#757 モーゼの奇跡
地上戦は派手にやっている。やはり目立つのは大型の召喚獣。特にマヤさんの召喚獣たちは圧巻だ。ベヒモスの突進の前に敵は誰も対処出来ていない。ロイヤルデュラハンがファランクスガードで突進を止めても次に来る鼻の一撃で周囲の敵が根こそぎぶっ飛んでいく。
その周囲を固める巨人がオーガ、イベント武器の棍棒やハンマーを振り回して吹き飛ばしていく。ただ敵もやられっぱなしというわけではない。敵軍に突っ込み過ぎると当然的にされてしまう。
『マヤさん、ストップ! ストップ!』
『コンビクト・ワーウルフやレッドキャップがベヒモスに飛びついてます!』
『えぇええ!? それはまずい! 誰か取って! 象は急には止まれないんだよ! あ』
ナオさんにコンビクト・ワーウルフたちが爪を振り被った時、千影たち烏天狗部隊とホークマン部隊が助けに入る。
「わぉ! かっこいい!」
「そうでありますか? 空が大方片付いたので、援護するであります。マヤ殿」
「かたじけないでござる」
「ござる?」
ナオさんの言葉に首を傾げる千影だ。するとベヒモスが悲鳴をあげて、召喚石に戻ってしまった。呪滅撃のダメージと下ではゴブリンアーチャーたちが攻撃を加えていたんだ。何もしなければこうなるのは当然だった。そして当然ベヒモスが消えれば狙われるのはマヤさんだ。無数の矢が放たれる。
「や、やば!?」
「危ないであります! 皆さんはマヤ殿を! 伸びよ! 如意金剛錫杖! はぁああ!」
千影は如意金剛錫杖を回転させて、矢を弾く。更にホークマンたちは防風壁を使い、矢からマヤさんを守った。そして地面からマヤさんの竜化したドラゴニュートが現れた。
『我が主の命を狙って無事で済むと思うなよ。ゴブリン共!』
爪は尻尾でゴブリンたちをぶっと飛ばしていく。しかし呪滅撃がマヤさんの土のドラゴニュートを苦しめる。このままではマヤさんの召喚獣たちは袋叩きにされてしまう。
『『血醒! 狐技! 火炎車! うぐ!?』』
獣化した恋火と和狐がマヤさんの召喚獣たちの側面に強引な突進技で飛ぶ込みと味方が通るための道が出来た。そして恋火と和狐は空に逃げるがかなりのダメージを受けてしまった。
『自己再生! お姉ちゃん!』
『うちは大丈夫どす…恋火!』
『あ…』
恋火たちに弓矢が降ってくる。しかしブランとコノハ、コーラルが救援に来た。
「ピィ!」
「防風壁!」
「ホー!」
「和狐さん、大丈夫ですか? 聖療!」
コーラルの火ブレスで焼き払い、残った矢を風の壁と守護で見事に矢を防いだ。そしてブランは聖療で恋火たちの他に地面にいるナオさんの召喚獣たちも回復する。
「助かった…ありがとう。みんな」
マヤさんがお礼を言ってると空中部隊が集まる。
「「「「マヤさん!」」」」
「いつも通り行けると思ってました。ごめんなさい。召喚獣たちは一度戻します」
これは俺にも責任がある。自由に戦っていいって言ったからな。しかしマヤさんの行動でホーンデッドオルトロスへの道が開けており、グレイたちが動いていた。
「ガウ!」
「「「「ガゥ!」」」」
ホーンデッドオルトロスに挑むのはグレイ、虎徹、ゲイル、白夜、優牙、ハーベラスだ。グレイの指示でホーンデッドオルトロスの周辺の敵はチェス、アラネア、エアリー、狐子が対処する。
ホーンデッドオルトロスの前に群がっていたゴブリンたちをアラネアが展開した巨大な粘着糸の網で根こそぎ絡めとるとアラネアは粘着糸ごとゴブリンたちを遠くに投げ捨てた。殺さない限り呪い系のスキルは発動しないからな。いい判断だ。
そしてグレイたちがホーンデッドオルトロスに戦いを挑む。ホーンデッドオルトロスはいきなり息を吸い込むとそれに割り込むようにグレイがミスリルブレスを当てるとホーンデッドオルトロスは怯まず、ミスリルブレスが当たっている顔を下げて、黒炎を吐き出してくる。
