#759 暗黒大陸の冒険者ギルドとノワの着物
今日は休みだが、海斗たちが来るので、俺は朝食を食べてから海斗たちを迎える準備をしていると三人がやって来た。
「来たな。入っていいぞ」
「「「お邪魔します」」」
三人が入ると海斗が早速感想を言う。
「お! 少し家の感じが変わったか?」
「衣替えに合わせて変えたんだよ。いつまでも夏のままというわけにもいかないだろう?」
「そりゃそうか」
「男で一人暮らしだとそういうことには関心がないイメージだったわ」
流石にそれは偏見だと思うけど、どうなんだろう?俺は一応、季節に合わせて変えている。なんかこの家にいるといろんな事をしっかりしないと母さんに怒られる気がするんだよね。
「部屋はこの前と同じ部屋を使ってくれ」
「「「はーい」」」
その後、三人が持ってきてくれたジュースや食材を冷蔵庫に入れて、ゲームにログインする。俺が部屋を出るとヴァインと遭遇した。
「昨日の屈辱は絶対に忘れないからな~!」
そう言って走り去って行った。昨日のリリーたちの暴走は彼に深い傷を与えてしまったらしい。俺も義理とはいえ姉と妹がいる。彼には同情しよう。原因であるリリーたちを止めなかったけどね。
アーレイたちと合流して、俺たちは作戦司令室に向かうとサバ缶さんとルインさんがいた。
「「「「おはようございます」」」」
「おはよう。早速で悪いけど、昨日の戦闘を詳しく教えてくれるかしら?」
宴で騒いでいたからな。俺たちは昨日の戦闘の話をする。
「前回の戦闘でタクトさんが敵に狙われているのは確信になりましたね」
「私たちの事実上の総司令官だからか、ネビロスとの因縁があるから狙われているのか…条件は不明ね」
「こちらとしては雫さんが狙われずに済んで助かりましたよ」
「ですね。しかし今後は恐らく狙われるでしょう」
敵部隊を壊滅される破壊力を見せつけたのだ。敵が警戒しないわけがない。ただ雫ちゃんは技の代償であと五日の間、必殺技が使えず全ステータスが半減しているからこのイベントでは狙われないと思う。それでも敵が狙う条件がわからないから護衛は必要だろう。するとシフォンが名乗り出る。
「それじゃあ、私たちは雫ちゃんたちにはお世話になっているし、護衛についていいかな? 鉄心さんたちだけじゃあ、厳しいだろうから」
「そうして貰えると助かるわ」
「あれから敵の動きはあったんですか?」
「いいえ。ありませんでした。流石に住処と防衛の同時戦闘でしたからね。敵の被害のこともありますし、朝は来ないのではないかと。勿論警戒はしています」
それはそうかもな。
「作戦会議はお昼からでしたよね?」
「はい。イベントの時間的には比較的余裕があります。少なくとも今日はドラゴンの住処の状況、戦力確認することができるので、その打ち合わせがメインですね。後、個人的にマグラスさんたちがタクトさんに相談したいことがあるみたいです」
え?なんだろう?まさかブリューナクをくださいとか言われないよね?あげないよ。
「だとすると俺たちは暇になっちまったな」
「なら俺と来るか? ちょっと気になる物をこの前見つけたんだよ」
「お! 行く行く!」
俺はリリーたちを呼んでアーレイたちと共にブランと発見した冒険者ギルドに向かった。
「…本当にあるね」
「よくよく考えるとこれって変なんだよな」
「そうね…ここは暗黒大陸。私たちが今までいた大陸とは違って、ギルドはないはずよ」
勿論依頼を受けるところがあるのは不思議ではないんだが、少なくとも俺たちの大陸のギルドがここにあることは明らかにおかしいんだよな。
「ま、考えていても仕方ない! 早く中に入ろうぜ! お邪魔しまーす」
「ふぁ~あ~…ん? はぁ~」
店員の中年のおっさんはアーレイを見るとため息をついた。
「おい! この店員、凄い失礼だぞ!」
「仕方ないわよ。私も朝からあんたの顔を見るとため息をつきたくなるもの」
「そんなカミングアウトいらねーよ! タクトも頷くな! リリーちゃんたちが真似をするだろうが!」
それはいけないな。さて、このままアーレイを弄っていても仕方ないので、店員さんに話しかける。
「すみません。ここは冒険者ギルドであっていますか?」
「ん? あぁ。合っているぞ。ただし見ての通りボロい酒場で依頼も一切出していない冒険者ギルドだけどな」
「え? それって冒険者ギルドなのか?」
アーレイの疑問は最もだ。依頼を受けれない冒険者ギルドはほぼ機能していないと言えるからな。しかしそうなると疑問が生まれる。
「それならここでは何をしているんですか?」
「うむ…複数の種類が違うドラゴニュートにエクスマキナ。お前さんはフリーティアの英雄だな?」
「一応そう言われています。あ、これが冒険者カードです」
俺は冒険者カードを見せる。
「確かに銀色で名前も間違いないな…そいつらはギルドメンバーか?」
「はい」
「それならまぁ、いいか。俺は大昔に冒険者ギルドから魔王偵察のために送られた冒険者の子孫だ。俺たちは先祖の遺言を受け継いでずっと魔王たちの情報を冒険者ギルドに送っている」
俺は冒険者ギルドを舐めていたな…ちゃんと暗黒大陸にスパイを送り込んでいたのか。しかもずっと昔から今まで続けてきたなんて相当だな。シフォンが聞く。
