#730 リリーの着物と十割そば
三連休最後の日だ。俺は朝食を食べてからログインするとナオさんからメッセージが来た。
『ご依頼の指輪が二つ完成しました。時間がある時にお店に来てください』
流石に休みがあると作製するのが早いな。そう思っているとリリーの笑い声が聞こえてきた。俺が下に降りるとリリーが初めて見る服をサラ姫様に自慢していた。
「おはようございます」
「あ! タクトだ! 見てみて! 和狐ちゃんが作ってくれた服だよ!」
「朝はまず挨拶からな」
「うん! おはよう! タクト」
今日も元気一杯のリリーだ。
「おはようございます。朝早くにすみません」
「…またシルフィ姫様ですか?」
「私の口からは言えません。ただ明後日には暗黒大陸に出陣されるんですよね?」
「はい。そうですけど」
この流れは予定変更の流れだな~。
「でしたら、明日に例の予定を変更できませんか?」
「わかりました。では夜でいいですか?」
「夜…ですか」
やっぱり夜は厳しいかな?
「理由を聞いてもいいですか?」
「今の時期の桜花は夜に秋祭りをしているらしいので、折角の息抜きですからお祭りでもどうかなと」
「なるほど…ちょっと聞いてみます」
『お祭り』
しまった…リリーたちに聞かれてしまった。まぁ、このイベントのインターバル中に行こうと思っていたんだけどね。イベントのためにテスト勉強を早めたり、文化祭の準備で纏まった時間は夜だけになる。
出来ることが限られているならリリーたちのご褒美として、秋祭りに行くことは間違いではないだろう。その後、リリーが和狐が作った着物に着替えて登場する。
白ユリの着物:レア度9 防具 品質S-
重さ:5 耐久値:1000 防御力:30
効果:魔素攻撃無効、精神攻撃無効、天の加護
天の衣から作製した女物の着物。ピンクの布地に白いユリが描かれており、女の子の可愛さをより感じるデザインとなっている。天の衣の効果で精神攻撃と魔素から身を守り、天の加護で全ての武器に神聖属性を付与することが出来る。
「じゃーん! どう? タクト!」
「思った通り、似合っているぞ。リリー」
「えへへ~」
するとここで和狐がネタバレをしてしまう。
「リリーはんの着物の花はタクトはんの要望なんどすよ」
「そうなの? タクト」
「あぁ。この花は俺がリリーの名前を付けたきっかけとなった花なんだ」
白ユリの花言葉は純粋や無垢、陽気などがある。最初にリリーを召喚した時にこの花のイメージと一致したことから名前を付けたんだ。それを伝えるとリリーは嬉しそうだ。
「リリーの花なんだ~…えへへ。えへへへへ~」
くるくる回りだした。大丈夫だろうか?
「これは暫く帰ってきませんね。今日はどうするつもりですか? タクトさん」
「朝は桜花で神様に会いに行ってみようと思う。昼からはいよいよ宝島だ。夜は未定だな」
嘘です。指輪を渡さないといけません。でもそれを伝えるのは野暮だろう。するとリリーが倒れる。
「…目が回って気持ち悪い」
そうなるだろうよ。頼むから新しい服を汚さないくれ。
俺は平安の都に転移する。メンバーは恋火、伊雪、スピカ、ジーク、千影だ。俺たちは富士山っぽい山の横を通り過ぎようとした時だ。恋火が何かに反応する。
「タクトお兄ちゃん! 何か来ます!」
恋火が見ているほうを見る。しかし何もいない。すると危険察知が反応する。
「スピカ!」
「ヒヒーン!」
スピカが幻影で謎の攻撃を躱す。
「きゅ!?」
「きゃ!?」
しかしジークは攻撃を食らってしまう。それでもダメージは軽微だ。すぐに態勢を整える。
「…二匹いるか? 恋火」
「はい。ただうまく気配が掴めません」
魔術殺しの魔導書を使うが姿が見えない。術ではなく気配遮断か何かしらのスキルで見えなくなっているのか。するとまた攻撃が来る。俺たちは恋火とスピカのおかげで躱せるがジークたちは躱せない。これはあぶり出すしかないな。
「伊吹、吹雪を頼む」
「はい! 吹雪!」
フィールドに吹雪が吹き荒れる。これで姿が見えるはずだ。そう思っていたが吹雪の中でも影響を受けず、謎の敵は攻撃してきた。これで敵は俺たちが知らないスキルを使っていることは確定だ。
「ど、どうしますか? タクトお兄ちゃん」
「…スピカ。無理を言っていいか?」
「ヒヒーン!」
俺は恋火と伊雪にしっかり捕まるように言うとわざとダメージを受けてもらった。その瞬間、スピカが反撃で角を振るうと敵に命中し、敵は姿を見せた。
初夢の鷹Lv40
通常モンスター 討伐対象 アクティブ
なるほど。最早この山は富士山って言っていいかな?初夢で見ると縁起がいいと言われている一富士二鷹三茄子に由来するモンスターだろう。つまりこいつはラッキーモンスターの可能性が高い!絶対に逃がさん!