グレイに迫る黒炎を虎徹は斬り裂くとグレイは幻狼を展開して、ホーンデッドオルトロスに連携して攻撃を行う。
するとホーンデッドオルトロスが紫色に発光し、グレイの幻狼を光の衝撃波で消し飛ばしてしまう。それを待っていたグレイたちのブレスがホーンデッドオルトロスに炸裂する。
グレイは完全に幻狼を使って、相手の全体攻撃技を誘ったな。どうしても大技は撃った後に隙が出来てしまう。そこをグレイたちは逃さなかった。当然ブレスを使ったグレイたちも他のモンスターたちに狙われるがそこはチェスたちがフォローしている。
すると予期せぬ乱入者が来た。ロイヤルデュラハンだ。ロイヤルデュラハンのグランドスラッシュを虎徹が止める。虎徹を助けようとアラネアがミスリル鋼線で縛り、ゲイルが電磁操作で剥がそうとするがロイヤルデュラハンは強引に虎徹を押さえ込んで来る。
「ガァアア!」
虎徹は妖刀解放を使うしかなく、強引にロイヤルデュラハンを弾き飛ばす。するとロイヤルロイヤルデュラハンは魔素化して姿を消す。そして虎徹の背後から斬りかかてくる。虎徹はガードに動くが虎徹の太刀をロイヤルデュラハンの大剣が摺り抜けて来る。
「「ガァアア!」」
ゲイルが閃電で体当たりをして、ロイヤルデュラハンをぶっ飛ばすことで虎徹を救うと白夜が森林操作で拘束しようとする。するとロイヤルデュラハンは乱刃で森林操作の木の根を斬り裂いた。
「ヴェ~!」
ここでエアリーが豊穣を発動させると斬られた木の根が新たな木の根として復活し、捌ききれない数の木の根がロイヤルデュラハンを完全に拘束した。豊穣にはこんな使い道があるんだ。覚えておこう。
しかし別のロイヤルデュラハンたちが救出に現れた。一人はエアリーを狙うが優牙が守りに入ったがもう一人のロイヤルデュラハンによって、拘束が解かれてしまう。
『どーん!』
ユウェルが地面から現れてロイヤルデュラハンたちはぶっ飛ばすがロイヤルデュラハンすかさず空脚を使って体勢を整えてる。
『大砲! どどーん!』
竜化したユウェルの肩から大砲が現れると容赦なく大砲が放たれた。これをロイヤルデュラハンたちは盾でガードし、ユウェルに斬りかかるがここでゲイルの電磁操作に二人は捕まる。
『鉄拳!』
ユウェルの拳で一人はぶっ飛び、もう一人は地面に叩きつけられ、起き上がったところを狐子が憑依した。ロイヤルパラディンの一人は狐子に操られて、ゴブリンたちを倒しまくると呪滅撃で生命力を減らされた上にプレイヤーに斬られて倒された。
そしてユウェルに吹っ飛ばされたロイヤルパラディンも悲惨だ。ぶっ飛んだ先には別のロイヤルデュラハンと戦っているファリーダがいた。
「何よ! こいつ! 戦いの邪魔よ! 魔拳!」
再び飛ばされたロイヤルデュラハンは淫夢結界の中で精神誘導で敵同士を戦わせて遊んでいるリビナの元へ。
「今、いいところなんだから邪魔しないくれるかな? 魔拳!」
コンボはまだ続く。
「え? きゃあ!」
空にいたブランのパッラースの盾で強打を受けて、地面に落下するかと思ったら、そこにはリサがいた。
「必殺! 聖魔爆裂拳!」
リサが聖魔爆裂拳を使ったところに落下したロイヤルデュラハンはボコボコに殴られて、地面にボロ雑巾のように転がった。
「あれ? なんでロイヤルデュラハンが? まぁ、いいや! ロイヤルデュラハンを倒したぞ~!」
「ガウ?」
リサは喜び、虎徹は勝負するんじゃなかったの?と言わんばかりに首を傾げていた。俺は虎徹にホーンデッドオルトロスに集中するように伝えた。ホーンデッドオルトロスは体の骨をバラバラに展開していた。
あれはスカルドラゴンが使っていたスキルだ。あの時は赤い玉を破壊する必要があったが、コノハの神瞳によると敵の弱点はホーンデッドオルトロスの二つの頭だ。俺はそのことをグレイたちに伝え、編成を変えるように指示を出す。