「ということはここで冒険者ギルドをしているのは遺言ということですか?」
「まぁ、そうだ。暗黒大陸にも人間や亜人がいるとわかった先祖はいつか魔王たちからの解放のために動きがあると予見していた。で、その時のために冒険者ギルドとの繋がりが彼らの力になると信じていたのさ」
魔王たちがどういう政治をしているか知らないが、もし国民を蔑ろにしている政治をしていたならいつかは不満が爆発する日が来ると考えるのは当然だろうな。するとアーレイが興奮して聞く。
「それじゃあ、もしかしてここには超兵器とかあったりするのか?」
「そんなもんねーよ。あったら、とっくにこの国の王様に渡してる」
うん。それは当然だろうな。しかし俺たちにも何か恩恵があるはずだ。すると店員さんが俺に聞いて来る。
「お前さん、交換チケットを貰っているな? ここには持ってきているか?」
「へ? 一応一枚だけ持ってきましたけど」
サバ缶さんにアイテムは何に使うか分からないから一応交換チケットも一枚だけ持っていくように頼まれたんだよね。
「そのチケットはここでも使える。冒険者ギルドとの転送魔法陣があるからな。これをどう使うかはおまえさんの自由だ」
あ~…はいはい。運営が言いたいことが分かりましたよ。これから挑む敵はアンデッドのドラゴンだ。俺は交換チケットでこいつに滅茶苦茶有効な武器を知っている。
それがアスカロン。聖剣であり、竜殺しの剣であるこの武器は二重の意味で効果を発揮するだろう。これには全員が気がついた。アーレイが俺の肩に手を置いてくる。
「これは俺にアスカロンをくれる流れだよな? タクト」
「ただでもらおうとしている時点で論外だ」
リリーたちが頑張ってくれたお陰で手に入ったチケットになんてことを言っているんだ。こいつは。
「冗談だって。交換条件は今回の報酬でどうだ? 気に入らなかったら、次の報酬でもいい」
「い、や、だ」
「アーレイ。世の中には言っていい冗談と悪い冗談があるのよ」
「うん。これはアーレイ君が悪いよ」
アーレイに味方はいなかった。
その後、一応このことをサバ缶さんに報告して、俺は生産作業に入った。まずはパンドラからリリーの剣を貰う。
ルナティックミスリルグレートソード:レア度9 大剣 品質S
重さ:45 耐久値:750 攻撃力:800
効果:悪魔特攻(究)、万物切断、浄化、魔素吸収、地獄の加護無効化
ルーンサイトとミスリルの合金で作られた大剣。ミスリルの浄化能力のおかげで魔素を取り除く時間なく戦うことを可能にした。死後の世界の力を宿した存在に極めて強力な能力を誇っている。
リリーが受け取るとパンドラにしっかりお礼を言っているとパンドラが次の依頼を聞いてくる。
「武器はもういいからへーパイストスの手伝いをしてくれ」
「お父さんのお手伝い! わかった! 行ってきます!」
やはりへーパイストスが関わるとパンドラの様子が変わるな。これで太陽の戦車は間に合うと思いたい。その後も生産作業を続けているとお昼前に色々出来上がる。まずはノワの着物。
ゴシックの着物:レア度9 防具 品質S-
重さ:5 耐久値:1000 防御力:30
効果:魔素攻撃無効、精神攻撃無効、天の加護
天の衣から作製した女物の着物。黒色の布地にがレースとリボンをたくさん使うことでふわふわな着物となっている。天の衣の効果で精神攻撃と魔素から身を守り、天の加護で全ての武器に神聖属性を付与することが出来る。
これは凄い着物を作ったな。というかこれは最早ゴスロリ服な気がする。これにはノワも驚く。
「…おぉ~」
「ノワはんの要求に答えて作りましたらこうなりました。どうどすか?」
「…凄い。完璧。褒めてあげる」
ノワが和狐の頭を撫でる珍しい図だ。それだけ気に入ったということだろう。そしてノワが着替える。
「…着替えた。どう? にぃ?」
「いつもと違って新鮮だな。うん。可愛い可愛い」
「…むふ~」
ノワは誇らしげだ。やはりこういう服がノワのお気に入りなんだな。和狐にはリビナの服を頼む。
「…どんな着物を作ればいいんどす?」
「んん~…あ、和狐は桜花で俺にくっついて来た人たちの服を覚えているか?」
「覚えます。というかやっぱりあの人たちはそういう人たちだったんどすな」
「全員がそうとは言えないけどな」
遊女は客を遊ばせる女という意味で時代劇ではお酒を酌んだり、芸を見せたりしている。しかし和狐の言うそういう人たちもいることも事実だ。
「とりあえずリビナの着物はあれで頼む」
「はいな」
次はセチアを呼ぶ。
「どうしました? タクト様」
「ちょっと作りたい物があるんだ。手伝ってくれないか?」
「薬ですか!」
「当たらずも遠からずかな?」
俺がセチアに依頼するのはサバ缶さんたちが作ってくれた浄化の銃弾の中身。俺は考えた案を話すとミールを呼び、三人で試行錯誤をしているとアーレイが時間を知らせてくれた。
「何を作っていたんだよ」
「悪魔を苦しめる魔弾」
「どんな悪魔的な銃弾を作るつもりなんだよ」
俺が教えると引かれた。何故だ。ここで昼食のためにログアウトした。




