#760 黒竜の住処作戦会議とワントワーク戦争の相談
お昼はみんなで文化祭のメニューを作る。まずはカフェオレ。
「見た目は完璧ね」
「問題は味だけど…これはどうなんだろう?」
「やっぱり氷にしてるからコーヒーの味が薄くなってるな。ここはコーヒー自体を変えるしかないな。ちょっとバイトでお世話になった店長に相談してみる」
「本当にお前はなんでもバイトしてるよな」
それは誤解だな。
「俺も塾の先生や遺跡調査、探偵のアシスタントとかしたことないぞ」
「塾のせんこーはわかるけど、他はなんだよ。そんなバイトあるのか?」
「あるぞ」
バイトは結構変なのがあるから探してみると面白い。
「…」
「姫…今、マンツーマンで誠吾に勉強を教えてもらう妄想したでしょ?」
「ふぇ!? あ!? わ! と! 真子ちゃんは何を言っているのかな?」
危な。俺のコップがお亡くなりになるところだった。あ、拭くもの拭くもの。
「動揺しすぎよ。姫」
「う…あ。濡れちゃった。ごめんね。誠吾君」
「いいよ」
俺が席を外すと海斗が言う。
「姫委員長、ミルクまみれだな!」
「少しこぼしただけだよ!」
「海斗…それはセクハラ発言でアウトよ」
帰ってきたら海斗が副委員長にアイアンクローされていた。どんな失言をしたんだ?あいつ。
その後、みんなでパンケーキを作る。
「副委員長が料理が上手だと!? あ、待って。アイアンクローは! アイアンクローはぁああ!」
「料理中は遊ぶなよ」
「そうね。終わってからするわ」
グレイなどの似顔絵を書いて食べると美味しかった。食べ終わると海斗の奴は部屋に逃げていった。夕飯の片付けは海斗だけにやられせよう。
俺たちはゲームにログインすると頑張っているヘーパイストスとパンドラに差し入れを持っていく。
「ご飯だ~! ありがとう! おじ様!」
「ありがとうございます。タクトさん」
「別にこれぐらいならなんてことないよ。そろそろ完成しそうか?」
既に太陽神の戦車はほぼ復元していた。
「はい。明日には完成すると思います。パンドラが来てくれて大助かりです」
「えへへ~」
微笑ましい光景だ。すると俺は復元された太陽神の戦車を見て、疑問に思った。
「だいぶ弄くったか?」
「わかるんですね。僕たちは神様を越えてしまいました」
「お楽しみに!」
どうやら相当力を入れたようだ。俺はその後、作戦会議に参加する。まずは敵についてだ。ヴィオレが報告する。
「敵のボスは堕天したエルダードラゴンだ」
「エルダードラゴン?」
「ドラゴンの中でも上位にいるドラゴンだ。本来ドラゴンは本能で戦うがエルダードラゴンクラスになると知恵を持ち、ドラゴンたちを指揮する能力を得る。エルダードラゴンがいるといないとではドラゴンの部隊のレベルが大きく変わってくると思ってくれ」
「つまりドラゴンたちはしっかりした作戦などを持って対処してくるということですね」
敵のドラゴンがこれまでと同じ数だとすれば、それはかなりの脅威だろう。今言えることは間違いなく過去最大の空中戦になるということだ。
こちらも空中戦にはある程度自信があるがドラゴンの大群との戦闘経験はない。だれだけ厄介か今日確かめれるのは大きいな。
「そうだ。そして敵は我々の元仲間であることが判明している」
「ネビロスが蘇らせたってことですか?」
「それだけじゃねーよ。あいつは自分の力を注いで自分が操りやすいように俺たちの仲間を変質させやがった。生前は誇り高いドラゴンたちを見るも無惨な姿に変えやがったんだ! 許せるはずがない!」
なるほど…それは怒って当然だ。リリーたちが物凄く怒っているのが伝わってくる。
「解放する手はあるのか?」
「ある。彼らを倒すことだ。どれだけ凄い力でも消滅したら無くなるのが道理。倒すことが出来たら、彼らの魂は解放されるだろう」
簡単で良かった。下手なことを要求されると色々考えないといけないからな。そして俺たちが気になっていることをファリーダが聞く。
「魔将がいるって聞いているけど、そいつについて何かわかるかしら?」
「わからない…だがあいつは元人間の召喚師だ。見たことがない魔石召喚を使って、ドラゴンたちを召喚していた。そして我々相手に恐しい強さを誇っていた」
「っ! まさか…」
和狐が反応する。暗黒召喚師だとするとあいつのことがどうしてもよぎるだろう。しかし俺はこれを否定する。
「俺たちと因縁がある奴は和狐との試練で決着をつけているからあいつじゃないはずだ。もし死んでなかったとしてもあいつがいるのは稲荷様の領域のはず。いくらネビロスでもたかが暗黒召喚師のために稲荷様の領域に入って敵対するとは思えない」
「そ、そうどすな」
「みんなは心当たりないか?」