『リリーとイオンがそっちに向かっている。ゲイル、白夜は交代して、地脈操作でマレフィカの結界潰しにユウェルはペトロイローションでなるべく多くの敵を石化させてくれ』
『『ガウ!』』
『了解だ! タク』
その間にグレイたちはホーンデッドオルトロスとの攻撃に対処するが空を動き回る骨たちに苦戦する。グレイたちは噛み砕いたり、斬り裂いたりすると骨は白い粉になると再び復活し、呪滅撃を発動する。
そして本体の首は空を飛び回り、火炎弾を撃ってくる。するとハーベラスが骨に拘束され、腐蝕ブレスを浴びてしまう。しかしハーベラスは負けじと冥府の加護で復活する。
アラネアがハーベラスに集まっていた骨を糸で捕まえようとしたが、逃げられてしまう。するとここでリリーたちが到着する。
「お待たせ! ゲイル、白夜代わって!」
「敵部隊が第一防衛線を突破しました。急いでください!」
「「ガウ!」」
流石に俺たちのレベルが高くても数で完全に負けているため、やはり突破されてしまう。
そして交代したリリーたちがホーンデッドオルトロスの頭部討伐に動くがリリーの攻撃が当たらず、イオンの攻撃では攻撃力不足のようだ。それでもイオンが片方のホーンデッドオルトロスの頭部を壊すとリリーが追っていた頭部が復活されてしまう。これによりイオンに呪滅撃と呪滅封印が発動する。
「イオンちゃん!?」
「く…ノワを相手にしている気分ですね…どうやらあの首は二つ同時に倒されないとダメみたいです」
「で、でも…リリーの攻撃が当たらないよ~」
リリーが情けない声を出しているところに俺はアドバイスする。
『リリー、水晶竜の大剣を使え。あれの水晶投擲なら攻撃範囲は広いし、火力は申し分ないはずだ』
『それなら確かに当たりそう!』
『決まりですね』
『イオンはルナティック武器で攻撃。止めはグレイにさせてあげないか?』
俺がお願いするとイオンは答える。
『わかりました。さっきと同じように削ってみます』
『頼む。黒鉄たちが第二防衛線を防衛しているが長くは持たないだろう。タイムリミットが近いぞ』
『わかりました。任せてください』
俺は通信を切る。
「聞きましたね? 次で決めますよ!」
「うん! てりゃー!」
リリーが水晶竜の大剣を取り出すと早速大振りする。すると水晶投擲が発動して、無数の水晶がホーンデッドオルトロスの首に命中する。
「当たった! これなら」
「リリー! 攻撃を後、七回当ててください! それ以上攻撃したら、ダメですからね!」
「わ、わかった! イオンちゃん!」
リリーがイオンの指示通りにダメージを与え、イオンもギリギリまで削る。するとホーンデッドオルトロスは狂戦士化を使い、攻撃が激しくなる。
「いたたた!?」
「く…この! 往生際が悪い!」
「ガァアア!」
チェスが強制を使い、攻撃がチェスに向く。
「今です!」
「行くよ! グレイ! やー!」
「ガァアア!」
リリーの水晶投擲とグレイのミスリルブレスが決まり、ホーンデッドオルトロスの骨たちは消え去った。
「勝った! 勝ったよ! イオンちゃん!」
「わ、分かりましたからまだ戦闘中…リリー!?」
リリーにホーンデッドオルトロスの魂が迫る。それをエアリーが跳躍して受ける。
「「エアリー!?」」
エアリーの生命力が一瞬で無くなる。自分が死ぬ際に相手を道連れにするスキルか。しかしエアリーを道連れにすることは出来なかった。蘇生でエアリーが復活する。
「エアリー! 良かったよ~」
「もう…心配させないでください…ッ!?」
残っていたロイヤルデュラハンたちがエアリーを狙ってきた。
『やらせません!』
『うちらの大切な仲間に手出しさせまへん!』
恋火と和狐がロイヤルデュラハンたちを踏み潰すが一人抜けて飛び上がって斬りかかって来ると空で動きが止まると後ろにいたセフォネに吸い寄せられる。
