリタン、ポテトサラダって完全に洋食店のセットメニューね」
「ハンバークとポテトサラダは姫委員長のお手製だぞ」
「マジで!?」
ハンバークは俺も作ったが姫委員長は料理の腕前はかなりの物だった。これなら文化祭で料理担当をしても問題ないレベルだと思うがコスプレが決定しているから残念ながらウエイトレスです。
みんなで夕飯を食べているとやはり話題は先ほどの防衛戦の話になる。
「ドワーフの住処を解放したせいか鬼モンスターたちまで加わって攻めてきて大変だったぞ」
「まだ数が少なかったからなんとかなったけど、サバ缶さんから夜は空中戦力の減少が著しいから何か作戦を考えないと不味いかもしれないって言っていたよ」
「幽霊モンスターも誰を狙うかわからないし、今夜と明日の防衛戦は激戦間違いなしって感じよ」
「そうなるか…次のイベントのことも考えてソーマ酒は温存したいけど、多少使うことは覚悟しないといけないかもな」
相手が数ならこちらは大技の連射で対抗するのが普通だろう。
「そういえば新しい敵はいたのか?」
「いや、いなかったぞ。ただ俺たちが得意の水計と火計は防がれた。そのせいでこっちは大苦戦だ」
ほぅ…遂に俺たちを代表する作戦が破られたか。
「敵はどうやって破ってきたんだ?」
「簡単よ。マレフィカがいたでしょ? あいつがランパードを使って、水を防いだのよ」
本当に簡単だな。しかしそうなると敵はかなりの数のマレフィカを投入したことになるな。俺たちと同じように防がないと水計を防ぐことは出来ないからな。しかしそれだけで破られる作戦ではないはずだ。
「壁が作られたなら壊せばいいと思うんだが?」
「私たちも思ったけど、ゴブリンダークマージの封印魔術でこちらの魔法やスキルでの破壊は阻止してきたのよ。マレフィカの魔法妨害も効いていたし、カタパルトはオーガの投擲で撃ち落とされて、アーバレストはヘルグリフォンが盾になってきたわ」
おぉ…敵ながらやるな。しかしそうなるとこちらの取るべき手は決まってくる。
「水中から強引に相手の壁を壊せばいいんじゃないのか?」
「やっぱり凄いね。誠吾君。私たちもヒュドラたちを壁にして、壁を破壊する人たちは誠吾君たちが倒したバショウカジキの料理バフをかけて強引に破壊したんだよ」
おぉ…それは予想外。そういえばバショウカジキの料理には一時間の高速遊泳付与があったな。教えたのはシャローさんだろうな。
「最終的にはランパードの破壊は出来たんだけど、水計でこちらのランパードが破壊されるリスクもあったから水を少なくしていたせいで敵の被害はほぼなくて終わり」
「その後に火計をしようとしたんだけどマレフィカに雨を降らされて、結局ずぶ濡れ状態で戦闘することになったんだよ」
「鎧が重くなって、すげー戦いづらかったぞ」
うわー…嫌な戦場だな。
「梅雨イベントの防具や水着に着替えれば良かったんじゃないか?」
「敵の大軍が来ている時に軽装が出来るわけないだろう?」
それもそうか。最後に重要なことを聞かないといけない。
「被害はどのくらい出たんだ?」
「結構な被害が出ちゃったよ。私たち的には鉄心さんがやられたのはかなりの痛手だね」
「鉄心さんがやられたのか!?」
あれだけ強いのに…あの人なら敵に多少囲まれても突破するぐらいは出来るはずだ。すると海斗から予想外のことを告げられる。
「最初にランパードの破壊の動いてくれたんだけどな。ルーンスキルで空脚を封じられて、水に落下しちまったんだよ」
流石の鉄心さんも泳げないのではどうしようもないか。他にも被害が出たみたいだし、今夜の偵察作戦は部隊の再編をしないといけないかもな。すると俺にとって大変まずいことが告げられた。
「後、メルさんたちに今日のことがバレちゃって」
「お前、あの三人に文化祭のことを言ってなかったのか?」
「…話したのか?」
三人が頷く。終わった。絶対に見に来るじゃん。あの三人。というか家族総出で来るよ。家族に謎のゲームコスプレを披露するとかどんな羞恥プレイだ。
失意の中、夕飯を食べ終えてログインする。するとリリーたちが騒ぐ。
「大変だよ! 敵が来たんだって!」
「早く向かいませんと」
「もう戦いは終わったみたいだぞ」
「「「「えぇ~…」」」」
うむ…いい機会だし、話しておくか。
「戦いたかった気持ちは理解するが、俺たちはこれからヴァインたちの住処に向かう。相手はドラゴンたち。敵の強さを測るためにも本気で戦う必要がある。今回の戦いで消耗して、みんなは全力が出せるのか?」
「それは…そうかも知れませんが」
「でも、タクト…心配だよ」
自分が戦わないということは思った以上に不安になる物だからな。
「俺がみんなの強さを信じている。みんなも俺のことを信じてくれているだろう?」
「「「「もちろん!」」」」
ここで否定されると悲しいことになったが良かった。
「ならここに集まってくれたみんなの強さも信じて欲しい。難しいことかも知れないがそれも立派な強さなんだ」
他人を信じることは最も難しいことの一つだと思う。俺はその大変さを身を持って知っている。それでもこういう大規模戦ではどうしてもお互いを信用して、戦う必要が出てくる。大きな戦いを経験してきたリリーたちならきっとそれが出来るはずだ。
「「「「…頑張ってみる」」」」
「あぁ。これから作戦会議をしてからヴァインたちの住処に向かう。本気で戦う準備をしておいてくれ」
「「「「はい!」」」」
ということで作戦司令室で作戦会議をする。
「被害が出た分、偵察隊の人数を減らすしかないですね」
「タクト君は誰を連れて行きたいかしら?」
「チロル、アロマ、タクマ、アルさん、雷電さんたち、竜騎士たち、メルたちをお願いできませんか?」
鉄心さんがやられてしまったし、シフォンたちは動かせないだろう。
「少数精鋭ですね。それが現状では最善策でしょう。香子さんと銀たちも同行させてください。ドラゴンの住処の偵察には彼女たちの力が必要だと思います」
異論はないな。これで他の召喚師たちは防衛に回る分余裕が出来たはずだ。勿論敵も黙っているはずがないがこちらも休みの夜だから戦力はほぼフルメンバーだ。その後、作戦が決まり俺たちはヴァインたちと共に住処の偵察に向かった。