プレイヤーの暗黒召喚師のイメージがみんなは強かった。しかしこれも無いだろう。イベントボスがプレイヤーとか意味不明だからな。そうなると魔将の正体は不明で対策は立てられない。わかることはヴァインたちを圧倒する強さがあるってことだ。
他の敵についても話をする。ドラゴンゾンビやスカルドラゴンは俺が対策を話すが問題はチロルたちが襲われたネクロドラゴンだ。
「たぶん霊化能力があるドラゴンなんだよね…」
「ここは熱鉄の黒縄の出番でしょうか?」
「だな…拘束が決まればなんとかなるだろう」
ドラゴンだから筋力は相当あると予想されるがそこは召喚獣やドラゴニュートたちでなんとかすればいいと思う。問題は他のドラゴンたちに壊される恐れがある点か。ここは他の人たちでフォローしないといけないところだな。
後はぶつかってみないとわからないということで細かい陣形を確認して纏まったところで会議は終わった。そして俺はマグラスさんたちから相談を受ける。
「戦争イベントを終わらせたい…ですか」
「あぁ…ライヒ、ワントワークのプレイヤー同士で話し合ったんだが、両者ともイベントを終わらせたいと考えている。今回のイベントでフリーティアとのレベル差が開いていることがわかったからな。どうにか出来ないか?」
そこで俺に聞いてくるんだ。俺はフリーティアの人間なんだけどね。しかし聞かれた以上考える。ぶっちゃけ現状プレイヤーのレベル停滞はイベントにかなり影響を与えている。俺たちだけ高ければいいという状況ではなくなっていると俺は思う。
「どちらも名主、名軍師、名将軍がいますからどうしても簡単には戦争イベントは終わりませんよ」
俺たちの場合は相手がレオナルドだけだったからレオナルドを倒して戦争が終わったけど、ワントワークの戦争はそう簡単には終わらない。最悪名主を倒しても次の名主が国を引き継ぐことがあると思う。グラン国王様がそれを示唆していたからな。
「そうなるよな…」
「でも終わらすことは結構簡単に出来るかも知れません」
うん。考えてみると条件次第だが行ける気がする。
「「「「えぇ!?」」」」
「まさかまた暗殺とか言わないよな?」
「流石に却下されたことは言いませんよ。このゲームでは停戦させることが可能であることが判明しています。強引に停戦させる状態を作れば戦争イベントを止めることが可能なのでは無いでしょうか?」
「赤壁の戦いを起こさせるってことですか?」
確かに赤壁の戦いで曹操が負けたことで諸葛亮が考えた天下三分の計が成立し、三国が睨み合う時代となった。ただ今の状態でこれをするのは難しい。何せ現状で戦力がほぼ拮抗しているんだ。これでは停戦など出来るはずがない。
「ではどうするつもりだ?」
「戦力のバランスを壊すしかないですね」
「おぉ! 遂にリープリングが動きますか!」
「以前にも言いましたが俺たちは動けません」
俺たちは動けず、ワントワークの上にあるゴネス、ヴァインリーフは戦力が低下しており、参戦しても意味がない。そうなると頼れる戦力は一つしかないだろう。
「では、どこにそんな戦力が…あ!」
流石に気がついたな。
「まさか桜花を使うつもりですか?」
「はい。呉は桜花と繋がっていますから介入は可能のはずです。ただ交渉しないといけないと思いますけどね」
介入するにもただというわけにはいかないだろうからな。
「それはそうだろうな…しかし桜花が介入しただけで停戦になるか?」
「それだけではきついでしょうね。そこでもう一手…農村を狙います」
「「「「農村?」」」」
全員が疑問に思う。その様子じゃ、砦攻略ばかりして農村はスルーしていたな。
「どうして農村を狙うんだ? 食料が重要なことはわかるが曹操はライヒ、ワントワークはフリーティアから食料を買うことが出来る。そこまで重要では無いだろう?」
マグラスの質問には専門のルインさんが答えてくれた。
「あら? それは大問題よ。食料が減ったら、その分買うしかないわ。そうなると次はお金が余分にかかることになる。お金が無くなると武器とか買えなくなるわ。最後には国として崩壊するしか道が無くなるのよ」
戦争は領土を取り合うけど、その実態は資源の奪い合いだ。国を保つためには資源がどうしても必要になる。
国を作る際に司馬懿はこの事を考えたはずだ。ゴネスを狙わずワントワークを狙ったのがその証拠。
ぶっちゃけ国を作るだけならゴネスを狙った方が遥かに楽だ。何せ生き残りが少なく、戦力差は圧倒的過ぎる。恐らくどこの国も動かず、曹操の国を認めていたはずだ。
でも、曹操と司馬懿はゴネスを選ばなかった。何故か?資源が無いからだ。更地の何もない土地を復活させるのは並の苦労じゃない。何せ土から変えないとダメだからな。