「チャージスライサー!」
ハルペーの刃がロイヤルデュラハンの鎧を貫く。
「ふん! お主で四人目。タクトの血を吸ったばかりの妾を敵にしたことを後悔してあの世に行くといいのじゃ!」
セフォネがハルペーの刃を抜くと再び斬り返して、ロイヤルデュラハンを倒した。そこにマレフィカたちがセフォネに魔法を放とうとした瞬間、影から現れたリビナに背中から吸血爪で引き裂かれた。
「ダメでしょ。ボクを無視したらさ。お・ね・え・さ・ん。堕落」
マレフィカがリビナの前に崩れ落ちる。他のマレフィカも地面から現れたアラネアに首を柔糸で締めつけられると噛み付かれる。
それを見たマレフィカたちは剣のルーンを使い、二人に襲いかかるが空からコノハ、クリュス、蒼穹、コーラルに捕まり空に連れて行かれた。その後もリリーたちはプレイヤーたちと強力して奮闘する。
一方敵の最前線は第一ラインを突破したところで伊雪たちによる暴風雪を浴びていた。これで隠れていたゴブリンアサシンたちが姿を見せたところで与一さんたちが狙撃、更には足元が雪になったことで雪潜伏持ちの召喚獣たちの襲撃を受ける。
それでもゴブリンアサシンたちは雪潜伏に対応して、伊雪に短剣が突き刺さる場面があった。しかし伊雪は状態異常にならず、ゴブリンアサシンの首を氷刃で飛ばした。
「運を操る私たちにそんな武器は通用しません」
どうやら運勢操作で毒になる確率を操ったようだ。さっきまで空の敵から襲撃を受けていて、ストレスが溜まっているのはわかるが見ているこっちは心臓に悪い。
『詠唱完了!』
ダークエルフからの通信がきた。俺は第二部隊にいるルークに指示を出す。
『ルーク! 雪部隊を下がらせろ!』
『了解です! 雪部隊は撤退! 植物部隊は前へ!』
俺も指示を出す。
『伊雪、一旦引いてくれ。ミール、頼むぞ』
『はい! お父さん!』
「お任せください。タクト様」
伊雪たちが撤退したところでダークエルフたちの魔法が降り注いでゴブリンアサシンたちは全滅する。しかし魔法によって、撃ち終わりの間に他の敵が飛び込んで来る。
「植物召喚! ギンピ・ギンピ」
ミールたちドアイアドやアルラウネ、アルラウネの進化であるスクーグスローの植物召喚を使うと毒草が蔓延る恐怖の草原を作り上げる。
スクーグスローはスウェーデンの伝承に登場する森の精霊。このゲームでは森の妖精となっているらしい。ミールたちと違って背中から木を生やしている女の子タイプの召喚獣だ。
敵が草原に入るとギンピ・ギンピの前に脱落者が続出する。そして進行が止まったところにダークエルフたちの魔法が降り注いだ。
本来ならこれでダークエルフたちは呪滅撃で死んでしまうはずだが、ダークエルフには効果がない。ダークエルフたちによると防具で無効化しているそうだ。
毒草エリアがダークエルフたちの魔法のおかげでなくなり、数を頼りに敵部隊は突っ込んでくる。
「「「「「精霊召喚!」」」」」
彼らの前に精霊たちが現れて、ホーンデッドオルトロスはボコボコにされる。セチアも土の精霊を召喚しており、敵部隊を石化させている。精霊たちが消えると俺はセチアの回収に訪れた。
「よ。お疲れ様」
「遅いです…タクト様」
俺はセチアたちを回収すると召喚獣たちに後は任せて、ダークエルフたちに撤退させる。
「後は頼むぞ。黒鉄、ディアン、月輝夜」
黒鉄たちゴーレムの光線とディアンたち空を飛べない蛇タイプの召喚獣のブレスが一斉に放たれ、月輝夜たちオーガやジャイアント系の武闘派が敵部隊とぶつかった。
俺は回復魔法でフォローしていたがここで準備が整った知らせを受けたので、花火を上げて全軍に撤退の合図を出す。俺はグレイたちをテレポートで俺のところに移動させる。
「お疲れ様」
「「「ガウ!」」」
みんなボロボロだが、やりきった誇らしさを感じる。この中で軽傷なのはロコモコ。ロコモコはストラの回復サポートを任せていた。どうしてもストラにはダメージが蓄積してしまうからだ。