「スピカ!」
スピカの光速激突が決まったと思った瞬間、初夢の鷹は転移でいなくなった。
「何!? どこに行った!?」
「…気配がありません。タクトお兄ちゃん」
逃がした~!くそ…やられた。激突の効果潰しにはこういう手もあるのか…考えていると当然なんだけどさ。伊雪が聞いてくる。
「あの…さっきのはどうやって光速激突を躱したんでしょうか?」
「たぶんもう一匹いた奴がテレポートを使ったんだろう。激突が有効なのは一体に対してのみだ。もう一体の転移魔法が封じられていないからそいつが激突対象に転移魔法を使うことが出来る。そしてその場合は激突は目標がいなくなるから効果が解除されるみたいだな」
激突を使えば倒せると思った俺の考えが甘った。
「…今回は激突対策を教えてもらったと考えて先に進もう」
気持ちを切り替えて俺たちは富士山の先に進んだ。俺たちが空を飛んでいると道に時代劇で見かけるような団子の茶屋があった。
「…ヒヒーン」
「…きゅ~~」
「…さっき戦闘したしちょっと休憩するか」
一方的にやられて逃げられた戦闘だったけどな。つくづくみんなの甘え攻撃には弱いな。するとここには団子以外に予想外の物が売られていた。それがそば!しかも十割そばだ!これは食べるしかない!
長野県は信州そばで有名なところだから茶屋でそばが売られているんだろう。まさか信州そばの十割そばを食べられるとは今日は朝からついているのかいないのかわからない日だ。
「タクトお兄ちゃん。楽しそうですね」
「そんなに凄いんですか? この十割そばって」
「あぁ。そばはそば粉っていう材料を使って作るんだが、普通は粉同士をつながらせるために小麦粉を入れるんだが、十割そばは小麦粉を一切使わないで作ったそばのことなんだ」
「それは凄いものなのでございますか?」
中々伝わらないよな。
「はっきり言って俺では作れないそばだ。粉同士を繋がせる成分がないから麺にするためには高度なそば打ちの技術が必要になる。このそばが作れるのは一流のそば職人の証と言ってもいいぐらいのそばだなんだ」
「「「ほへ~」」」
わかっているのかな?暫くするとおそばと団子が来た。
「お待たせしました。十割そばとみたらし団子です」
食べる前に香りを楽しむ。十割そばの魅力は香りと味にある。そばの香りを楽しんでから麺をチェックする。麺は通常よりも太く作られている。これはつなぎを使わないから太めに麺を作っているんだ。
それじゃあ、そばつゆにつけて食べる。
「あぁ~…美味いわ…これ」
このそば粉しか使わないことで生み出されるそばの風味!これこそ十割そばだ!十割そばは俺が知る中で最も難易度が高いそばだ。品質にこだわった結果水を多く入れすぎたり、こねる時間がかかり過ぎたりしてそばの風味を失ってしまう失敗が多いと聞いたことがある。しかしこのそばは見事だ!見事としか言うしかない!
『美味しい~』
恋火たちも嬉しそうだ。スピカとジークにもあげる。スピカはかなり気に入ったらしい。スピカは野菜好きだからね。ジークも美味しそうに食べているがみたらし団子派のようだ。
俺たちはそば湯でそばつゆを割って、いただいているとこのお店の店長がやってきた。
「気に入って貰えたかい? うちのそばは」
「はい! とっても美味しかったです」
「そうかい。それは良かった。あんた、そば作りに興味があるなら俺がそば作りを学んだこの先のお店を紹介してやろうか?」
「え!? いいんですか!?」
これは非常に興味がある。でもなんでだろう?
「ここから料理場まで目と鼻の先にあるんだぞ? あんたの話は全部聞こえていたからよ。そんなにそばが好きなら紹介したくなっちまっただけさ」
うん。それは聞こえるだろうね。恥ずかしい。ということで俺は紹介状を貰って、お土産に店長が作った十割そばを買い、出発した。