そのお金は洒落になってない。俺たちがフォローしているからその膨大な金額を知っている。だから曹操と司馬懿は争いになろうとも元々資源が豊富なワントワークを狙ったと考えられる。それならそれを奪ってしまえばいい。
「農村が急に狙われると曹操と司馬懿は焦るはずです。現実でも魏の農地改革を推進した人たちですから。そこに桜花まで関わって来られると何かしらの動きを見せざる追えないでしょう」
正確には農地改革を推進したのは曹操の部下と司馬懿の弟子だけど、曹操と司馬懿が農地改革を重要視していたのは間違いない。そしてこれが魏の勝因の一つと言われている。
魏は他の二国と違って土地的に農業が盛んな国では無かった。それでも魏の土地を選んだのは魏の前である後漢の首都である洛陽があったからだ。洛陽には後漢時代の皇帝がいて、支配下とすることで自分の権力を確かな物とした。
しかし土地がダメで食料がないと当然兵士や国民に影響が出てくる。ご飯を食べれる国とご飯が食べられない国どちらを選ぶかと言われたら、ほとんどの人がご飯を食べれる国を選ぶからだ。そして軍を動かすためにも食料は必須。このため二人は農地改革を行い、国力を強化したんだ。
そして洛陽を取り返すために蜀や呉は魏に攻めこまないといけない。長旅をして限りある食料で戦わないといけない二国は当然苦しむことになる。それだけ食料のあるなしが戦いの勝敗に影響した時代だったんだ。日本では卑弥呼の時代だから当然といれば当然かも知れない。
「なるほどな…後は掲示板で情報のやり取りをすればなんとかなるか」
「ですね。今のままですと蜀や呉側に有利なことばかりですから、停戦の段取りを進めつつ、お互いにプラスとなるように動くとしましょう」
うん。そこは重要なところだな。俺も提案代として、ちょっとお願いしよう。
「現状停戦するとしたら、結果的にご指摘通りになると思いますよ」
「俺もそう思いますけど、念のためにお願いしておこうと思いまして」
相手が司馬懿なら何を考えて来るか分からない。予め先手をとっておかないといいと判断した。
「ワントワークの上半分をワントワークと蜀、呉にすることに意味があるのか?」
「フリーティアには流石に曹操は攻め込まないと思いますよ?」
「でしょうね。俺が危惧しているのはゴネスです」
徐々にゴネスは復興していっている。しかしこのままもし資源が豊富な土地となったら、先ほど言ったように狙われる可能性が増すことになる。もちろんジャンヌたちが襲われるなら俺は動くつもりでいるが、一番確実なのは襲われないように国の境界線に接しない状況を作ることがベストだ。
もし蜀と呉がワントワークの上に入れば魏がゴネスに攻め込むためには海しか手段が無くなる。でも俺がもし呉の立場なら桜花との関係と自分たちの強さを活かすために海岸線を選ぶ。呉は三国志でも船での戦を得意としていた国だからだ。
呉の国が海岸線に出来ると海を通る魏の艦隊を見過ごすことは出来ないはずだ。自分たちの国が攻め込まれる危険性があるし、もしゴネスを魏に取られたら、蜀と呉は魏に挟まれることになる。それは全力で阻止することになるはず。
「問題はワントワークがどうなるかですね」
「ワントワークはたぶんファストの町を周辺を選ぶと思います。あそこは交通の要所ですから」
「そうね。あそこは若木の森に守られているし、もしタクト君の予想通りになるとフリーティア、ヴァインリーフ、ライヒ、蜀、魏と五つの国と接することになる。場合によってはゴネスも入るわね。私も商人ならここは譲らないと思うわ」
出来ればゴネスは入って欲しくないな。ということで俺たちは直江兼続さんに話をしておくことにした。流石に直江兼続さんには決定権がないけど、聖徳太子に話を通してくれることになった。後はみんな次第だ。
俺はその後、生産作業をする。さっきの会議の報告でプレイヤーたちのイベント武器に異変が起きているらしいのだ。ルナティック装備には異変が起きていないが、ムーンストーンだけの場合だと魔素吸収能力が限界に達して、効果が無くなる現象が発生しているらしい。
今までは神官職や聖職者たちが持ち込んだ聖水と浄化スキルでなんとかなってきたが、プレイヤーが多すぎるために限界を迎えたそうだ。ということで浄化能力持ちの召喚獣が急遽招集されることになった。
「ぷよ助、大丈夫か?」
ぷよ助は震える。大丈夫みたいだ。流石にぷよ助に大量の剣が刺さっている光景はあまり気持ちがいいものじゃない。それでも頑張っているぷよ助や浄化作業をしているみんなには何かご褒美をあげようと思う。
生産作業をしていると夕飯の時間となり、ログアウトすることにした。
真子は副委員長の名前です。久々に名前を出したと思うので、一応書いておきます。