そしてロコモコたちゴールドシープ部隊は攻撃が当たりそうになると一斉にズメイやモビーディックの後ろに隠れていた。それでも敵部隊に接近されると隠れることは出来ない。しかしゴールドシープには脱走スキルがある。
危なくなったら、砦に帰ってきて魔力を回復。安全になったら、サポートに戻る。これでは生命力が減るはずがない。ロコモコの軽傷はそんなみんなの脱走を手助けするために頑張っていたからだ。これは褒めてあげたい。
黒鉄たちも撤退させたことで敵部隊は第二防衛ラインを破壊する。するとランパードの上で擬態で姿を消していたスライムたちが落下してきて、ランパードを壊したゴブリンやワーウルフたちは地獄を体験した。
これが俺たちの用意した最後の罠だ。スライムたちは魔法に弱いから用が済んだら、すぐに戻す。これで全員の撤退が完了した。
残すは最終防衛ラインのランパードのみ。ここを守っていたエステルの騎士たちも既に撤退させているから完全にフリーだ。これにはちゃんとした理由がある。俺は隣にいる雫ちゃんに声を掛けた。
「準備はいいかな?」
「いつでも行けます!」
「なら頼む」
これがこの戦いでの俺たちの切り札だ。
「はい! アロンの杖! 伝説解放!」
雫ちゃんがアロンの杖の真の力を解放する。
「聖杖技! ドケッ・イシュア!」
雫ちゃんが必殺技を発動すると雫ちゃんの魔力がなくなり、倒れそうなところを護衛であるカイが支えた。そしてリリーが恐る恐る聞いてくる。
「えーっと…タクト? 何も起きないよ?」
何も起きず、敵軍は最終防衛ラインを破壊して迫って来る。
「タクト! 大変だよ! 急いで止めないと! あう」
「大丈夫だ。ほら、そろそろ来るぞ」
敵が砦に肉薄しようとしたとき、巨大な雷が地面に落ちるとモンスターたちがいる地面がひび割れ、全てのモンスターたちが地面の陥没に巻き込まれて落下していく。ロイヤルデュラハンは空脚で逃げようとするがモーセが起こす奇跡はそれを許さない。
発動した瞬間、発動範囲にいる敵のスキル、アイテムを全て封じてしまうらしい。これにより発動してから回避することが極めて困難な技となっている。例外は武器などのスキルは対象となっていない点だがこれで逃げることが出来るのか疑問だ。何せまだ攻撃は続いている。
陥没した地面の左右に魔法陣が描かれ、大量の聖水が陥没したところに滝のように流れ落ちていく。アンデッドモンスターたちにとっては悪夢の光景だろう。
モンスターたちは逃げることが出来ず、聖水に飲まれて溺れていく。呪滅撃も水泳スキルの発動も許さない圧倒的な力によって、俺たちは防衛に成功するのだった。
「「「「うひゃ~…」」」」
「「「「凄い威力…」」」」
聞いていたのと実際に見るのとではやはり全然違うな。威力が凄すぎると大体みんなの反応は一緒になると実感した。
ドケッ・イシュアはヘブライ語で日本語での意味は『苦しみを終わらせ、救済を待ち望みます』という意味らしい。技が中々発動しなかったのは待ち望んでいるという事だろう。
この技ははっきり言って俺が知る中で一、二を争うほどの殲滅能力を持っている。その代わりにこの技は使い勝手がかなり悪い。まず技を発動させる条件は魔力が500以上で消費魔力は使用者の全魔力だ。これは破壊力を見ると納得だろう。
問題はここからだ。まず伝説解放に有する時間、雫ちゃんは敵が来る報告を受けてから俺が立っている城壁の内部でずっと伝説解放をするために必要な詠唱をし続けていた。詠唱が終われば移動は出来るが詠唱中は移動することが出来ない。そして詠唱中に攻撃を受けたら、当然伝説解放は不発。魔力だけが無くなってしまう。そして必殺技を使用後に攻撃を受けても不発するらしい。
