#663 アラジンの姫と九尾の報酬
俺はファリーダと共にサンドウォール砂漠の神殿に向かうとそこにはアラジンたちの姿が無かった。
「しまったな…アテナ様に場所を聞いておければ良かった」
「ネフェルの町に行ったら、大体のことがわかると思うわよ。例の用事にも関わることだし、行きましょう」
ファリーダに言われたとおり、ネフェルの町に行くと町がボロボロになっており、宮殿が無くなっていた。
「はぁ~…ジンの仕業だな」
「間違いないわね。全く…子供ね。どうするの? タクト」
「とにかくここにいるのはまずいな。とばっちりはごめんだ」
「そうね」
借金漬けにされた腹いせに町を襲ったってことだろう。俺は以前チョコレートを買ったマイリアの町に転移する。
そこで情報を集めるとやはりアラジンとジンがネフェルの町を襲ったようだ。しかも宮殿をぶっ壊し、そこにいた人たちは全滅したらしい。当然アラジンとジンは指名手配されていた。
俺たちは載っていない。まぁ、アラジンに魔法のランプを返したのは俺だが、悪いことはしていないはずだ。
しかし指名手配されているならあの神殿に逃げ込むと思うんだが…残りの村の何処かにいるんだろうが探すとなると大変だ。大事な話があったんだけどな。すると俺たちに女の子が声をかけてきた。
「あの…すみません。もしかしてタクトさんとファリーダさんですか?」
俺たちが顔を合わせる。どちらも面識がない子だった。最もベールで顔を隠しているからひょっとしたら、どこかであっているかも知れない。
「俺たちがそうだけど、君は?」
「ここでは…付いてきてください」
俺たちは村の外に案内されると彼女は顔を隠すのをやめた。
「私の名前はシェヘラザード。この町の領主の娘をしているものです」
わお。シェヘラザードはアラビアンナイトで登場するアラビアンナイトの語り手だ。
アラビアンナイトのあらすじは最初に女性不信となった王様が女性を惨殺するところから始まり、それをやめさせるためにシェヘラザードが面白い物語を聞かせ続けることで惨殺を止めるというもの。アラジンやアリババなどの話はその途中で出て来る話の一部なんだよな。
一応物語上ではシェヘラザードは王妃となっているから領主の娘であっても不思議じゃないのかな?するとシェヘラザードからとんでもない爆弾発言で飛び出した。
「それとアラジン様の…将来の妻です」
…何言っているの?この子?
俺たちはそこで事情を知った。まずアラジンたちが転移したのはシェヘラザードのところだったらしい。シェヘラザードはボロボロのアラジンとジンを治療したそうだ。
その後、アラジンは目が覚めてシェヘラザードと仲良くなるんだが、シェヘラザードがアラジンを借金付けにしたネフェルの町にいた奴の所に嫁がされてることを聞くと町をぶっ壊す代わりにシェヘラザードが欲しいとお願いしたそうだ。
領主はその条件を飲むとアラジンは約束通り、ネフェルの町をぶっ壊して現在に至る。
恐らくシェヘラザードはアラジンの物語でいうところのお姫様なんだろう。アラジンの物語では名前までは登場しないから王妃となったシェヘラザードをお姫様役に選んだってところだろうな。
その後、俺たちは町のあるお店に立ち寄り、シェヘラザードの案内で宮殿にいるアラジンと再会した。
「やぁ。タクト。やっぱりこの町に来たんだね」
「あぁ。お前たちにお礼と用事があったからな」
「お礼ならいいよ! ボクはシェヘラザードという最高の奥さんと出会えたからね!」
「アラジン様…」
ラブラブそうで何よりだ。何よりまた豪遊生活をしていて良かった。
「それで用事ってなんだ? ネフェルの町のことか?」
「それは俺の知ったことじゃない。もしとばっちりを受けていたら、お前たちに言いたいことは山ほどあるけどな。今日は別の用件だ」
「なんだ?」
俺はアラジンに紙を渡す。するとアラジンは固まる。
「…何これ? 借金の請求書?」
「ちょっと待て。借金はお前が肩代わりしたはず」
そこでジンも気が付いた。そう肩代わりということはアラジンの借金は俺に移動しただけということだ。当然請求する権利がある。
「待って待って! これは魔神と戦って無くなったはず」
「思い出せよ。俺は魔法のランプを返す代わりに戦って欲しいと言ったはずだ。だからちゃんと魔法のランプ代は請求書には書かれていない」
「た、確かに…でも五千万って」
「これでも譲歩したんだぞ? 文句があるならお前たちが倒した奴に言え。請求してきたのは向こうで俺じゃない」
一億を請求しても良かったんだ。正確な金額を知る術は失われてしまったからな。半額の請求に留めたのは俺なりのアンラ・マンユと戦ってくれたお礼だ。
その後、俺は領主さんからお金をいただき、アラジンの短かった豪遊生活は終わりを迎えた。流石に働いて領主さんにお金を返さないとまずいからね。シェヘラザードがいる限り、逃げ出すことは出来ないだろう。いや、アラジンならやりそうか…ま、どうなっても知らないや。
俺は一旦フリーティアに帰り、お金を預けると今度は恋火と和狐を連れて九尾の社に向かうことにした。すると社が新品になっていた。
「新しく建てたみたいどすな~」
「新品で綺麗です!」
確かに綺麗なのだが、古めかしい鳥居などで歴史や神秘性を感じてしまう俺としてはちょっと残念。
掃除していた巫女の狐のセリアンビーストたちが慌てて葛葉ちゃんを呼んできた。
「い、いらっしゃい! タクト様に恋火ちゃん、和狐ちゃん。九尾様が報酬を用意して待ってますよ。…ちょっとあれですけど」
今、ボソッと何言った!?凄く不安になるんだが…俺たちは葛葉の案内で九尾と面会する。
「よく来たな! 早速俺様を助けた礼と村の奴らを助けてくれた礼だ。あれを持ってこい!」
九尾の補佐のセリアンビーストたちが白い布で隠されたおれと同じサイズぐらいの物を持ってくる。なんだこれは?