つまりこの必殺技は味方の力がどうしても必須の必殺技なのだ。敵をいち早く発見する偵察係、敵を足止めする係、敵の攻撃から自分を守ってもらうための護衛係が必要だ。
はっきり言ってかなりのギャンブルだった。俺を襲ってきたマールス・ゲニウスやマールス・リーパーが雫ちゃんを狙わず、俺を狙ってきてくれて本当に助かったし、部隊全員が雫ちゃんの技発動までの時間を稼いでくれたおかげだ。
そして改めて、戦闘終了を知らせるインフォが来る。
『職業召喚師のレベルが上がりました。ステータスポイント2ptを獲得しました』
『職業召喚師のレベルが上がりました。スキルポイント2ptを獲得しました』
『雷魔法のレベルが50に到達しました。雷魔法【レッドスプライト】、【レールガン】を取得しました』
『リリーの片手剣のレベルが50に到達しました。剣【バスターセイバー】を取得しました』
『リアンの杖のレベルが5に到達しました。杖【マジックアップ】、【マジックバレット】を取得しました』
『ブランの槍のレベルが40に到達しました。槍【スクリューランサー】を取得しました』
『ファリーダの魔将技のレベルが10に到達しました。魔将技【デモンクラッシャー】を取得しました』
『ユウェルのレベルが20に到達しました。成長を実行することが出来ます』
『エアリーの光魔法のレベルが30に到達しました。光魔法【リフレッシュ】、【フラッシュバン】を取得しました』
『エアリーの光魔法は神聖魔法に進化しました。神聖魔法【セイント】、【ブレス】を取得しました』
『ルーナの氷魔法のレベルが35に到達しました。氷魔法【ダイヤモンドダスト】、【ヘイルシャワー】を取得しました』
『ハーベラスのレベルが30に到達しました。進化が可能です』
『千影の杖のレベルが5に到達しました。杖【マジックアップ】、【マジックバレット】を取得しました』
今回は仲良く全員レベルアップ。新しい雷魔法は予定通り覚えたがとりあえずステータスポイントは筋力に回して、残りスキルポイントは133ptとなった。
俺やリリーたちのレベルアップのペースが落ちているからグレイたちの進化が先に来るかも知れないな。元々俺たちの中でグレイが最初の進化だったんだ。俺やリリーは大部遅れてからのクラスチェンジだったからな。先を越されて当たり前か。
「よっしゃあああ! この防衛戦! 俺たちの勝ちだ!」
「「「「おぉ!」」」」
カイが勝鬨を上げて、みんながそれに答える。俺はここで気になることがあった。
「カイ、雫ちゃんは?」
カイの手には雫ちゃんがいない。
「へ? あ」
雫ちゃんが地面に顔をつけていた。どうやら動けない雫を放り出して勝鬨を上げてしまったようだ。顔が見えない雫ちゃんだが、怒りが伝わってくる。
「し、雫?」
「絶! 対! に! 許さない!」
『あーあー…こりゃ、坊主。さっきの必殺技を受けるしかないな。あ、この剣はしまって受けてくれよ。とばっちりは御免だ』
「いぃ!? なんでそうなる!? 後、普通に逃げるなよ!」
どんなに凄い力を手に入れても俺たちはきっと俺たちのままなんだろうな。じゃあ、本部に防衛成功の連絡を入れますか。
『こちらタクト。防衛成功しました。ドワーフの砦のほうはどうですか?』
『お疲れ様です。ドワーフの砦のほうも攻略が成功しました。既にお城で宴の準備が出来ていますから、皆さんにお城まで来るようにお伝えください』
『準備するの早すぎでしょう…』
『ギルマスが参加してますから』
その理由はかなり危ない理由だと言っておく。
「ドワーフのほうも攻略が成功して、お城で宴の準備がしてあるそうだ」
「「「「「何ぃ!? すぐ向かいます!」」」」」
明日は休みだし、今夜の宴は長引きそうだ。
物凄く今更ですが、成長のインフォを今まで強制でしたが、選べるように変更しました。
以前のインフォの修正する予定です。