「ふふん。これは驚くぞ。刮目せよ!」
九尾が自信満々で白い布を外す。
「ゴ、ゴールデン…」
そうとしか言えない。白い布から出てきたのは黄金の九尾の像だった。何故か裸で腰に手を当て、指を指すポーズを取っていた。
尻尾で隠れるべき所は隠れているが手で隠す気がないその姿は堂々としている。
「…」
しかし、恋火には刺激が強すぎて意識を失い倒れてしまった。
「恋火!? しっかりしい。 九尾様! なんなんどす! これは!」
「どこからどう見ても俺様の像だろうが! お前の家に像があっただろう?」
昔あったね。壊したけど。
「あそこにこの俺様の像を置くと指がここを指すように作られているのだ!」
無駄に力を入れたことはよーくわかった。
「こんな像を庭に飾れるわけありまへん! 皆もなんで止めなかったんどす!」
『九尾様が楽しそうに作っていたから…』
和狐が崩れ落ちる。しっかりしろよ。
「ま、これはほんの遊びだ。本題はこいつだ。持って来い」
九尾の補佐をしているセリアンビーストたちが持ってきたのは小さな社だ。
九尾の社:重要アイテム
効果:九尾たちが転移可能。お供えが可能。ホームの保護
ホームに設置することが出来る小さな九尾の社。設置すると九尾たちが転移可能となり、ホームに九尾の結界が貼られる。更に九尾にお供え物が出来るようになる。
これって…暗にお供えしろという催促じゃないのか?
「これは俺様の社でな。お供え出来るだけでなく、転移まで可能とするものだ。トレントの森にも設置し直したがお前たちの家に設置したほうがいいと思ってな。特別に用意した」
「それはありがたいのですが…」
「これって皆はんがうちらの家にいつでも来るということと違いますか?」
「何か問題あるか?」
ありすぎだ。すると和狐が頭が上がらない人が話す。
「一応この社を設置すれば九尾様の結界が貼られます。もちろん皆さんには影響がない特別な結界なんですよ。こう見えて九尾様は和狐たちのことを心配しているんです」
「…ほんまはうちらのホームを利用できれば簡単にフリーティアの王都に行けるから便利と思ってまへんか?」
なるほど。そういう側面もあるのか。確かに便利になるだろうな。
「ないとは言えません。でも何かあれば駆けつけやすくなるのも事実です」
「はぁ…わかりました。実際にアジ・ダハーカに攻撃されましたし、守ってくださるならホームに設置しようと思います」
「決まりだな。それとこれだ」
九尾が取り出したのは紫色に輝く石だった。鑑定する。
殺生石:レア度9 素材 品質A
九尾の力が宿った石。別名生き物を殺す石と言われ、対人の武器において極めて強い効果を発揮する。ただし極めて強い毒を発しているため、取り扱いが難しく、呪われた武器になることがあるので、注意が必要。
おぉ!栃木県の那須湯本温泉付近に実在している溶岩だ。九尾として登場する玉藻前伝説で玉藻前が討伐された後にこの殺生石になるんだ。
「こいつは殺生石と言ってな。九尾の力が宿っている石だ。これを村を助けたお前たち全員にやる」
お、メルたちの分も貰えた。帰ったら、渡そう。
「それとこれは俺様を助けた褒美だ」
九尾が取り出したのは勾玉だった。
九尾の勾玉:レア度9 アクセサリー 品質A
効果:仙術効果アップ(極)、神道魔術効果アップ(極)、妖術効果アップ(極)、火属性効果アップ(極)
狐のセリアンビースト専用装備。九尾の力が宿った勾玉のネックレス。仙術、神道魔術、妖術の効果が上昇する特殊な効果があり、狐のセリアンビーストには必須装備の一つ。
九尾が話す。
「こいつを和狐とそこで寝ている小娘の二人分やろう。これでそこの小娘も少しはまともな変化が出来るようになるだろう」
サルワ戦のことを言ってるな。参加していなかったがしっかり見ていたらしい。
「ありがとうございます」
「ふん…貰ったなら、そこの小娘を連れてさっさと帰れ」
俺は恋火をおんぶをする。最後に振り返ると九尾の像を飾っていた。メルたちがここに来たときにあれを見るのか。
俺はホームに帰り、恋火をベッドに寝かせる。その後、ホームに九尾の社を設置して、キキに毎日お供え物を頼んだ。これでいつか九尾からお礼を貰える日が来るだろう。何かわからないけどね。




